殿下は地味令嬢に弱いようなので、婚約者の私は退散することにします

カレイ

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※勘違い(王太子視点)

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「クロエ、これはどういうこと?」
「あ……」

 残された僕はレベッカの背中が完全に見えなくなると、クロエを振り返った。あくまで王太子として冷静に、彼女を怖がらせないように笑顔を浮かべて。
 しかしクロエはビクッと肩をふるわせ顔を俯かせて何も答えない。
 それでも僕は彼女に問うた。

「さっきは何を話していたの?怒らないから教えて。レベッカに僕と別れてって言ったの?」

 優しい口調がむしろ責められているように感じたのか、クロエは今にも泣きそうな顔をした。
 ……泣かせてはいけない!
 クロエの境遇は散々なものだった。幸せから程遠い生活を送る彼女を幸せにしてあげたい気持ちは大きい、というより弱者を救う、それが王太子である自分の義務だと思っている。
 だから彼女を傷つけるようなことはしたくない。

「怒らないから、聞かせてほしい。ゆっくりで良いから話して欲しいんだ。レベッカが君を呼び出したんじゃなくて、君がレベッカを呼び出したのか、クロエ」
「…………」

 ……駄目だ、話し出す気配がない。
 そう思った時、クロエの小さな唇が小さく震えた。

「……そうです。だってアラン様、レベッカ様にいつも冷たい態度を取られていたから……。もっと優しくしてあげて下さいって言ったんです」

 僕がレベッカに冷たい態度を取られている?
 違う、確かに厳しい口調の時もあるけど、それは僕のことを思ったうえでの行動だ。
 クロエに対しての態度はもう少し優しくして欲しかったが、それ以外に関してはレベッカは最高のパートナーといか言いようがなかった。

「それは違うよ」
「え、でもいつも、地味令嬢なんか気にかけても意味はない。王太子なのだから付き合う相手をちゃんと選べ、とか言われていましたよね?私のことは別に良いんですけど、殿下まで悪く言われていると思うとショックで……。だからカッとなってつい別れてくださいなんて言ってしまって……」
「待って。何を言ってるの?レベッカは一つのものに惑わされずに広い視点で物事を見るべきだ、としか言ってないよ」

 つい口調が強くなってしまった僕に、クロエは顔を歪ませた。

「ごめんなさい……私なんかが出しゃばって……」
「責めているわけじゃないよ。でも勘違いをしないでほしくてつい」
「良いんです、私もう殿下に近づきませんからっ。大丈夫です。一人ぼっちの生活は慣れていますから」
「待ってくれ。君が僕を思って言ってくれたことは嬉しいよ!」

 僕がそう言うと、クロエは顔をパッと上げた。前髪の隙間から見える緑色の瞳がキラキラと僕を見据える。

「……では、まだ一緒にいても良いんですか?」
「もちろんだよ」

 クロエは僕の返事が嬉しかったのか、思わず僕に抱きついてきた。

「嬉しいです!……あ、ごめんなさいっ、急にこんなことして。気持ち悪いですよね……」

 出来ればレベッカ以外の女性に触れられるのは避けたかったが、こんな状況で否定すればまたクロエは傷ついてしまう。だから拒否はしなかった。
 こうしている間にも、レベッカとの距離はどんどん離れていくのに……。
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