きみは優しくて嘘つきな、

こすもす

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◇第6章◇優しくて不器用なひと

71 許さん

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「ち、違うんです、これは」
「だったら何? 俺がセックスしてたら、お前にまずいことでもあるの?」

 モタモタとズボンを履き直していると、攻撃的で鋭い声が突き刺さる。
 えぇ、そんな風に言ったら余計に。

 素晴くんは彼を見上げて、両唇をギュッと噛んでいる。
 昨日、俺のことを捨てたくせに何言ってんだとでも言いたげだ。

「あ、何もしてないですっ、本当に、ちょっとふざけてたっていうか」

 僕はしどろもどろに口を挟むが、何を言ってもやぶ蛇になりそうで言葉が詰まってしまう。

 その間に彼は素晴くんの腕を取って立ち上がらせた。

 あっという間に彼の大きな腕が素晴くんの背中に回され、そして僕の目の前で堂々とキスをした。
 素晴くんは目を閉じる間もなく、ただされるがままになっている。

 僕もポカンと、呆気にとられた。

「な、何してんの……」
「許さん」

 唇が離れたタイミングで素晴くんが尋ねると、感情の読み取れないAIが言い放つ。

 そしてまた唇を塞いでいる。
 素晴くんが顎を引いても、彼の唇はどこまでも追いかけていく。

 ぷは、と素晴くんは息継ぎし、彼の胸元をドンと押した。

「……ゆ、許さんじゃなくて、何してんだって……」
「俺からもキスをしてこいと前に言ってただろ」
「だから……」

 時と場合を考えろと言いたいのだろうが、さっきから話が噛み合わないせいか、頭を抱えて黙り込む。

 瞳の奥に青い炎を宿したままの彼は、素晴くんの手を引いて玄関に向かった。
 踵を潰した状況で靴を履き、2人で部屋を出ていってしまった。

 バタン、と大きく音が鳴った茶色のドアを、僕はいつまでも見つめた。
 急な展開に言葉が出てこない。
 窓の向こうからまた、救急車のサイレンが聞こえた気がする。

「……おとなしく、帰ろっかな」

 ふふ、と笑って僕は身支度を整え、テーブルの隅に置いてあったメモ帳とボールペンを借りた。
 帰ることと、感謝の旨を書き置きして部屋を出た。

 良かった。今の僕はやさぐれてはいるが、人のしあわせを素直に喜べるくらいの感情は持ち合わせているみたいだ。
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