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◇第1章◇優しくて冷たいひと
3 真っ白なものは汚したい
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「こんなに沢山、すごいですね」
「こういうのは使ったことある?」
「ないです。なので色々と教えてください」
「そう……初めてね。ますます萌えるなぁ」
ん、と違和感を感じていると、ムサシさんは独り言のようにブツブツ呟き始めた。
「気に入ってもらえるといいな……まずは拘束してから少しずつ脱がしていこう。きっと千紘はいやいやと首を振るだろうね、たまらないなぁ泣かせたくなるなぁ……いいや、妄想はこれくらいにしておこう、後のお楽しみに取っておかなくちゃ」
「あ、あの、ちょっと待ってください」
暴走するムサシさんを止めずにはいられなかった。
「あの、今日って僕がムサシさんのをするんですよね? その……ふぇ、フェラとか」
これは事前に打ち合わせしていたことだった。
キスなし、本番なしで、僕ができる限りムサシさんの要望に応えるというもの。
道具を使用することはもちろん、僕が受け側にされるなんて聞いていない。
ムサシさんは「あぁ、それなんだけど」とこともなげに言った。
「ボクは基本ネコなんだけど、君みたいな真っ白い生き物を見るとついつい汚したくなる性癖があるんだ。怖がらなくていいよ、痛いことは絶対にしないから」
───千紘が嫌なこととか、怖いことは絶対しないです。
昔、僕にそう言ったあの人の優しい笑みが一瞬で思い出された。
あれから身体や唇を誰にも触れさせていないのだと教えたら、彼は笑うかな。
「いいよね? だってお金払うのはボクの方なんだから」
思いを馳せていたが、我儘な不貞腐れた声で現実に引き戻される。
「でも……」
「キスは約束通りしないよ」
大きな横断歩道の信号が赤になったので立ち止まった。
周りはカップルが多い気がする。
少し歩けばいかがわしいホテル街だ。
この横断歩道を渡ってしまえば後戻りが出来ない。ここがデッドラインだ。
「それにさ、ボク言ったよね。将来を誓い合った彼氏と別れちゃったんだって。だから慰めてあげますって千紘から言ってきたんだよ? 覚えてるよね? お金もさ、ほんの少しだけ上乗せしてあげるから」
自分のことは棚に上げている。
初めは安心すると思っていたその笑顔が、今では気味悪く思えてきた。
無理だ。
自分がするのならまだしも、得体も知れないこの人に自身の体のあちこちを触られると想像しただけで耐えられない。
信号が青にかわる。
ムサシさんが先に踏み出したので、僕もおずおずと一歩踏み出した。
だが二歩目は、誰かに片腕を掴まれたせいで踏み出せなかった。
僕を掴んだその手は、ムサシさんとは違う男性のもの。
「おいで」
その人は僕の腕を引っ張り、人混みの中をかき分けて進んで行った。
引っ張られながら後ろを振り返ると、ムサシさんは人混みに紛れて見えなくなっていた。
元いた場所から、どんどん遠ざかっていく。
何度も転びそうになるが、男の人は歩みを止めない。
腕を引っ張られながら、僕は付いていくのがやっとだ。
「こういうのは使ったことある?」
「ないです。なので色々と教えてください」
「そう……初めてね。ますます萌えるなぁ」
ん、と違和感を感じていると、ムサシさんは独り言のようにブツブツ呟き始めた。
「気に入ってもらえるといいな……まずは拘束してから少しずつ脱がしていこう。きっと千紘はいやいやと首を振るだろうね、たまらないなぁ泣かせたくなるなぁ……いいや、妄想はこれくらいにしておこう、後のお楽しみに取っておかなくちゃ」
「あ、あの、ちょっと待ってください」
暴走するムサシさんを止めずにはいられなかった。
「あの、今日って僕がムサシさんのをするんですよね? その……ふぇ、フェラとか」
これは事前に打ち合わせしていたことだった。
キスなし、本番なしで、僕ができる限りムサシさんの要望に応えるというもの。
道具を使用することはもちろん、僕が受け側にされるなんて聞いていない。
ムサシさんは「あぁ、それなんだけど」とこともなげに言った。
「ボクは基本ネコなんだけど、君みたいな真っ白い生き物を見るとついつい汚したくなる性癖があるんだ。怖がらなくていいよ、痛いことは絶対にしないから」
───千紘が嫌なこととか、怖いことは絶対しないです。
昔、僕にそう言ったあの人の優しい笑みが一瞬で思い出された。
あれから身体や唇を誰にも触れさせていないのだと教えたら、彼は笑うかな。
「いいよね? だってお金払うのはボクの方なんだから」
思いを馳せていたが、我儘な不貞腐れた声で現実に引き戻される。
「でも……」
「キスは約束通りしないよ」
大きな横断歩道の信号が赤になったので立ち止まった。
周りはカップルが多い気がする。
少し歩けばいかがわしいホテル街だ。
この横断歩道を渡ってしまえば後戻りが出来ない。ここがデッドラインだ。
「それにさ、ボク言ったよね。将来を誓い合った彼氏と別れちゃったんだって。だから慰めてあげますって千紘から言ってきたんだよ? 覚えてるよね? お金もさ、ほんの少しだけ上乗せしてあげるから」
自分のことは棚に上げている。
初めは安心すると思っていたその笑顔が、今では気味悪く思えてきた。
無理だ。
自分がするのならまだしも、得体も知れないこの人に自身の体のあちこちを触られると想像しただけで耐えられない。
信号が青にかわる。
ムサシさんが先に踏み出したので、僕もおずおずと一歩踏み出した。
だが二歩目は、誰かに片腕を掴まれたせいで踏み出せなかった。
僕を掴んだその手は、ムサシさんとは違う男性のもの。
「おいで」
その人は僕の腕を引っ張り、人混みの中をかき分けて進んで行った。
引っ張られながら後ろを振り返ると、ムサシさんは人混みに紛れて見えなくなっていた。
元いた場所から、どんどん遠ざかっていく。
何度も転びそうになるが、男の人は歩みを止めない。
腕を引っ張られながら、僕は付いていくのがやっとだ。
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