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第67話 魔法治療パートⅡ

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 グロ注意? 苦手な人はお気を付けください。

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 この町は北からの魔物の侵攻を想定して、町のあちこちに投槍機や投石器などの武器を備えた塔やそれに付随する短い城壁が作られている。
 これは主に空に対する攻撃施設であり、町中での戦闘の際には魔物に対する壁や盾として機能するように作られたものだそうだ。

 そのうちの一つに俺は急いで駆け寄り、そのまま壁を走るように城壁の上に登った。

 まず目に入ったのは血まみれで倒れている一人の騎士。
 騎士なのか兵士なのか本当のところは分からないがそんな感じの鎧を着ているから多分そう。
 そして兜が飛んでしまっているのでまだ若い女の子だと分かる。

 こんな子も戦うのか…

「トリンシア! しっかりして」

 友達だろう。同じぐらいの女の子が取りすがって名前を呼んでいる。

「救護班、早くしろ、学生なんだ!」
「救護班は無理です、一般市民のフォローに町に出てしまって」
「呼び戻せ、重傷者は少ないはずだ。子供を死なせてはご老公に顔向けできん!」

 なんと、若いと思ったら学生さんらしい。
 確かこの町には聖騎士養成学園というのがあって、貴族の子弟や優秀な若者に戦技や魔法を教えていたはずだ。

 そこの娘さんなのだろう。

 苦し気に瞳を閉じているので表情をわからないが水色の髪の毛と小麦色の肌の女の子で、なかなかの美人さんだ。
腹部の鎧がひしゃげ。なんか所か穴が開いていて血が流れている。
ワイバーンというのは少なくとも金属製のプロテクターをかみつぶし、牙で穴をあけるぐらいはできるらしい。

「ちょっとかして」

俺は取りすがるもう一人の女の子を押しのけてトリンシアと呼ばれた女の子のそばに膝をつく。そしてすぐにヒール。

「とりあえず出血を止めないと…」

魔力視で見る限り傷は深い。
つぶれた鎧で腹部や腰が圧迫されているし、貫通した部分は一〇センチは深く貫かれている。
 しかも毒付きで流れる血はどすぐ黒く変色してきている。

「これって本格的に手術しないとだめじゃね?」

 俺は周囲を見回す。隊長っぽい人がこっちにやっきた。

「すぐに個室を用意してくれ、すぐに治療を始めないと危ない」

「何を言っている、軍のものではあるまい。なぜこんなところにいるんだ。おい、こいつの身柄を拘束しろ」

 げっ、不審者扱いだ。

「そんなのはあとにしろよ、この子の治療が先だろ?」

「いま回復班を呼び戻している」

「そんなにもつか!」

 隊長と言い合いをしながらも魔法を流し込んで解毒や回復はしているけど、大きな傷はそのまま魔法で治したらダメなのだ。
 傷というか歪みが残ってしまう。
 この傷では一生残るような跡が残るし、腹部や腰の傷がひどいので生涯にわたって立居が不自由になるとか、腹部がかなり傷付いているので女の子的にどんな影響が出るのかわからない。

 そんなときに邪魔するとか…仕方ない、のすか?

 よーし、やったるでー、みたいな気分になったんだが助けが来た。

「君がこの部隊の指揮官ですか? 私はご老公の侍従長を務めているアンセルム・ロッテンです。彼は私の旗下の治療師ですのですぐに指示に従ってください」

 おおっ。ロッテン師登場だった。ありがたい。

「こっ、これは総長! 承知しました、すぐに下の部屋を開けます」

 なんね? 総長ってなんね?

「すみません、私も同行させてください」

 そう言ってきたのはトリンシア嬢に取りすがっていた女の子だ。
 涙を流すその子は…なんか見慣れた感じの顔をしている。なじみが深いというかなんというか、茶色の髪で割と平たい顔で…スタイルもメリハリが控えめ…
 うーん…懐かしい感じだ。

 まあ関係ないだろうけどね。

「助かります、女性なので手伝いがいてくれると」

 これは本音だ。
 若い女の子の服を剥いで治療というのはいろいろ問題がある。立会人があった方がよい。この娘のためにも…もちろん俺のためにもね。

 ◆・◆・◆

 塔の下には兵士の控えのための部屋とかちょっとしたキッチンとか宿直ができるような設備が整っていた。
 俺はトリンシアさんを仮眠室に連れ込み、すぐに服と鎧を脱がせにかかった。
 のだけど。

「この鎧は脱がせるのは無理だな」

 鎧はひしゃげているしとがった鎧が体に食い込んだりしている。これを脱がせるとかえって傷が広がってしまう。
 解体しよう。

「クリーンの魔法とマヒの魔法は使えるかい?」

 おれは一緒についてきた女の子に聞いてみる。彼女はプルプルと首を振る。

「ごめんなさい…いくつか攻撃魔法とヒールは使えるんですけど…あっ、でもクリーンは使えます…えっと…」

 そういうと彼女は目をさまよわせた。

 彼女はトリンシアさんの従者でマーヤ・クラウさんというらしい。ちょっと見た目が日本人ぽいけど、こっちの人か。

「【清浄】」

 という名前でクリーンの魔法を使う。イメージは部屋の中の細菌類や汚れを除去するイメージだ。
 以前見たクリーンの魔法をベースに部屋を清める。部屋中の細菌類をすべて消滅させるイメージだ。名前は即興。魔法の名前はイメージを正しく励起されるものがいい。

「これで無菌状態になったはずだけど、しばらくしたらクリーンを頼む、指示出すから」

「はい、わかりました」

 マーヤさんは心配そうにトリンシアさんの手を握り、何かぶつぶつ言っている。
 かすかに魔力の動きがあるけど…なんだろ…
 だが今は構ってはいられない。

 俺は理不尽ナイフを取り出してトリンシアさんの鎧の解体を始める。重力制御点を駆使して鎧をつかんで肉体に負担がかからないように切っていく。
 切り取った鎧はマーヤさんが受け取ってわきによけていく。うん、少しでも手間が省けるのはいい。

 トリンシアさんを裸にするのに大した時間はかからなかった。

 下着も全部取ったし、上半身も裸にした。
 傷の確認のためだ。

 童貞じゃあるまいし女性の裸で我を忘れたりはしない。ドキドキはするけどね、だがこの状態だとそういう気持ちもなえるかな。
 腹部はまともに噛まれ、さらにつぶされたようでまるで耕したかのようになっている。
 俺は【麻酔】の魔法を起動する。これは依然フレデリカさんの治療の時に使われたパラライズをベースにした魔法だ。
 強いパラライズを全身にかけると心臓とかにまで影響が出るので腹部の神経伝達をマヒさせる感じで。

 さらに【回復】をかけて効果を移行していく。

 俺の【回復】の魔法は肉体の治療再生をイメージで整えていく魔法なので基本いろいろな効果を複合的に発動できる。
 魔力視で患部を詳細に見ながら毒を除去し、再生をしていく。

【オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ】
【オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ】
【・・・・・・】

 薬師如来真言を繰り返しながら腹部を分解修復していてく。
 真言があるとイメージが、なんか治るんだという感じがするんだよね。

 しかしこれは素人にはきつい作業だ。
 人間の臓器を、パーツを一つずつ確認してそのパーツを一つずつ修復していく。

 これは一律にヒールを唱えても直せないから仕方ない。

 ヒールの魔法は回復力を高めて治った状態を先取りするものだから急速に治りはしても自然回復以上には治らないのだ。
 だからやるべきは再生。あるいは再建。

 腎臓とか肝臓とかはまだいい。遺伝子に本来どうあるべきかが記憶されているから、それに向かって修復していけばいい。
 細胞分裂を促進して再生するのではなく魔力で肉体を再構築するのだ。

 これもさんざんやったから慣れたものだ。

 大腸や小腸や十二指腸…ここら辺もいい。
 膀胱とかね…

 でもできれは子宮や卵巣はあまり触りたくなった。男として衝撃的すぎる。

 でもやらないわけにはいかない。

 真言を唱えながら一つ一つの臓器を修復して収めていく。表からザクザクされただけで臓器の位置が変わってなかったからよかったよ。

 これがばらばらになっていたりしたら元に戻せない。
 いや、まじで、俺の医学知識ってそんな程度だよ。

 おなかや背中に何か所かあいた穴を修復して、おなかの大きな穴を閉じる。
 中枢神経や骨格にも大きなダメージがなかったのがよかった。

 腹圧があるので臓器を押し込む感じで抑え、維持しながらおなかの筋肉や皮膚を再生し、最後に傷をふさぎながら腕を抜く。
 腕を抜いた時、そこにはかすり傷ひとつついていないトリンシアさんがいた。

「あとは大量に失った血液を魔力で補ってやればいい…」

 これは自分の体でもやったけど、自然と自分の血で、そして細胞で置き換わっていくから問題なし。
 でもしばらくは容体を観察しなくちゃダメか?

 最後麻酔を除去して…

「ふう、何とかなった」

 気が付けばマーヤさんがものすごくびっくりした顔で俺を見ていた。

「すごいです…魔法ってこんなこともできるんですね」

 いやいやできませんよ。たぶん。

「臓器を一つ一つ修復して戻すなんて…これだったらガンだって治るんじゃ…外科手術も魔法が加わると…」

 あれあれ、何か、変なことを言ってるぞ。この子…

 小さい声でぶつぶつつぶやく彼女を俺もじっと見てしまった。

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 今回はここまでです。
 ありがとうございました。
 ワイバーンとの決着は次回に続くです。

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