今さら救いの手とかいらないのですが……

カレイ

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11話

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 オデットがルイーズに確認を取ると、本当にシェリーシアは王太子殿下に接近しているようだった。

「呆れた……噂は事実なのね」
「ああ。しかし彼奴に絡まれた時のマリウスは、それはそれは酷い顔をしていてな。つい笑ってしまうほどだったぞ」

 その時のことを思い出したのか、ルイーズはフッと吹き出す。
 オデットの予想通り、ルイーズはシェリーシアなど全く相手にしていない様子であった。
 むしろ彼女に絡まれる王太子殿下の様子を見て笑いの壺に入るのだから、心配するまでも無いようだ。

「良かったわ。さすがルイーゼというところだけれど」
「いや、私は何もしていない。あれは男の心の強さが問題だからな」

 テオドールの心の弱さ。
 ルイーズにそう言われれば、心底にある自分への不甲斐なさが、幾分か軽くなる気がする。やはり、ショックはショックだったから。
 結婚する前にテオドールの本性が垣間見えて存外良かったのだ。
 うんうんとオデットは頷いた。

「マリウス王太子殿下なら全く心配ないわね。杞憂だったわ」
「いや、知らせてくれたこと感謝する。心配されるのは嬉しいものだ」

 ルイーズは満足そうだ。
 婚約者が狙われているというのに取り乱さずオデットにまで感謝を述べる。
 その心の余裕さを見習おう。
 オデットが改めてそう決めた時「ふむ……」とルイーズが呟く。

「しかしあの女、やっと本性を出したか。ああいう奴は勝手に自爆していくものだから、何もする必要はないな。テオドール公爵令息は上手くいったのが余程自信になったのだろう。彼が特殊だっただけというのに」
「ふふ、自爆って……」
「既にシェリーシアの評価は崩れ始めている。テオドール公爵令息が現実を見る日も近いほどに」

 深窓の令嬢のイメージが壊れたからだろうか。儚げな雰囲気が信者を取り込んでいたのに、今では欲が内面から滲み出ているのだろう。

「最近でも、やけにしつこく話しかけてきたり、道を塞いできたり、ぶつかろうとしてきたり、色々なことをしてくるけれど、全部見ないふりをしていたから会話することもなかったし。あ、でも女生徒たちから謝罪されたわ。王太子殿下のことも、彼女たちから聞いたの」

 オデットがそう言えば、ルイーズは「オデットに嫌がらせの罪をなすりつけた五人の令嬢か?」と尋ねてくる。
 彼女たちの顔をぼんやりとしか覚えておらず人数も曖昧だったので、オデットは「多分そう」とだけ返した。

「オデットも災難にな。しかしなぜあの二人の浮気はあそこまで支持されたんだろうな。生徒たちもそこまでオツムの弱い人間には思えなかったが」

 この学園は貴族がほとんどで、幼少期から良い教育を与えてもらった人ばかりが集まっている。
 そんな頭の固い彼らなりの事の見方。

「さぁねぇ、浪漫があるとでも思っていたんじゃない?分からないけど、傍観している身からすれば”禁断の愛”は甘美なものだったんでしょうね。せめて自分は応援したいと思うようになるのも無理はないわ」

 堅苦しい生活の中で現れた甘い刺激。 
 味わない選択肢なんてなかっただろう。

「そういうものか。自分は関係ない。物語を見ているような感覚だったのか。それかヒーローとヒロインの手助けを出来る喜びを感じていたのかもな」
「おそらくね。それに私も阿呆だったからうまいこと悪役になっちゃったのよ。でも私が成敗されて物語がいざ終わると、みんなちょっと冷静になったのかも」
「オデットが間違ってたことをしていたことは、普通に見てればないが……そうか、そういうことなら説明がつくな。ヒロインを援助したい気持ちも分からないことはない」

 何故そこでヒロイン限定なのかは分からなかったが、ルイーズが意味深な微笑みを浮かべるので、オデットもぎこちなく微笑みを返しておいた。
 
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