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◇第6章◇優しくて不器用なひと
67 代わりはいない
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どうしよう、このまま1人でいたら、感情の波に溺れてどうにかなってしまいそうだ。
僕はスマホを取り出して、迷いなく素晴くんに電話を掛けた。
『もしもーし』
「……」
『あれ、聞こえる? 千紘くん? もしもーし』
「……っ」
底抜けに明るい声を聞いたら、なぜだかますます泣けてきた。
律に背中を押されてカンニングのことを素晴くんに謝れたこと、帰りに律のバイクの後部座席に乗ったこと、マンションで色々と恥ずかしい格好をさせられたことなどがフラッシュバックして、どうにもならなくなった。
『え、千紘くん、もしかして泣いてる?! どうかしたの?!』
狼狽した声を出されて咄嗟に「大丈夫」と涙声で伝えた。
ぜんぜん大丈夫じゃない。
「素晴くん……いきなりだけど、これから会える?」
『うんうん、会えるよ! 今どこにいるの?』
駅が見えていたので、僕が素晴くんの住んでいる街へ移動することにした。
特に何をするわけでもなく、駅前のカフェにいたのだという彼にそのまま待っていてもらうことにした。
電車の中はそれなりに混雑していて、僕はドア付近に立って俯いていた。
泣き顔を誰かに見られたら嫌だなと思っていたけど、誰も気にしていなかった。
手すりや吊革にはまだ触れないので、扉に体の片側だけ寄りかかる。
吐き出されるように電車から降り、素晴くんのいるところへ向かう。
彼は待ち構えていたように、僕が店の自動ドアを通ってすぐ、奥のテーブル席から手招きをしてくれた。
「だ、大丈夫?」
無言で向かいの席に腰を下ろすと、様子のおかしい僕に素晴くんが瞠目する。
僕が何も答えないから、こうなっている理由を見つけ出そうと思案していた。
「律さんと、何かあったの?」
少し怯えるような顔で、そう訊ねられる。
「素晴くん……」
「うん、何?」
「律は、ノンケじゃなかったんだって」
「え?」
「……単に、僕のことがぁ……」
だーっという効果音がぴったりなくらいに、両目から涙が溢れる。決壊したダムのごとく。
「うわぁ……」
素晴くんの、ちょっと引き気味な顔がちらりと目の端で見えた。
それは今の僕と律、どちらに対しての反応かは分からないが、困惑させてしまったことに間違いない。
申し訳ないと思いつつ、僕は何度も「ごめんね」を繰り返した。
「こんなこと言われても、困るって分かってる、んだけど」
嗚咽混じりに切れ切れに言えば、隣の席からも注目されて途端に恥ずかしくなってくる。
「困らないよ、全然。とりあえず、泣くだけ泣いてスッキリしよっか! 話はそれからだー!」
ところが素晴くんは、周りの目なんて気にせずに笑い飛ばしている。
まるで周りの人も巻き込んで、みんなで僕を慰めようと誘っているように見えて、ほんの少し涙は引っ込んで笑えた。
僕がもし、素晴くんを好きになれたら。
きっと毎日が楽しいだろうな。
僕が落ち込んでもドンと構えてくれるほどのポジティブさがあって、僕も釣られて笑って。
ふと、そういう未来もあってもいいかと頭をよぎったけれど、黒髪の男の顔が浮かび、すぐに打ち消された。
律、律。
律の代わりはいない。
振られたのに、もう会えないって分かっているのに、僕はずっと律が好きだ。
僕はスマホを取り出して、迷いなく素晴くんに電話を掛けた。
『もしもーし』
「……」
『あれ、聞こえる? 千紘くん? もしもーし』
「……っ」
底抜けに明るい声を聞いたら、なぜだかますます泣けてきた。
律に背中を押されてカンニングのことを素晴くんに謝れたこと、帰りに律のバイクの後部座席に乗ったこと、マンションで色々と恥ずかしい格好をさせられたことなどがフラッシュバックして、どうにもならなくなった。
『え、千紘くん、もしかして泣いてる?! どうかしたの?!』
狼狽した声を出されて咄嗟に「大丈夫」と涙声で伝えた。
ぜんぜん大丈夫じゃない。
「素晴くん……いきなりだけど、これから会える?」
『うんうん、会えるよ! 今どこにいるの?』
駅が見えていたので、僕が素晴くんの住んでいる街へ移動することにした。
特に何をするわけでもなく、駅前のカフェにいたのだという彼にそのまま待っていてもらうことにした。
電車の中はそれなりに混雑していて、僕はドア付近に立って俯いていた。
泣き顔を誰かに見られたら嫌だなと思っていたけど、誰も気にしていなかった。
手すりや吊革にはまだ触れないので、扉に体の片側だけ寄りかかる。
吐き出されるように電車から降り、素晴くんのいるところへ向かう。
彼は待ち構えていたように、僕が店の自動ドアを通ってすぐ、奥のテーブル席から手招きをしてくれた。
「だ、大丈夫?」
無言で向かいの席に腰を下ろすと、様子のおかしい僕に素晴くんが瞠目する。
僕が何も答えないから、こうなっている理由を見つけ出そうと思案していた。
「律さんと、何かあったの?」
少し怯えるような顔で、そう訊ねられる。
「素晴くん……」
「うん、何?」
「律は、ノンケじゃなかったんだって」
「え?」
「……単に、僕のことがぁ……」
だーっという効果音がぴったりなくらいに、両目から涙が溢れる。決壊したダムのごとく。
「うわぁ……」
素晴くんの、ちょっと引き気味な顔がちらりと目の端で見えた。
それは今の僕と律、どちらに対しての反応かは分からないが、困惑させてしまったことに間違いない。
申し訳ないと思いつつ、僕は何度も「ごめんね」を繰り返した。
「こんなこと言われても、困るって分かってる、んだけど」
嗚咽混じりに切れ切れに言えば、隣の席からも注目されて途端に恥ずかしくなってくる。
「困らないよ、全然。とりあえず、泣くだけ泣いてスッキリしよっか! 話はそれからだー!」
ところが素晴くんは、周りの目なんて気にせずに笑い飛ばしている。
まるで周りの人も巻き込んで、みんなで僕を慰めようと誘っているように見えて、ほんの少し涙は引っ込んで笑えた。
僕がもし、素晴くんを好きになれたら。
きっと毎日が楽しいだろうな。
僕が落ち込んでもドンと構えてくれるほどのポジティブさがあって、僕も釣られて笑って。
ふと、そういう未来もあってもいいかと頭をよぎったけれど、黒髪の男の顔が浮かび、すぐに打ち消された。
律、律。
律の代わりはいない。
振られたのに、もう会えないって分かっているのに、僕はずっと律が好きだ。
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