きみは優しくて嘘つきな、

こすもす

文字の大きさ
47 / 90
◇第4章◇優しくて意地悪なひと

47 責任を取る*

しおりを挟む
「次の日には忘れるって言ったけど、そんなのはやっぱり無理だよ。あの時に律が優しくしてくれたことを無かったことにできない。律のせいで僕は、こんな風になっちゃったんだよ……それをずっと言いたかったんだ」
「責任って? どうしたら、俺を許してくれますか」

 律は微笑しながら、僕の頬を優しく撫でて涙を拭ってくる。
 責任なんて取って欲しい訳では無いのに、もう言い直しができなかった。

 だったら、どうせ、律が手に入らないのなら。

「したいよ。あの時みたく。あの続きもしたい」
「続き?」
「あの時、最後までしようとしたら、律は『またいつか』って言ったんだよ? 僕はずっと、そのいつかを待ってる」

 律は視線を下げて、じっと身を固めていた。
 瞳が前髪に隠れて、どんな目をしているのか分からない。子供みたいなことを言う僕を宥めるための言葉を必死に選んでいるのかもしれない。

 終わったかも、と思った。
 逆の立場だったら、好きでもない相手にこんなことを言われたら重たいし、面倒だからもう会いたくないと思うかもしれない。

 ──会いたくない。
 律は僕に会うのが気まずかったのではなく、面倒になったから、昔じいちゃんにもう僕とは会いたくないと言ったのだ。
 切ないけれど今ようやく理解した。

 どうして恋というものは、楽しくて難しいのだろう。
 泣きたいくらいに律を好きになってしまったことを改めて知った。

 永遠にも感じた沈黙は実際はほんのわずかで、律は顔を上げて決意表明をした。

「分かりました。責任を取ります」
「へ……」

 途端、僕の足がふわりと宙に浮く。
 律は僕を横抱きにして、ソファーに連れていった。

 重たい荷物でも置くように、僕を少々乱暴にどさりと横たえて、獰猛な肉食獣のように獲物を捕らえるときのような鋭い目を向けてくる。

「え、律、待って」
「ただし、俺は男の体にそそられないので、申し訳ないですが最後までしたいというきみの要望には応えることができません。それ以外でしたら、千紘が望む限りさせてもらいます。それが責任を取ることになるのでしたら」

 あ、と不意を付かれたような声を上げたのは、律が僕の顔の横に手を付いて、顔を落としてきたからだ。

 ソファーに沈んだ僕の体は、深海に引き込まれたかのように身動きが取れなくなる。
 律をこうして見上げただけで、身体が簡単にあの時のことを思い出す。

 衣擦れの音、乱れた浴衣。
 律の首のホクロ。

 その大きな手で──
 2人で向かい合って、シた。

 そう思っただけで腹の奥が熱くなり、何かがじわりと滲み出るのを感じた。

 拒もうとしても体は素直だ。
 律の顔が僕の鎖骨めがけて降ってきたので、その肩を押し返す。

「律、ダメだよ……っ」

 たしかに僕からお願いしたことなんだけど、まさかすぐにこうなるとは思わなかった。
 だって隣の部屋には。

「り、律ってば……うぁっ」

 急に左の鎖骨をペロリと舐められて、上擦った声を上げてしまった。

 慌てて両手で口を塞ぐと、律が赤い舌を出しながら小さく笑う。

「声を出したかったら出してもいいですよ」
「だ、ダメだよ、雷さんが」
「もう寝ていますよ。彼はアルコールが入ると眠りが深くなる人ですから」
「やだって、律……っ」

 律の繊細で器用な指先が、僕のシャツの上から胸の尖りを捉える。
 ほんの少しかすっただけなのに、僕は大袈裟なくらいにびくんと肩を跳ねさせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました【完結】

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

エリート上司に完全に落とされるまで

琴音
BL
大手食品会社営業の楠木 智也(26)はある日会社の上司一ノ瀬 和樹(34)に告白されて付き合うことになった。 彼は会社ではよくわかんない、掴みどころのない不思議な人だった。スペックは申し分なく有能。いつもニコニコしててチームの空気はいい。俺はそんな彼が分からなくて距離を置いていたんだ。まあ、俺は問題児と会社では思われてるから、変にみんなと仲良くなりたいとも思ってはいなかった。その事情は一ノ瀬は知っている。なのに告白してくるとはいい度胸だと思う。 そんな彼と俺は上手くやれるのか不安の中スタート。俺は彼との付き合いの中で苦悩し、愛されて溺れていったんだ。 社会人同士の年の差カップルのお話です。智也は優柔不断で行き当たりばったり。自分の心すらよくわかってない。そんな智也を和樹は溺愛する。自分の男の本能をくすぐる智也が愛しくて堪らなくて、自分を知って欲しいが先行し過ぎていた。結果智也が不安に思っていることを見落とし、智也去ってしまう結果に。この後和樹は智也を取り戻せるのか。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】恋人になりたかった

ivy
BL
初めてのキスは、 すべてが始まった合図だと思っていた。 優しい大地と過ごす時間は、 律にとって特別で、 手放したくないものになっていく。 けれど……

2度目の恋 ~忘れられない1度目の恋~

青ムギ
BL
「俺は、生涯お前しか愛さない。」 その言葉を言われたのが社会人2年目の春。 あの時は、確かに俺達には愛が存在していた。 だが、今はー 「仕事が忙しいから先に寝ててくれ。」 「今忙しいんだ。お前に構ってられない。」 冷たく突き放すような言葉ばかりを言って家を空ける日が多くなる。 貴方の視界に、俺は映らないー。 2人の記念日もずっと1人で祝っている。 あの人を想う一方通行の「愛」は苦しく、俺の心を蝕んでいく。 そんなある日、体の不調で病院を受診した際医者から余命宣告を受ける。 あの人の電話はいつも着信拒否。診断結果を伝えようにも伝えられない。 ーもういっそ秘密にしたまま、過ごそうかな。ー ※主人公が悲しい目にあいます。素敵な人に出会わせたいです。 表紙のイラストは、Picrew様の[君の世界メーカー]マサキ様からお借りしました。

透けるほどうすい/溶けるほどあつい

鴻上縞
BL
 日々何をするでもなく適当に生きていた真柴久志が知人の紹介で入った会社で真柴の教育係になった堂前哲は、仕事は出来るが口調は荒く乱暴で無愛想な取っ付きづらい男だった。しかし歓迎会の席で明かされた哲の驚くべき過去は、真柴の若い好奇心を掻き立てた。  歓迎会の後、真柴は好奇心を抑えきれず、酔に任せて哲に手を出してしまう。  一夜明けて酔いが覚め、気まずさを抱え一応謝罪をしたものの、哲の態度が負けず嫌いな真柴に火を付けて────。  足場鳶職人達の、身体から始まる軽薄で微かに純情な恋物語。

【完結・BL】胃袋と掴まれただけでなく、心も身体も掴まれそうなんだが!?【弁当屋×サラリーマン】

彩華
BL
 俺の名前は水野圭。年は25。 自慢じゃないが、年齢=彼女いない歴。まだ魔法使いになるまでには、余裕がある年。人並の人生を歩んでいるが、これといった楽しみが無い。ただ食べることは好きなので、せめて夕食くらいは……と美味しい弁当を買ったりしているつもりだが!(結局弁当なのかというのは、お愛嬌ということで) だがそんなある日。いつものスーパーで弁当を買えなかった俺はワンチャンいつもと違う店に寄ってみたが……────。 凄い! 美味そうな弁当が並んでいる!  凄い! 店員もイケメン! と、実は穴場? な店を見つけたわけで。 (今度からこの店で弁当を買おう) 浮かれていた俺は、夕飯は美味い弁当を食べれてハッピ~! な日々。店員さんにも顔を覚えられ、名前を聞かれ……? 「胃袋掴みたいなぁ」 その一言が、どんな意味があったなんて、俺は知る由もなかった。 ****** そんな感じの健全なBLを緩く、短く出来ればいいなと思っています お気軽にコメント頂けると嬉しいです ■表紙お借りしました

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

処理中です...