殿下は地味令嬢に弱いようなので、婚約者の私は退散することにします

カレイ

文字の大きさ
13 / 16

※王太子の婚約事情

しおりを挟む

「父上、それでクロエとの婚約は……」

 話を切り替えて問う。
 無事クロエと解消させてもらえるだろうか。厳しい父上のことだから、もしかすると王太子の座を降ろされてクロエとこのまま結婚しろと言われるかもしれない。そう言われても僕には拒否権などないから、その言葉に従うしかないが。
 僕は覚悟を持って父上の言葉を待った。

「……お前とクロエ嬢との婚約なら、始めからしておらん」
「……はい?」
「だから、始めからしておらんと言ったんだ」

 まさか、そんなはず。

「ですが彼女との婚約のことは、もう周知の事実で……」
「そんなこと知らん。わしはサルディ侯爵家に『王太子の新たな婚約者候補として名前が挙がっている』という手紙しか出しておらん。クロエが勝手に勘違いして言いふらしたのだろう」

 父上はサルディ侯爵家……クロエの実家にそんな手紙を送ったのか。
 しかしまだ候補でしかないというのに、クロエは婚約者に選ばれたとばかりに周りに言いふらしたのか。
 ……はぁ、つくづくダメだな僕は。
 彼女にまんまとやられたんだ。

「わしからはそれだけだ。後は自力で何とかするんだな。因みに王太子の座が守れるかどうかは、お前の今後にかかっているぞ」

 それだけ言うと父上はその場から去っていってしまった。
 いったい僕はどうすれば良いんだ……?
 周りの誤解を解くために、そして父上に認めてもらうために。
 父上が去ってから数分後、僕も頭を抱えながらゆっくりと自室に戻った。






「アラン様ぁ、やっぱり私には無理ですぅ。先生も、やっぱり私がお嫌いなんだわ!あなたが王太子妃になるのは相応しくない、なんて言われたんですっ」

 翌日、クロエがいつものようにレッスンを抜け出して僕の書斎に逃げて来た。シクシクと泣くクロエに対して僕は言う。

「あのね、クロエ。僕の話を一つだけ聞いてくれるかい?」
「何ですかぁ?」

 クロエが顔を上げる。涙なんて一滴も流れてないことに気づいて僕はつい指摘してしまう。

「泣いていた割には、涙痕の一滴もないんだね。目も赤くないし。演技だったら相当酷いね」
「っ!」

 クロエは目を見開いて僕を見た。いつもの僕ならこんな意地悪なことは言わないからだろう。そして次第にガタガタと震え出す。

「あの、アラン様っ、今のはただっ」
「もう理由なんて何でも良いよ。どうせ聞いても意味ないんだから。……それよりさ、クロエ」
「は、はいっ」

 ビクッと体を震わせクロエが返事する。僕は彼女に笑みを向けるとこう尋ねた。

「僕たちがまだ婚約していないことについて、もしかして知っていたりする?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄した相手が付き纏ってきます。

沙耶
恋愛
「どうして分かってくれないのですか…」 最近婚約者に恋人がいるとよくない噂がたっており、気をつけてほしいと注意したガーネット。しかし婚約者のアベールは 「友人と仲良くするのが何が悪い! いちいち口うるさいお前とはやっていけない!婚約破棄だ!」 「わかりました」 「え…」 スッと婚約破棄の書類を出してきたガーネット。 アベールは自分が言った手前断れる雰囲気ではなくサインしてしまった。 勢いでガーネットと婚約破棄してしまったアベール。 本当は、愛していたのに…

聖女に負けた侯爵令嬢 (よくある婚約解消もののおはなし)

蒼あかり
恋愛
ティアナは女王主催の茶会で、婚約者である王子クリストファーから婚約解消を告げられる。そして、彼の隣には聖女であるローズの姿が。 聖女として国民に、そしてクリストファーから愛されるローズ。クリストファーとともに並ぶ聖女ローズは美しく眩しいほどだ。そんな二人を見せつけられ、いつしかティアナの中に諦めにも似た思いが込み上げる。 愛する人のために王子妃として支える覚悟を持ってきたのに、それが叶わぬのならその立場を辞したいと願うのに、それが叶う事はない。 いつしか公爵家のアシュトンをも巻き込み、泥沼の様相に……。 ラストは賛否両論あると思います。納得できない方もいらっしゃると思います。 それでも最後まで読んでいただけるとありがたいです。 心より感謝いたします。愛を込めて、ありがとうございました。

王太子の愚行

よーこ
恋愛
学園に入学してきたばかりの男爵令嬢がいる。 彼女は何人もの高位貴族子息たちを誑かし、手玉にとっているという。 婚約者を男爵令嬢に奪われた伯爵令嬢から相談を受けた公爵令嬢アリアンヌは、このまま放ってはおけないと自分の婚約者である王太子に男爵令嬢のことを相談することにした。 さて、男爵令嬢をどうするか。 王太子の判断は?

あなたとの縁を切らせてもらいます

しろねこ。
恋愛
婚約解消の話が婚約者の口から出たから改めて考えた。 彼と私はどうなるべきか。 彼の気持ちは私になく、私も彼に対して思う事は無くなった。お互いに惹かれていないならば、そして納得しているならば、もういいのではないか。 「あなたとの縁を切らせてください」 あくまでも自分のけじめの為にその言葉を伝えた。 新しい道を歩みたくて言った事だけれど、どうもそこから彼の人生が転落し始めたようで……。 さらりと読める長さです、お読み頂けると嬉しいです( ˘ω˘ ) 小説家になろうさん、カクヨムさん、ノベルアップ+さんにも投稿しています。

「ばっかじゃないの」とつぶやいた

吉田ルネ
恋愛
少々貞操観念のバグったイケメン夫がやらかした

エデルガルトの幸せ

よーこ
恋愛
よくある婚約破棄もの。 学院の昼休みに幼い頃からの婚約者に呼び出され、婚約破棄を突きつけられたエデルガルト。 彼女が長年の婚約者から離れ、新しい恋をして幸せになるまでのお話。 全5話。

婚約解消したら後悔しました

せいめ
恋愛
 別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。  婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。  ご都合主義です。ゆるい設定です。  誤字脱字お許しください。  

似合わない2人が見つけた幸せ

木蓮
恋愛
レックスには美しい自分に似合わない婚約者がいる。自分のプライドを傷つけ続ける婚約者に苛立つレックスの前に、ある日理想の姿をした美しい令嬢ミレイが現れる。彼女はレックスに甘くささやく「私のために最高のドレスを作って欲しい」と。 *1日1話、18時更新です。

処理中です...