殿下は地味令嬢に弱いようなので、婚約者の私は退散することにします

カレイ

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※王太子の静かな怒り

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 僕の言葉にクロエはガタガタと震え出しながらも、無理矢理笑顔を作って僕を見る。目は相変わらず長い前髪で覆われていてよく見えないけれど、口元の動きですぐに分かる。

「え、だって国王様が私にお手紙を……」
「そうだね。父上はクロエの屋敷に手紙を出したんだよね」
「は、はいっ、そこには私が婚約者になったと」
「それは違うよね?」
「え……?」

 僕の言葉にクロエは固まった。
 そんな彼女に僕はゆっくりと微笑みかけた。

「あくまで、僕の婚約者候補になった、としか書いてなかったよね?」
「え、あ……」
「何を勘違いしたのか知らないけれど、君、まだ僕の婚約者でも何でもないよ?」
「……っ!」

 自分でも驚くくらい冷めた声が出た。僕の声にクロエは驚愕してこちらを見上げる。

「あ、あ……」
「ごめんね、こんなに怖がらせるつもりはなかったんだけれど。僕も昨日父上に聞いてビックリしたから」
「~~っ」

 僕の言葉についにクロエは地面に倒れ込みペタンと手をついた。

「そんな、私なんかが殿下を騙すなんて……」
「僕は騙されたとは一言も言ってないよ?やっぱり、騙していたんだ」
「違いますっ。私は……」

 そこからクロエはしばらくの間、下を向いて黙り込む。
 そして何かを思い付いたかのようにパッと顔を上げた。

「分かりました!きっとお義母様とお義姉様に騙されていたんです!だってその手紙は私は見せてもらえませんでしたから。そうです、そうなんですよ」
「…………」

 クロエの説明は今この場で考えついたようにしか思えない。黙り込む僕に向けて、彼女は珍しく前髪から瞳を覗かせた。
 大きくてクリクリとした魅力的な眼だけれど……ただそれだけ。他に感じることはない。
 ……そもそもクロエの義母と義姉は本当にクロエのことを虐げていた?
 今の僕にはクロエが良いようにその言葉を使っているようにしか思えない。
 本当に、僕は……。
 なぜ彼女に同情してしまったのか、この前までの僕が理解できない。僕は助けるべき人の見分けが付くどころか、良いように騙されていたのだ。
 でも、これも僕の落ち度。
 だから父上の仰っていた通り、これから先は全て僕の手で終わらせるべきなのだ。

「お義母様はいつもお義姉様ばかり可愛がられて、私は自分の部屋しか居場所がな」
「ねぇ、クロエ」

 僕は、自分がいかに可哀想か説明をするクロエを遮って言った。

「明後日、その二人を連れて王宮に来てよ。あ、君のお父様も」
「え、あ、はい!」

 クロエは慌てて頷く。そして嬉しそうにはにかんで言った。
 
「分かってくれたんですね」

 
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