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三話

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 それは妹と婚約者の会話を聞いてから数年後、やっと訪れた吉報だった。

「リディー、君は本当に馬鹿だね」

 婚約者の伯爵令息カーシスは開口一番、満面の笑みでそう口にした。
 彼の隣には私の妹のミリィが、怖がる素振りで、でも負けないぞというような目を私に向けて、カーシスの腕に抱きついている。私と同じ、緑の瞳に金髪でも、妹の美しさは私の比ではない。
 その後ろにチラリと見えたのは、妹とばかり可愛がる両親。その手には丸めた証書が一つ。
 何が起こるか予想した私は、紅茶を飲む手を止め、その出来事に向け、椅子から立ち上がった。

「ミリィはずっと耐えて来たそうだよ、君の嫌がらせに」
「嫌がらせ……?身に覚えがありませんけれど」

 私はわざとらしく首を捻ってみる。
 身に覚えがないのは事実だ。
 私の態度に、カーシスは冷静さを保ちながらも声のトーンを少し下げた。

「それはどうかな?こっちには証拠も証言も山のように取れているんだけれど」
「どのような?」

 已然として動揺しない私に、カーシスは垂れ目を細めて睨みつけて来た。

「君は動揺しないね。これくらいの嫌がらせだったら許されるとでも思っているのかな。だったらそれは大きな間違いだよ。君がミリィにして来たことは決して許されることではない」
「お姉様、どうしてわたくしのことをそれほど邪険にしますの?わたくしはいつもお姉様と仲良くしたいと思っておりましたのに」
「ミリィ、落ち着いて。僕がいるよ」

 感情が昂ったように叫んだミリィを見て、私は一つため息を吐いた。

 ……邪険にしてるのはどっちよ。そっちが家族総出で私を邪険してるくせに。そのくせ都合の良い時だけ寄ってくるから面倒くさい。せっかく作ったクッキーを勝手に取られてミリィが作ったことにされた時は、流石に家を出ようかってくらいムカついたのを思い出したわ。

 心の中で毒づいても、それを口には出さない。
 もうちょっと、あともう少しで……。

「リディー、ちゃんと聞いているの?」

 どうやら考え込んでいたせいで、話がとんでいるようだ。
 まぁ、別に聞いていようが聞いていまいが、結果は変わらないだろうからあんまり関係ないが。

「はい、聞いております」
「じゃあ、君のやったことをもう一度ちゃんと聞くんだよ。……まずは、ミリィの髪の毛を無理矢理切ったこと。君の部屋の引き出しからハサミが出てきたのでそれが証拠だ。それからミリィの一生懸命考えたお菓子のレシピをいつも盗んでいたこと。それから……」

 聞くだけ無駄だ。
 こんな出まかせ、いくら聞いてもイラつくだけ。
 しかしよくもまぁ、こんなにでっち上げられるものだなぁ。むしろ感心する。

 私はずっと下を向いて、時が流れるのを待った。
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