聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい

カレイ

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十二話

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 馬車はスムーズに進んでいき、隣国との国境の間にある深い森へと入っていった。
 馬車の中で私は今後のことについてティアナと話し合う。
 これからどこへ向かうか。どこにいけば安全か。金銭的な問題はどうやって解決するか。話すことは後を絶たない。
 久しぶりに外に出たからか、疲れてルイスは眠っている。私が膝枕をしている状態だ。
 穏やかな寝息を立てるルイスの頭を優しく撫でる。

「一番大事なことは、ルイスを元気に成長させること。でも、いつまた公爵家の人間に見つかるか……」
「流石に隣国に定住だと、簡単に見つかってしまいますよね」
「ええ、隣国とは友好関係を結んでいますし」
「…………」
「そうだわ。だったらいっそのこと、この国と仲の悪い……コシュール王国にする?」
「なるほど……。ですが、今からですと一ヶ月はかかるものかと」
「ならばそれを逆手に道中でお金を稼ぎましょう。幸いティアナがお金になりそうな宝石やらネックレスやらを沢山積んでくれたお陰で、宿や食事には困らないし」

 公爵家を出ていった今待ち受けるのはやはり険しい道のりだろうが、私にとっては楽しみも大きかった。
 道中で働く大変さを知り、コシュール王国で平民としてルイスを養いながら暮らせる力をつけよう。
 家を買うならそれなりの大金は用意しないといけない。

「お嬢様らしい考えですね」
「そうかしら。でもまずは、宝石で得たお金で美味しいものを沢山ルイスに食べさせるのが先ね」
「ルイス様をこれまでにないくらい幸せにして差し上げましょう」
「ええ!」

 私とティアナはガシッと手を合わせた。

「……ところで、サイアス様はどこに向かっているのかしら。目的地が違えばいつまでも頼るわけにはいかないし、馬車も使えなくなるんじゃないかしら」
「それなら心配は無いと思います」
「どうして?」
「サイアス様の目的地はオデットお嬢様……言い間違えました、私たちと同じコシュール王国ですから」
「そうなの?!」
 
 それは初耳だ。目的地まで被るなんて。

「それにサイアス様は、最後まで私たちを送り届けるつもりだ、と言ってくださっています」
「どこまでも優しいお方よね」
「……お嬢様は本当にニブイですよね」
「何か言った?」
「いいえ何も」

 ティアナがボソリと何かを呟いたけれど、その内容は教えてもらえなかった。
 すると、私の太ももの上に頭を預けて眠っているルイスが今度は寝言を言う。

「姉、さん……」

 穏やかに眠ってくれて良かった。夢の中でまでルイスに辛い思いをさせたくはないから。

「もう大丈夫」

 二人の間に隔てられた扉はもうない。こんな辛い経験は二度とさせてたまるかと決意を固めると同時に、愛しい弟の寝顔を見てひっそりと癒された。
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