きみは優しくて嘘つきな、

こすもす

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◇第4章◇優しくて意地悪なひと

46 告白したのに

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 律は虚をつかれたような顔をして、僕を見下ろしている。

「雷から聞いたんですか」
「本当なの?」
「……」

 何も答えないということは当たっているのだろうか。

「だったらやめなよ、好きでいるの」
「え?」
「好きでいたってしょうがないじゃん。だって相手結婚してるんだろ?」
「そうだとしても、きみには意見されたくありません」
「……なにそれ」
「すみませんが、そろそろ帰ってもらえますか。きみの荷物を取ってきます」

 踵を返し、リビングに向かう律を見て胸がギュッと捩れた感覚になる。
 あの人のことは泊めて、僕にはもう帰れって。

 受験の時、親から浴びせられた鋭い言葉をうまく交わす術を身につけたから耐性が出来ているはずなのに、大好きなひとが放つ鋭い言葉には、いとも簡単に傷付く。

 律はそうやって、都合悪くなるとすぐ逃げるから話が進まないんじゃないか。
 僕はヤケになってあとを追いかけ、背後から飛びつくようにその背中を抱きしめた。

「千紘?! どうしました……」
「僕、律が好きだよ」

 ドクンドクンと、胸が高鳴る。
 ぎゅううと、1ミリの隙間もないくらいに体をくっつけて、震える手で律の服を握りしめた。

「好きだよ、律。とっくに気付いてるんだろ、僕の気持ち。なのに酷いよ、帰れとか、意見するなとかさあ……っ」

 じわじわと、胸が詰まっていっぱいになる。涙まで滲んできてしまった。
 受験で失敗しても、お金を騙し取られても泣かなかった僕なのに、律のこととなるとビックリするほど弱くなる。
 しばらくして、逡巡したのちに僕の手に手を重ねた律が静かに呟いた。

「俺も、千紘が好きですよ」

 そしてその手を体から引き剥がされた。
 反転した律は、苦笑して僕の肩に手を置いて顔を覗き込む。

「ありがとう、千紘」

 そのやわらかい笑顔と言葉は、いまの僕には酷だった。

「僕じゃダメなの?」

 僕は呆気なく振られたんだ。
 頭では分かっているのに認めたくなくて足掻いてしまうと、律が少し困ったような顔をする。

「千紘は男の子でしょう」

 もっともなことを言われて僕は唇を噛んだ。

 僕は律によって世界が塗り替えられたけど、律は違ったんだ。
 律は普通に、女の人が好きなんだ。

 自分の性別を魔法みたいに自在に変えることはできないし、他人の気持ちをコントロールするのは極めて難しいのは分かるけど。

「だったらどうして優しくするんだよ。あの時だって、今だって。もしかしたら律も僕のことをって、いつも勘違いしそうになる」

 僕はぐいと服を引いて、律のほっぺにキスをした。
 一瞬のことで逃げられなかったようで、呆然としている。

「律はあのことは何の特別感もない1個の通過点みたいに思ってるのかもしれないけど、僕はずっと忘れてないんだよ。律のせいで男の人にしか目が向かなくなっちゃったし、律に似た人を見つける度に心臓がバクバク言っちゃうし、なんか僕ばっかりが好きで、律はそんな僕に気付いててわざと揶揄ってるようにしか見えないんだよ……なんか、それって狡いし、嫌だし」

 自分で何を口走っているのか分からないけど、今にも泣き出しそうだと思っていたら本当に泣き出していた。
 一方通行過ぎて歯痒くて、どうしようもなくて。
 友達でも恋人でもない律に、僕はせめてもの願い事をぶつけた。

「……責任、取って」

 頭に浮かんできたのは、素晴くんのセリフだった。
 体の関係を持った友人とまた会えたらなんと声を掛けるかという話を僕が訊いた時。

 こんなふうにしたのはきみのせいだと言うかもしれないと、困った笑顔で言っていた素晴くんみたいに、僕も奥歯を噛み締めて律に文句を言った。
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