6 / 11
時間をください
しおりを挟む「嬉しいです!嬉しすぎてもう……ハァ、屋敷に閉じ込めてしまうかもしれません!……ああ、ずっとこの滑らかな肌に触れてみたかったんです。耐、えられません!どうしてこれほどまでに、貴方は私を狂わすのでしょう」
状況が飲み込まれない。
私は現在、されるがままに騎士団長様に強く抱きしめられた。それも後ろから。彼の厚い胸板からは心臓が多く波打つ音が聞こえる。
そして首筋の匂いをクンクンと嗅がれ、大きなゴツゴツとした手で背中を撫でられた。
その手はすぐに馬を操る手綱へと移されるが、私の時間は止まっていた。
……待って、どういうこと!?一体何が起こっているの?
ひとまず状況を整理をしよう。
私はは脳内でこの一瞬の出来事をゆっくりと再生する。
騙されて森に捨てられてどうするか嘆いていたら、サーシャの計らいで騎士団長様に助けていただいたのよね。ここまでは覚えている。その後「良ければ屋敷に来ませんか?」と言われて「ご迷惑でないならば」と答えたのだが……その途端、体を抱えられて馬に乗せられたのだ。そしてこの状況に至る。
「早くないですか!?」
展開が早すぎて付いていけない。せめて屋敷についてからだとか思ってしまうのは、私だけではないはずだ。
「もう少しゆっくり馬を走らせますね」
「いや、そうではなくて……」
馬の上で身動き一つ取れず私はせめて口だけは動かせることに気づいた。
「あのっ、一回話を……」
「限界だったんです!距離を取っていないと、自分があなたに何をしてしまうか分かりませんから……。でもサーシャ様からお話を伺って、これはチャンスだと思ったんです!」
「チャ、チャンス!?」
「ええ、ずっとあなたに、恋い焦がれておりましたから」
……えぇっ!
サーシャではなく私に?
私は驚きで思わず振り返った。至近距離で騎士団長様の顔を見ると、何やら苦しそうに歯を食いしばっている。
「あの」
「ああっ、駄目です!そんな至近距離で甘い声を聞かされると、ほ、ほんとに耐えられなく……」
「あの、いったんちょっと離して、」
ください、と言おうとしたところで私の言葉は途切れた。
「ん……!」
何故なら我慢しきれなくなった騎士団長様が私に口づけを落としたからだ。
熱を帯びた唇から痛いほど彼の愛情を伝えられ、口付けが終わるとそのまま火照った体を男に預けた。彼はいとも簡単に私を抱き止める。
クラクラとした頭では何も考えられない。
騎士団長様は私を愛おしそうに見つめると、慣れた手つきで馬を走らせ始めた。
397
あなたにおすすめの小説
婚約者が他の令嬢に微笑む時、私は惚れ薬を使った
葵 すみれ
恋愛
ポリーヌはある日、婚約者が見知らぬ令嬢と二人きりでいるところを見てしまう。
しかも、彼は見たことがないような微笑みを令嬢に向けていた。
いつも自分には冷たい彼の柔らかい態度に、ポリーヌは愕然とする。
そして、親が決めた婚約ではあったが、いつの間にか彼に恋心を抱いていたことに気づく。
落ち込むポリーヌに、妹がこれを使えと惚れ薬を渡してきた。
迷ったあげく、婚約者に惚れ薬を使うと、彼の態度は一転して溺愛してくるように。
偽りの愛とは知りながらも、ポリーヌは幸福に酔う。
しかし幸せの狭間で、惚れ薬で彼の心を縛っているのだと罪悪感を抱くポリーヌ。
悩んだ末に、惚れ薬の効果を打ち消す薬をもらうことを決意するが……。
※小説家になろうにも掲載しています
メリザンドの幸福
下菊みこと
恋愛
ドアマット系ヒロインが避難先で甘やかされるだけ。
メリザンドはとある公爵家に嫁入りする。そのメリザンドのあまりの様子に、悪女だとの噂を聞いて警戒していた使用人たちは大慌てでパン粥を作って食べさせる。なんか聞いてたのと違うと思っていたら、当主でありメリザンドの旦那である公爵から事の次第を聞いてちゃんと保護しないとと庇護欲剥き出しになる使用人たち。
メリザンドは公爵家で幸せになれるのか?
小説家になろう様でも投稿しています。
蛇足かもしれませんが追加シナリオ投稿しました。よろしければお付き合いください。
どうせ運命の番に出会う婚約者に捨てられる運命なら、最高に良い男に育ててから捨てられてやろうってお話
下菊みこと
恋愛
運命の番に出会って自分を捨てるだろう婚約者を、とびきりの良い男に育てて捨てられに行く気満々の悪役令嬢のお話。
御都合主義のハッピーエンド。
小説家になろう様でも投稿しています。
執着のなさそうだった男と別れて、よりを戻すだけの話。
椎茸
恋愛
伯爵ユリアナは、学園イチ人気の侯爵令息レオポルドとお付き合いをしていた。しかし、次第に、レオポルドが周囲に平等に優しいところに思うことができて、別れを決断する。
ユリアナはあっさりと別れが成立するものと思っていたが、どうやらレオポルドの様子が変で…?
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました
Karamimi
恋愛
9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。
順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。
特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。
そんなアメリアに対し、オスカーは…
とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
恋心を封印したら、なぜか幼馴染みがヤンデレになりました?
夕立悠理
恋愛
ずっと、幼馴染みのマカリのことが好きだったヴィオラ。
けれど、マカリはちっとも振り向いてくれない。
このまま勝手に好きで居続けるのも迷惑だろうと、ヴィオラは育った町をでる。
なんとか、王都での仕事も見つけ、新しい生活は順風満帆──かと思いきや。
なんと、王都だけは死んでもいかないといっていたマカリが、ヴィオラを追ってきて……。
愛を知らないアレと呼ばれる私ですが……
ミィタソ
恋愛
伯爵家の次女——エミリア・ミーティアは、優秀な姉のマリーザと比較され、アレと呼ばれて馬鹿にされていた。
ある日のパーティで、両親に連れられて行った先で出会ったのは、アグナバル侯爵家の一人息子レオン。
そこで両親に告げられたのは、婚約という衝撃の二文字だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる