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十話
しおりを挟むうーんと目を瞑り唸るもの状況を打破する解決策が何も思い浮かばないが、早くしなければルイスの命が危ない。
聖女だと認めようと、パッと顔を上げ、そこで私はあることに気づく。
現状を打破する解決策が、見つかったかもしれない。
「ねぇ、私が聖女だって認めたらどうなるの?」
「貴方は王城で素晴らしい生活を手に入れることになります」
「貴方たちは?」
「僕たちは、聖女を見つけた者として国王様から褒美を頂き、この公爵家を出て幸せに暮らそうと」
「なかなか良いわね。……でも、多分無理よ」
「な……」
ジオールは何故だ、とでも尋ねようとしたのだろうか。しかし次の瞬間には、ジオールに細長い影が差しこむ。スラリと伸びた長い足はジオールの頭の上から真っ直ぐと、凄まじいスピードで彼の頭へと振り下ろされる。
「あなたっ」
失神したジオールに駆け寄ろうとするアンナだが、彼女も素早く気絶させられる。娘の手によって。
実の親だというのに、ティアナは容赦がなかった。
意識を失った二人を見て、私は「はぁー」っと安堵の息を吐く。
「危なかったです。ありがとう、ティアナ。それから……ありがとうございます、サイアス様」
顔を上げたあの瞬間、冷静な判断で後ろから忍足で近づいてくるサイアス様とティアナの姿を見つけた。
アンナとジオールが気づかないように時間稼ぎをするのが自分の役割だと思ったけれど、それで正解だったようだ。
「ご無事で何よりです」
「扉が頑丈だってことを忘れていました。あいつらめ……。すみません、オデットお嬢様」
「謝らないで、お礼を言うべきはこっちなのに。それより」
私は急いでルイスの元まで近寄った。
栄養の足りていない細い体を抱きしめると、弱いながらも力一杯抱きしめ返してくれる。
「ルイス、迎えに来たわ」
「姉さん……会いたかった、会いたかった。僕、待ってたよ!」
ルイスの目に大粒の涙が浮かぶ。
小さな体でずっと辛いことに耐えて来たルイス。そんな中でもずっと私を信じて待ってくれていたことが、嬉しくて、私もつられて鼻の奥がツーンとするのを感じた。
「私もよ」
ずっと守ってあげたかった。
でも私に出来ることは少なくて。
不甲斐ない姉をずっと待っててくれたルイスを、私はただ抱きしめる。
その温もりは私がずっと欲していたもので、もっと早くこうすれば良かったと反省する。こんな私でもルイスは必要としてくれていることが嬉しくて、ただ涙ばかりが流れた。
「姉さん、ありがとう」
ルイスの呟きに、私は首を振った。
違う、違うの。
「ルイス、私の方こそ、待っていてくれてありがとう」
久しぶりに抱きしめた弟は、小さくて、力一杯抱きしめると折れてしまいそうで、でも誰よりもあたたかかった。
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