殿下は地味令嬢に弱いようなので、婚約者の私は退散することにします

カレイ

文字の大きさ
2 / 16

どうぞお幸せに

しおりを挟む

「え?」
「ちょっ、レベッカ!?」

 レベッカの言葉に二人の動きが止まった。二人は目を見開いてレベッカを見る。しかしその表情には違いが。殿下の顔には戸惑いが、クロエの顔には喜びの色が浮かんでいる。

「ですから婚約を解消致しましょう。そうです、初めからこうすれば良かったのです」

 驚く二人など目もくれずレベッカは相槌を打った。
 そうと決まれば早速あの人に報告だ。
 この場を去ろうとレベッカは口を開く。

「では私は行く場所が出来たのでこれで去りますね」
「えっ、レベッカ? ちょっと待って」

 殿下が引き止める声も聞かず、レベッカは去っていく。

「待って、レベッカ。それは違くないか? 僕の婚約者はレベッカであってそれはこれからも……」
「私じゃなくても別にお困りにはならないでしょう?それにクロエさんは別れて欲しそうですしねぇ」

 振り返ってレベッカはそう言った。
 レベッカがクロエに視線を向けると、彼女は慌てて表情を元の頼りないものへと戻し、悲しそうな顔をする。

「ご、誤解しないでください。私はっ」
「もう面倒臭いのです。いっそのことクロエさんが殿下の婚約者になって差し上げたらどうです?クロエさんでしたら身分も問題ないと思いますよ。それに何より、私よりずっと殿下を想っているそうですし」
「クロエが私を想っている?」
「ええ」

 レベッカの言葉にクロエは頬を染めた。チラチラと殿下を見る様子はまさに恋する乙女と表現するのがふさわしい。きっと彼女もこういう展開を望んでいたのだろう。
 婚約解消すれば、こうやってクロエに構われることもなくなると思うと、前よりずっと自由になれる気がする。
 もううんざりなのだ。殿下の婚約者というだけで、彼女に何かと変な対応をされるのは。
 レベッカの前でわざと転んで見せたり、やってることも幼稚で本音を言えば相手にすらしたくない。
 殿下の婚約者という肩書きによって関わりたくなくても関わらなくてはいけない。それはレベッカにとって結構なストレスだった。

「殿下も私よりクロエさんの方が大切なようですし。確かに口うるさい私よりも健気で可愛らしいクロエさんの方が守ってあげたくなりますものねぇ」
「そんなこと……」
「だった一目見ただけで、私がクロエさんを虐めると思うくらいですからねぇ。でも「謝れ」は酷いでしょう」
「それは、咄嗟のことで僕も……」
「良いんですよ。いずれにしたって邪魔者はもう退散するんですから。どうぞお幸せに」
「待ってレベッカ!だったら本当のことを教えてくれ。僕が間違っていたのなら謝る。僕にもわかるように説明してくれ!」

 殿下の呼びかけには応ぜず、レベッカは身を翻してその場を去った。
 向かうはこの婚約を結んだ張本人……国王陛下のところだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

婚約破棄した相手が付き纏ってきます。

沙耶
恋愛
「どうして分かってくれないのですか…」 最近婚約者に恋人がいるとよくない噂がたっており、気をつけてほしいと注意したガーネット。しかし婚約者のアベールは 「友人と仲良くするのが何が悪い! いちいち口うるさいお前とはやっていけない!婚約破棄だ!」 「わかりました」 「え…」 スッと婚約破棄の書類を出してきたガーネット。 アベールは自分が言った手前断れる雰囲気ではなくサインしてしまった。 勢いでガーネットと婚約破棄してしまったアベール。 本当は、愛していたのに…

婚約解消したら後悔しました

せいめ
恋愛
 別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。  婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。  ご都合主義です。ゆるい設定です。  誤字脱字お許しください。  

【完結】亡くなった人を愛する貴方を、愛し続ける事はできませんでした

凛蓮月
恋愛
【おかげさまで完全完結致しました。閲覧頂きありがとうございます】 いつか見た、貴方と婚約者の仲睦まじい姿。 婚約者を失い悲しみにくれている貴方と新たに婚約をした私。 貴方は私を愛する事は無いと言ったけれど、私は貴方をお慕いしておりました。 例え貴方が今でも、亡くなった婚約者の女性を愛していても。 私は貴方が生きてさえいれば それで良いと思っていたのです──。 【早速のホトラン入りありがとうございます!】 ※作者の脳内異世界のお話です。 ※小説家になろうにも同時掲載しています。 ※諸事情により感想欄は閉じています。詳しくは近況ボードをご覧下さい。(追記12/31〜1/2迄受付る事に致しました)

婚約者の幼馴染って、つまりは赤の他人でしょう?そんなにその人が大切なら、自分のお金で養えよ。貴方との婚約、破棄してあげるから、他

猿喰 森繁
恋愛
完結した短編まとめました。 大体1万文字以内なので、空いた時間に気楽に読んでもらえると嬉しいです。

婚約者をないがしろにする人はいりません

にいるず
恋愛
 公爵令嬢ナリス・レリフォルは、侯爵子息であるカリロン・サクストンと婚約している。カリロンは社交界でも有名な美男子だ。それに引き換えナリスは平凡でとりえは高い身分だけ。カリロンは、社交界で浮名を流しまくっていたものの今では、唯一の女性を見つけたらしい。子爵令嬢のライザ・フュームだ。  ナリスは今日の王家主催のパーティーで決意した。婚約破棄することを。侯爵家でもないがしろにされ婚約者からも冷たい仕打ちしか受けない。もう我慢できない。今でもカリロンとライザは誰はばかることなくいっしょにいる。そのせいで自分は周りに格好の話題を提供して、今日の陰の主役になってしまったというのに。  そう思っていると、昔からの幼馴染であるこの国の次期国王となるジョイナス王子が、ナリスのもとにやってきた。どうやらダンスを一緒に踊ってくれるようだ。この好奇の視線から助けてくれるらしい。彼には隣国に婚約者がいる。昔は彼と婚約するものだと思っていたのに。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜

腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。 「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。 エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。

処理中です...