聖女であることを隠す公爵令嬢は国外で幸せになりたい

カレイ

文字の大きさ
22 / 23

二十二話

しおりを挟む
 さて、何を作ろう。
 今ある材料は、パン、水、じゃがいもやにんじんなどの根菜類に最低限の調味料、小麦粉に塩と胡椒それから油だけだ。卵や肉はない。
 それにパンは固く顎の力が足りないルイスが食べるのには適さない。
 ……無難だけど、スープね。
 出汁は野菜で取れるし、塩胡椒で味を整えればそれなりのものが出来るはず。
 私はじゃがいも、にんじん、玉ねぎをそれぞれ適量取り出し、皮を剥き食べやすい大きさに切り始めた。
 ジャガイモの皮は土が多く付いていて手で擦るのにも取りきれなかったので出汁には使わず、他は全て出汁用に皮や芯も鍋に入れる。そして水を加えて煮込んでいく。
 途中で灰汁を取ったり出汁用の皮や芯を抜いたりして全ての具材に火が通ったら、最後の仕上げに軽く塩胡椒で味を整えた。

「うん、上出来!」

 味見をすればそれなりに美味しいと言えるくらいのスープになっていた。
 いつのまにかルイスが立ち上がって鍋の中を覗き見ている。

「わぁ、美味しそうだね」
「いっぱい食べて良いのよ、ルイス。ここまで疲れたでしょう?」
「オデットお嬢様、どうやらスープを作って下さったようで。良い香りです。片付けは私が」
「良いわよ、ティアナも疲れているんだから。ルイスと先に食べていて」

 匂いを嗅ぎつけてか、ティアナも作業を中断して私の元まで来ていた。
 ティアナが残してきた作業場を見れば、サイアス様が馬車に木で作った代理の扉をはめているところだった。
 サイアス様がこちらを見ていることに気づいて、私は口を開く。

「サイアス様に最後の仕上げをしてもらっています。作業はもう終わりです」
「そうなの。早かったわね」
「ええ。スープを飲みましたら、出発しましょう。あの馬車は流石に人目に付くところでは走ることができないので、今晩限りのものとなってしまいましたが」
「そう……」

 確かに明らかに木の扉は浮いている。馬はサイアス様の白馬だから一緒についてくるのだろうけれども、大量の荷物はどうするのだろう。

「ねぇ、荷物はどうするの?結構量があるわよ」
「明日の朝、取り敢えず隣国の下町で宝石やドレスを売るつもりです。そこである程度は減るかと」

 確かに先程少し漁った時に見えたのは、ドレスがほとんどだった。そのボリュームで荷物は膨らんでいるようだったし、それが無くなればかなり減るのかもしれない。
 ティアナが出来るだけ生活に困らないように、お金になりそうな物を積んでくれたんだわ。

「宝石やネックレスについてですが、お嬢様が大事にしている物がありましたら事前に抜いていただけると助かります」
「分かったわ」

 ティアナはしばらくして、小さな箱のような物を私に差し出した。そこには私が今まで贈り物で手にした宝石やアクセサリーがぎっしり詰まっている。
 ほとんどが元婚約者のエリオットがくれたものだった。婚約破棄する前まではそれなりに仲が良かったので大切に保管していたけれど、今となっては必要性を感じない。
 私の手元に残ったのは、ティアナが初給料を費やして私に贈ってくれた、小さなお花の飾りがついたバレッタのみ。

「やっぱり、これしか無いわよね」

 私はそれを自分の髪に付けると、他のものはしまい直して、焚き火の側にいるルイスの隣に腰掛けた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ゴースト聖女は今日までです〜お父様お義母さま、そして偽聖女の妹様、さようなら。私は魔神の妻になります〜

嘉神かろ
恋愛
 魔神を封じる一族の娘として幸せに暮していたアリシアの生活は、母が死に、継母が妹を産んだことで一変する。  妹は聖女と呼ばれ、もてはやされる一方で、アリシアは周囲に気付かれないよう、妹の影となって魔神の眷属を屠りつづける。  これから先も続くと思われたこの、妹に功績を譲る生活は、魔神の封印を補強する封魔の神儀をきっかけに思いもよらなかった方へ動き出す。

【完結】「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と言っていた婚約者と婚約破棄したいだけだったのに、なぜか聖女になってしまいました

As-me.com
恋愛
完結しました。 番外編(編集済み)と、外伝(新作)アップしました。  とある日、偶然にも婚約者が「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」とお友達に楽しそうに宣言するのを聞いてしまいました。  例え2番目でもちゃんと愛しているから結婚にはなんの問題も無いとおっしゃっていますが……そんな婚約者様がとんでもない問題児だと発覚します。  なんてことでしょう。愛も無い、信頼も無い、領地にメリットも無い。そんな無い無い尽くしの婚約者様と結婚しても幸せになれる気がしません。  ねぇ、婚約者様。私はあなたと結婚なんてしたくありませんわ。絶対婚約破棄しますから!  あなたはあなたで、1番好きな人と結婚してくださいな。 ※この作品は『「俺は2番目に好きな女と結婚するんだ」と婚約者が言っていたので、1番好きな女性と結婚させてあげることにしました。 』を書き直しています。内容はほぼ一緒ですが、細かい設定や登場人物の性格などを書き直す予定です。

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜

入多麗夜
恋愛
【完結まで執筆済!】 社交界を賑わせた婚約披露の茶会。 令嬢セリーヌ・リュミエールは、婚約者から突きつけられる。 「真実の愛を見つけたんだ」 それは、信じた誠実も、築いてきた未来も踏みにじる裏切りだった。だが、彼女は微笑んだ。 愛よりも冷たく、そして美しく。 笑顔で地獄へお送りいたします――

幼馴染を溺愛する旦那様の前からは、もう消えてあげることにします

睡蓮
恋愛
「旦那様、もう幼馴染だけを愛されればいいじゃありませんか。私はいらない存在らしいので、静かにいなくなってあげます」

神託を聞けた姉が聖女に選ばれました。私、女神様自体を見ることが出来るんですけど… (21話完結 作成済み)

京月
恋愛
両親がいない私達姉妹。 生きていくために身を粉にして働く妹マリン。 家事を全て妹の私に押し付けて、村の男の子たちと遊ぶ姉シーナ。 ある日、ゼラス教の大司祭様が我が家を訪ねてきて神託が聞けるかと質問してきた。 姉「あ、私聞けた!これから雨が降るって!!」  司祭「雨が降ってきた……!間違いない!彼女こそが聖女だ!!」 妹「…(このふわふわ浮いている女性誰だろう?)」 ※本日を持ちまして完結とさせていただきます。  更新が出来ない日があったり、時間が不定期など様々なご迷惑をおかけいたしましたが、この作品を読んでくださった皆様には感謝しかございません。  ありがとうございました。

これからもあなたが幸せでありますように。

石河 翠
恋愛
愛する男から、別の女と結婚することを告げられた主人公。彼の後ろには、黙って頭を下げる可憐な女性の姿があった。主人公は愛した男へひとつ口づけを落とし、彼の幸福を密やかに祈る。婚約破棄風の台詞から始まる、よくある悲しい恋の結末。 小説家になろうにも投稿しております。 扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。

処理中です...