断罪された公爵令嬢に手を差し伸べたのは、私の婚約者でした

カレイ

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4、公爵令嬢の答え

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 アドルフ様の言葉に会場内はシーンと静まり返る。そして僅かな時間差で拍手が巻き起った。

「素晴らしいわ!」
「なんて情熱的なの」
「小説みたいですね」
「アドルフ様、凄いな」

 次々にアドルフ様に対しての賞賛が飛び交う中、私は一人首を傾げる。
 ……ん?待ってください。皆さん、私とアドルフ様が婚約していること、もしかしてご存知ありませんか?
 確かに言われてみれば、こういう最低限必要な行事の時以外でアドルフ様と何かした思い出は全くない。むしろこういう時も距離を取られてきた気がする。
 過去を遡る中で、少しずつ彼の本心が見えてくる。
 ……ああ、そういうことだったのね。
 私は一人で納得した。先程なぜレイラ嬢などと他人行儀な呼び方をされたのか、彼の今までの行動を振り返る。
 全部、自分自身のためだったのだ。
 全てはアンジェリカ様に求婚するための。

「アンジェリカ様、絶対に幸せにします!」

 手を差し伸べるアドルフ様を目を見開いてみるアンジェリカ様。彼女にしては珍しく、動揺を隠しきれていないようである。
 呆気に取られた表情さえも美しいが、次第にアンジェリカ様の表情は暗くなっていく。
 驚くのも無理ないとアドルフ様が得意げに跪く中、彼女はゆっくりと口を開いた。

「……お断りします」
「なぜ!?」

 会場中が騒然とした。絶対に断れないか保留になるような状況下に置かれていたのに、アンジェリカ様が即座に首を横に振ったことは、予想だにしていなかったことだからだろう。

「もしかして僕に遠慮されているからですか?しかしその必要は……」
「違います」

 アンジェリカ様は真っ直ぐとアドルフ様の目を見る。

「あなたが、婚約者という存在がありながら私に求婚してきたからです」
「……っ!」

 アドルフ様は決まり悪そうな顔をした。
 一番触れられたくないことに一番触れられたくない人が触れたからだろう。
 今まで散々アドルフ様へ歓声を送っていた貴族たちが、恥ずかしいとばかりに口を次々と閉ざしていく。
 しかし絶望するアドルフ様の前で、アンジェリカ様はまだ話を続けた。

「仮にでも私は王族に入ろうとしていた者です。この国の全ての貴族の名前は勿論、その関係性も把握しております。ーーあなたとレイラ様は婚約者同士ですよね?」
「……はい」
「ではなぜ、あえてレイラ嬢などと他人行儀な呼び方を彼女にしたり、私の無実を証明してくれたレイラ様ではなく、貴方の方が得意げな顔をしているのでしょう。私にはそれが理解出来ません」
「…………」

 アドルフ様はもう何も言わなかった。それは自分の願いが叶わなかった悲しさというよりもむしろ、アンジェリカ様に全ての考えを見透かされたショックと言うべきだった。
 こんなに情けない婚約者を見るのは始めてだった。

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