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第63話 ひとりの夜
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「アオくん、しばらくカナメさんのところで手伝ってもらえるかな?」
アキトから不意に仕事の指示があった。
「え……」
「アキトさんからセキュリティシステムの強化で手を借りたいって連絡があったんだ。明日からカナメさんのところで作業してもらえるかな?」
「あっ、レイの身のまわりのお世話は……?」
「それは僕と新しいアシスタントで回すから、心配しなくても大丈夫だよ」
「新しく……」
「うん。その子が出社したら紹介するよ」
「……はい」
胸の奥に小さな棘のような違和感が残った。
レイからは何も聞いていない。
どうして自分に直接、説明してくれなかったのだろう。
(今日帰ったら、聞いてみよう)
そう思っていた。
けれど、その夜届いたのは「海外の取引先とオンライン会議があるから、会社に泊まる」という短い連絡だけだった。
こんなことは初めてだった。
Rrrrrr……。
不意にスマホが鳴る。画面を見ると、リョクからの着信だった。
「アオ~。今日さ、夕飯作りすぎたから、こっち来れる? 一緒に食べよ~」
「うん、わかった」
カナメとリョクの部屋は、温かみと落ち着きが調和した空間だった。
テーブルの上には料理が並び、香りが満ちている。
「わぁ、本当にたくさん。美味しそう」
「リョクが料理に凝り出してね。二人じゃ食べきれないから助かるよ。それに、明日からは君にも仕事を手伝ってもらうことになったし」
「あっ、アキトさんから聞いてます。セキュリティを強化したいって」
「そう。最近、意図的な攻撃が増えてきてる。サーバーにも負荷がかかりすぎていて」
「意図的?」
「ここにあるデータを欲しがるやつは多いからね。厄介だよ。申し訳ないけど力を貸してほしい」
「もちろんです!」
夕飯の席で、リョクの優しい笑顔とカナメの真剣な眼差しに囲まれながら、アオは少しだけ心が和らいだ。
食卓の温かさに救われる思いで、カナメとセキュリティ強化の話を続けた。
「僕、そろそろ帰るね」と席を立ち、自分の部屋へ戻った。
レイのいない初めての夜。
同じ部屋なのに、まるで別の場所のように静かで、暗く、広い。
その違和感が、寂しさを余計に募らせた。
スマホを手に取っても、レイからの連絡はない。
こちらから送ろうかと迷ったが、仕事の邪魔をしたくなくて指を止めた。
ベッドに横たわる前に、レイのTシャツを取り出した。
袖を通した瞬間、かすかに残る香りが、張り詰めた心を少しだけほぐしてくれる。
「……おやすみなさい、レイ」
か細い声とともに瞼を閉じる。
でも静まり返った部屋ではレイの温もりが感じられず、眠ることができなかった。
リョクからもらったアレを使おうか悩んでしまう。
アキトから不意に仕事の指示があった。
「え……」
「アキトさんからセキュリティシステムの強化で手を借りたいって連絡があったんだ。明日からカナメさんのところで作業してもらえるかな?」
「あっ、レイの身のまわりのお世話は……?」
「それは僕と新しいアシスタントで回すから、心配しなくても大丈夫だよ」
「新しく……」
「うん。その子が出社したら紹介するよ」
「……はい」
胸の奥に小さな棘のような違和感が残った。
レイからは何も聞いていない。
どうして自分に直接、説明してくれなかったのだろう。
(今日帰ったら、聞いてみよう)
そう思っていた。
けれど、その夜届いたのは「海外の取引先とオンライン会議があるから、会社に泊まる」という短い連絡だけだった。
こんなことは初めてだった。
Rrrrrr……。
不意にスマホが鳴る。画面を見ると、リョクからの着信だった。
「アオ~。今日さ、夕飯作りすぎたから、こっち来れる? 一緒に食べよ~」
「うん、わかった」
カナメとリョクの部屋は、温かみと落ち着きが調和した空間だった。
テーブルの上には料理が並び、香りが満ちている。
「わぁ、本当にたくさん。美味しそう」
「リョクが料理に凝り出してね。二人じゃ食べきれないから助かるよ。それに、明日からは君にも仕事を手伝ってもらうことになったし」
「あっ、アキトさんから聞いてます。セキュリティを強化したいって」
「そう。最近、意図的な攻撃が増えてきてる。サーバーにも負荷がかかりすぎていて」
「意図的?」
「ここにあるデータを欲しがるやつは多いからね。厄介だよ。申し訳ないけど力を貸してほしい」
「もちろんです!」
夕飯の席で、リョクの優しい笑顔とカナメの真剣な眼差しに囲まれながら、アオは少しだけ心が和らいだ。
食卓の温かさに救われる思いで、カナメとセキュリティ強化の話を続けた。
「僕、そろそろ帰るね」と席を立ち、自分の部屋へ戻った。
レイのいない初めての夜。
同じ部屋なのに、まるで別の場所のように静かで、暗く、広い。
その違和感が、寂しさを余計に募らせた。
スマホを手に取っても、レイからの連絡はない。
こちらから送ろうかと迷ったが、仕事の邪魔をしたくなくて指を止めた。
ベッドに横たわる前に、レイのTシャツを取り出した。
袖を通した瞬間、かすかに残る香りが、張り詰めた心を少しだけほぐしてくれる。
「……おやすみなさい、レイ」
か細い声とともに瞼を閉じる。
でも静まり返った部屋ではレイの温もりが感じられず、眠ることができなかった。
リョクからもらったアレを使おうか悩んでしまう。
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