きみは優しくて嘘つきな、

こすもす

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◇第1章◇優しくて冷たいひと

2 おとなのもの

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「モカくんはフリーターだっけ?」
「はい」

 本当は都内の学校に通う大学3年生だ。

 僕の「モカ」というハンドルネームは受験時に服用していた睡眠改善薬から取った。眠気覚ましによく飲んだものだ。

 モカで通したかったのに「本名教えて?」と優しく聞かれて、反射的に「あ、千紘ちひろです」とバカ正直に答えてしまって後悔した。
 なるべく身バレしたくないのに。

「千紘って呼んでもいい?」
「あぁはい、もちろん」
「ふふ、なんだか君とは初めて会った気がしないな」
「ははは、そうですかー?」

 若干居心地の悪さを感じつつも愛想笑いで乗り切る。

 まぁでも、この人と疑似恋愛しているつもりで奉仕しさえすれば、お金が取り戻せるんだ。

 簡単だ。受験よりも簡単だ。
 僕はただ聞き役に徹して、介護をするつもりで臨めば問題なさそうだ。

 優しそうな人だし、何も心配はない。
 そう思ったのもつかの間、ムサシさんの足が小さな水溜りにはまった。

 バシャ、と新品に近い黒の革靴に泥がはねたのを見たムサシさんは、一気に顔をぐしゃりと歪めた。

「クソッなんだよ」

 小さく舌打ちした音が聞こえて、僕は唇を真一文字に結ぶ。

 えっと、この人は優しいはず、ですよね。
 自分に言い聞かせていた時、ふと彼の持っている紙袋の中身が目の端に映った。

 見間違いかと思い、もう一度目を凝らしてみる。

 歩きながら僕はそれに釘付けになった。
 ソレは間違いなく大人の玩具だった。
 ピンク色をしたバイブが顔を覗かせている。

「あ、これ、気付いた?」

 ムサシさんはイタズラを仕掛ける子供みたいな顔をして、持っていたショップ袋を広げて中身を見せてきた。

 僕はヒッと息を飲む。

 ピンクのバイブ以外にも、とてもここでは口に出せない大人のおもちゃがぎっしり入っていた。
 所々に突起が付いている太い棒状のもの、形は鉄アレイのちっちゃい版みたいな手のひらサイズのもの、どうやって使うのか僕には分からないような道具もある。

 どうやらこの人は、見かけによらずエロい人らしい。
 道具攻めを僕にして欲しいわけか。
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