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第71話 ワイバーン討伐作戦・道筋
しおりを挟む「周辺の魔物の掃討、目標まで完了いたしました」
「うむ、ごくろう」
若い騎士が敬礼をする。
右手を握ってそのこぶしを左の胸に当てるようなポーズだ。
武器を持っていないときにこれをやると『あなたを攻撃する意思はありません』という意味になるそうな。
報告とかの際に騎士さんたちはこういった礼をする。
ちなみに剣を体の前に立てるのは正々堂々戦いますのポーズで、忠誠とかは自分の剣を相手に預けるらしい。
で、忠誠を受ける側がその剣を抜いて相手の肩をたたく。
望むのならいつでもこの首を落としてください。みたいな意味らしい。
かっこいいけどあまりかかわりたくないかも。
俺はと言えば報告を受ける騎士の後ろでそれを見ている。
ちょっとかっこいい騎士鎧をきているので見た目は騎士団の人に見える…かもしれない。
この甲冑はなかなかに優れもので、デザイン、設計はカンゴームさんらしい。
騎士鎧というと地球人の俺は全身鎧を思い出すのだけれど、これはそういうものではなくもっとずっと機能的なものになる。
素材は甲殻獣の殻をベースにしていて革を使って関節部などを補強し、動きのないところ、重要なところは金属で補強するというものだ。
なので全体としてはかなり軽い。
ものの本によると中世の全身鎧は洗練された時期で二〇Kgぐらいの重さがあったらしい。
これは理にかなった重量で、人間が普通に装備できる重量というのはこのぐらいが限界だという話だったはずだ。
その証拠に現在の軍隊の全装備重量も二〇Kgぐらいらしい。
だがこの鎧はたぶん五Kgぐらいしかない。
胸の部分、肩から腕。そして膝から下が硬質な素材で作られれた甲冑で、ボリュームもあってデザインもかっこいい。
それ以外の大きな部分、腹部や太ももの所は柔らかい革に硬質な甲殻の細かいのを張って補強したもので、革の服のようでいて表面は硬く、でもしなやかさを持っている。
そして関節部は何かの革を使って動きやすいように作られていて、しかも装甲部は構造が複雑でうまく組み合うような構造になっていて関節部の露出も最小限だ。
アニメとかゲームとかで出てきそうなかっこいいやつなのだ。
しかも実際に着て動くとかなり動きやすい。
機能的、複合的にパーツが稼働し、組み合っているんだな。
それに兜をかぶって俺の装備は完成だ。
ちなみに兜は口の部分が露出しているタイプだ。目の所はやはり甲殻獣の殻が使われていて、これが内側からだと透き通って見えるのだ。
というわけでこの鎧。いろいろすごすぎである。
値段は知らんけどたぶんものすごくお高いのではないだろうか?
ちなみに俺が着ているのは上級騎士のいいやつで、平騎士だともっと簡素なものを着ている。
普通の騎士の人が俺に敬礼していくのもたぶん顔が見えんし、鎧がいいから偉い人だと思っているからだろう。
実は正体を隠しているだけである。
これで俺は人前で投射砲をぶっ放して、しかも身バレせずに済むわけだ。
そんな理由もあって俺は投射砲の整備(の振り)をしながらただ待っている。俺の仕事は魔力投射砲を撃つことだけなのだ。
ではほかの騎士の人たちは? というと参加した冒険者の人たちと協力して周辺の魔物の掃討に当たっている。
砲を撃つときにほかの魔物の邪魔が入ったりしてはいけないというのがその理由だ。
護衛がいると考えれば俺のところまで魔物が届くことはないだろう。だがワイバーンを誘導する際にそこで戦闘とかやっていてはどんな影響があるかわからない。なので事前に掃討するという作戦が昨日から開始されていたのだ。
完全に根絶やしなどというのは無理としてもある程度間引けばこっちまでちょっかいを出したりはしてこないだろう。
ほかには作戦現場にフレデリカさんとかロッテン師とかいるので事前に危険を排除するという理由もあるのだと思う。
この辺りの魔物は魔境とは言いながらも、外縁ということもあり割と弱いものがメインで騎士や一端の冒険者にはほとんど脅威にはならない。
しかし弱い魔物というのは群れるもので、そこら辺が掃討が必要と判断されたのだろう。
ネムも依頼を受けて掃討しまくっているし、ミルテアさんは回復要因としてほかのたくさんの神官さんたちと参加している。
布陣としては草原の際に俺がいて、その後ろの森に騎士さんたちが隠れていて、その奥で冒険者たちが魔物狩りをしているという状況だ。
俺は魔力視を展開しながら周囲を確認する。
ネムが楽しそうに森の中で躍動し、ゴブリンや大ネズミや一角ラビを狩っているようだ。
ただ困ったことにいけ好かない野郎どもがネムに絡むので困りものである。
人の嫁をナンパしてんじゃねえよ。
まあ大概は軽くあしらわれて帰っていくが、中にはしつこいものがいて、そういうやつはなぜか不幸に見舞われたりする。
いきなり足首がぐきっとなって怪我したり、何もないところで転んで水たまりに突っ込んだりとかそんな感じだ。
ネムの周りを重力制御点がとびまわっていることとは関係がないのだよ。あくまでも事故のだよ。ざまあ!
「マリオン君、行ける?」
「はい、問題ありません。行けます」
誘導作戦の方もすでに始動している。はずだ。
うーん、ここから見えるかな?
◆・◆・◆ side とある騎士
ワイバーンのおびき出しは成功した。
そもそもワイバーンは放っておいても町にやってくるのでそれ自体は問題はない。
問題はそのあと、攻撃ポイントに設定された戦場まで引っ張っていくことだ。
ワイバーンが現れたときに弓矢で気を引く。
あまり離れると効果が期待できないが、今回は今までの行動パターンから一番確率の高いところを待機場所に選んだのだ。
そこを中心にして周辺に仲間が隠れ、いちばん近くにいるやつがおとりになる。
そして囮になったのは俺から二つ目のグループのやつだった。
俺の位置は門寄りになり、走り出せば俺の方が早く城門を抜けるだろう。
「はいっ!」
俺はトムラプトルの手綱をふるい走り出す。
トムラプトルというこの強靭な走鳥は足が速く、持久力もある信頼できる騎獣だ。
仲間たちも一斉に走り出した。
中心になるのは俺達、囮を背負った騎士だ。
卵型のかごを背負い、それに覆いをかけて見えなくし、しかしそのかごの中には割れた卵の欠片が収められている。
ワイバーンが戸惑ったのが分かった。
探している卵は一つのはずなのに卵を背負った騎士が何人もいるのだ。
だがそれを深くがんがえるほどあいつらは賢くない。
とりあえず一番近くの騎士に攻撃することにしたようだ。
ラプトルは早いが、ワイバーンの方がもっと早い。
そして空を飛べるというのは圧倒的なアドバンテージだ。
俺たちは右に左にラプトルを駆り、ワイバーンの攻撃をかわしながら疾走する。
まっすぐ走れば対抗などできないのだ。これしか方法がない。
そして全神経を集中してワイバーンの動きを察知して適切にラプトルを駆る。
さすが軍用に調教されたラプトルだ。
ワイバーンを恐れているその気配は伝わるもののそれに負けずに指示に従って駆けてくれる。
野生のラプトルなら算を乱して逃げ回り、作戦行動になどならないだろう。
それでもワイバーンの有利は動かない。
それを助けてくれるのが卵を背負っていない騎士たちだ。
囮役にワイバーンが攻撃しようとすると左右からい弩や魔導弓で矢をいかけ妨害する。それが彼らの役目だ。
神経が磨り減るような逃走劇が続く。
みんなよく頑張っいると思う。だが、だからと言ってそれが報われるとは限らない。
犠牲が出るのは織り込み済みなのだ。
だから複数の囮役がいて、誰かがやられても囮ができるように配慮されている。
俺たちは決死隊なのだ。
巨体で空を飛ぶワイバーンはそれだけで脅威だ。
翼が巻き起こす突風に巻き上げられる者もいる。
降下した際に翼にはねられる者も出る。
炎の息は直撃しなくても至近であれば大やけどだ。
一人二人と脱落し、騎士の数が減っていく。
唯一の救いは今までのやられ方なら死者は出ていないだろうということ。
毒はあるかもしれないがワイバーン用の毒消しはあらかじめ飲んでいるから助かるだろう。
だが仲間が脱落するということは逃走する俺達への攻撃が濃くなることを意味する。
間が悪かったとしか言いようがない。
ジグザクに交差しながら走り回る俺たち。俺がちょうど前に来た時にワイバーンが急に加速した。
「あつ、こりゃ死んだな…」
鎧はこの作戦に合わせてよいものを支給されているがあいつの牙を防げるほどじゃない。
俺は腹をくくった。
お荷物の卵を隣の騎士に投げつけ、剣を抜いて待機する。
「どうせなら一矢報いてやる」
それは時間稼ぎになり、きっと仲間を目標地点まで連れて行ってくれるだろう。
剣を振り回し、ワイバーンをけん制する。
ああ、もっと真剣に訓練をするべきだった。
振り回す嘴で剣をはじかれ、もはやここまで!
ワイバーンのくちが大きく開き、その牙が…
ドカーン!
何か破裂したような音が聞こえた。
ワイバーンの首が大きく振れて、そしてあいつは高く舞い上がった。
「いったい何が…」
だがチャンスだ。
俺は再び駆け出した。
殿でワイバーンを牽制しながら。
ワイバーンは不自然によろめくことがあったが、卵のにおいをあきらめられなかったのが最後までいてきた。
目標地点だ。
もう少し!
そう思ったときにすさまじい衝撃が襲ってきた。
前方から。
そう前方からだ。
まばゆい光が一直線に伸び。ついで鼓膜を揺さぶられるような轟音が響き、その音に身体を打たれて俺たちは倒れた。
俺は確かに見た。ワイバーンの体がはじけて血と肉が飛び散るのを。
作戦は成功だ!
応援ありがとうございます!
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