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十一話
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ルイスの涙が止み始めると、私はルイスを抱きしめる手を緩めた。
「姉さん……?」
不安そうに上目遣いでこちらを見てくる弟に微笑みかける。
「さぁ、とうとう時間がなくなってしまったわ。急いでここを脱出しましょう!」
「うん!」
思っていたより時間を使ってしまった。パーティーが終わり両親が帰宅するのも時間の問題だ。
嬉しそうに笑うルイスの頭を撫でて、サイアス様に目線をうつす。
「サイアス様……ルイスはまだ走れるような体ではありません。申し訳ありませんが」
「わかっております」
サイアス様はルイスの体を簡単に抱き上げた。
私の「力」で怪我はないものの、ろくに食事を与えられていないルイスは、この年の平均男子と比べても明らかに筋肉量が足りていなかった。
サイアス様の右腕に座るような格好で抱っこされたルイスは目を丸くする。
「あ、の」
「ありがとうございますサイアス様。ルイス、サイアス様にしっかりつかまっててね」
「行きましょう!」
ティアナの合図で一斉に走り出した。
異変に気づいた使用人が何人か追いかけてきたり、塞がってきたりするが、その度にティアナとサイアス様が上手いこと彼らを牽制していく。
ティアナが用意してくれたという馬車は人目のつかない裏庭に止められてあり、少し距離はあったが、何とか誰にも捕まらずにそこまで辿り着くことが出来た。
「ここね」
「はい、荷物も全て積んでおります」
「……さっきも思ったけれど、ティアナがいてくれて本当に良かったわ」
「嬉しい限りです」
馬車には荷物がコンパクトにまとめられていた。私のものだけでなく、ルイスのものまできちんと積まれてある。
馬車というよりは荷車のようだけれど、私たちが座るスペースは十分にあった。
そして何故かここにはサイアス様の馬も。というより、馬車に繋がれているのがサイアス様の馬なのだ。
いつのまに移動させたのだろうか。彼も国外へ行きたいと言っていたから、ついでに私たちの手助けもしてくれるつもりなのかしら。
私の心の声を感じ取ってか、サイアス様が爽やかな笑みを浮かべた。
「まぁ、細かいことはあまりお気になさらずに」
「そ、そうですよね」
何故かその目には鋭さもあって、追及するなと言われているようだった。
私が黙り込むと、サイアス様はゴホンとわざとらしい咳払いをする。
「それより、今更ですがその格好は目線のやり場に困るので……」
「あっ」
忘れていたけれど、今の私は白いワンピース姿でほぼ下着状態だった。
「お見苦しいものをすみません。ちょっと服を……」
「見苦しい?むしろ……」
私が慌てて答えると、ブツブツと何かを呟いていたサイアス様が、肩に羽織っていたマントを私の体にふわりとかけて下さる。
「良ければこれを……」
「あ、ありがとうございます」
どこまでも紳士な方だ。私が笑顔を浮かべると、サイアス様は照れ臭そうに笑った。
それから私とティアナ、それからルイスは馬車に乗り込む。
手綱を握るのはサイアス様のようで、彼のスキルの高さに驚く。
「それでは出発いたしますね」
「お願いします」
サイアス様の言葉にティアナが答え、そして馬車は動き出した。
「姉さん……?」
不安そうに上目遣いでこちらを見てくる弟に微笑みかける。
「さぁ、とうとう時間がなくなってしまったわ。急いでここを脱出しましょう!」
「うん!」
思っていたより時間を使ってしまった。パーティーが終わり両親が帰宅するのも時間の問題だ。
嬉しそうに笑うルイスの頭を撫でて、サイアス様に目線をうつす。
「サイアス様……ルイスはまだ走れるような体ではありません。申し訳ありませんが」
「わかっております」
サイアス様はルイスの体を簡単に抱き上げた。
私の「力」で怪我はないものの、ろくに食事を与えられていないルイスは、この年の平均男子と比べても明らかに筋肉量が足りていなかった。
サイアス様の右腕に座るような格好で抱っこされたルイスは目を丸くする。
「あ、の」
「ありがとうございますサイアス様。ルイス、サイアス様にしっかりつかまっててね」
「行きましょう!」
ティアナの合図で一斉に走り出した。
異変に気づいた使用人が何人か追いかけてきたり、塞がってきたりするが、その度にティアナとサイアス様が上手いこと彼らを牽制していく。
ティアナが用意してくれたという馬車は人目のつかない裏庭に止められてあり、少し距離はあったが、何とか誰にも捕まらずにそこまで辿り着くことが出来た。
「ここね」
「はい、荷物も全て積んでおります」
「……さっきも思ったけれど、ティアナがいてくれて本当に良かったわ」
「嬉しい限りです」
馬車には荷物がコンパクトにまとめられていた。私のものだけでなく、ルイスのものまできちんと積まれてある。
馬車というよりは荷車のようだけれど、私たちが座るスペースは十分にあった。
そして何故かここにはサイアス様の馬も。というより、馬車に繋がれているのがサイアス様の馬なのだ。
いつのまに移動させたのだろうか。彼も国外へ行きたいと言っていたから、ついでに私たちの手助けもしてくれるつもりなのかしら。
私の心の声を感じ取ってか、サイアス様が爽やかな笑みを浮かべた。
「まぁ、細かいことはあまりお気になさらずに」
「そ、そうですよね」
何故かその目には鋭さもあって、追及するなと言われているようだった。
私が黙り込むと、サイアス様はゴホンとわざとらしい咳払いをする。
「それより、今更ですがその格好は目線のやり場に困るので……」
「あっ」
忘れていたけれど、今の私は白いワンピース姿でほぼ下着状態だった。
「お見苦しいものをすみません。ちょっと服を……」
「見苦しい?むしろ……」
私が慌てて答えると、ブツブツと何かを呟いていたサイアス様が、肩に羽織っていたマントを私の体にふわりとかけて下さる。
「良ければこれを……」
「あ、ありがとうございます」
どこまでも紳士な方だ。私が笑顔を浮かべると、サイアス様は照れ臭そうに笑った。
それから私とティアナ、それからルイスは馬車に乗り込む。
手綱を握るのはサイアス様のようで、彼のスキルの高さに驚く。
「それでは出発いたしますね」
「お願いします」
サイアス様の言葉にティアナが答え、そして馬車は動き出した。
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