137 / 208
第136話 虫の王
しおりを挟むうごうごと蠢く森。
どうも地面の下を移動しているのはかなり大きい何かのようだ。
調べようと意識を集中し、魔力を集めるもうまくいかない。どうやらかなり強大な魔力を持っているみたいだ。
「なんかこっちに来るね」
でも収穫はあった。
センサー開放のおかげでその大物の他にも小さいのが地中を移動しているのを見つけることができた。
「なに?」
「うーん、よく見えないんだ。地中だし魔力の質がかなり大地に似通っていて…」
まるで光学迷彩のように地中に溶け込んでいる。
そこに大きな魔力の塊、つまり強い魔物がいるのは分かるんだがにじんで輪郭がつかめない。
だけど間違いなくそれはこちらに向かってきている。
おそらく大本のでっかいのが周辺に派遣した部下みたいなものなんだと思う。
「あっ、上がってきた」
それは、地中でゆっくりと進路を変え、上に、つまり俺たちの方に向かってきて…
ゴン…
遺跡の土台にぶつかって方向転換した。
なるほど、地面はかなり自由に進めるのに石は無理と。
「みんな警戒、出てくるヨ」
俺は傍にあった旗の付いた槍を目印のために地面に突き刺す。つまりここから出てくる。
騎士たちが剣を抜いて迎撃態勢を整えた。
盾役、攻撃役、魔法攻撃役で周辺を囲み、万全の態勢で待ち構える。
ここら辺は訓練がよくできている。ということだろう。
そしてそれは出てきた。
5mほどの…「何だありや」
「キメラでしょうか…」
「ダンゴムシ」
「〇蟲」
それはやばいからやめて。
ただまあ、ダンゴムシというよりはワラジムシだ。
ダンゴムシよりは扁平で、丸まれる構造にはなっていないらしい。ただ長さが5mもあるから高さは人間の身長を優に超える。
おまけに裾の部分が少し広がっているから隙間がない。
あとさすが魔物というかそれだけではなくて、蟹の様な大きなハサミを持っていて、体の側面に目のようなものが並んでいる。
「攻撃!」
騎士たちの攻撃が始まった。
まずは魔法攻撃だ。
後衛で魔法を詠唱していた魔法使いたちは準備万端魔法を打ち始める。
ただこれもルールがあるみたいで、まず最初はウインドウ系が撃ち込まれた。
【ウインドウカッター】
【エアハンマー】
魔法は間違いなく当たったが背中の殻ではじかれてしまった。
エアハンマーは圧縮空気の固まりを叩きつける魔法で樹木を叩き折るぐらいの威力はある。
だが無傷だ。
ワラジムシもどきがずれたところを見ると威力は十分だと思う。
つまり防御がバカ高いんた。
次は【ファイアボルト】が雨のように撃ち込まれる。これにはマーヤさんも参加していてかなりの圧力があると思うんだが…やはり効果なし。
そのころになるとワラジムシもどきも攻撃をしてくる。
ハサミが振り回され、盾役を打ち据えた。
ゴオォォォォォォンとすごい音がして盾役がずりずりとあと退る。
【タケノコ攻撃】
あー、ちなみに魔法です。地面を操ってタケノコのような石の槍で攻撃する魔法。
正式名称はストーントスじゃなかったかな?
マーヤさんがお腹なら柔らかいかも。という判断で使ったんだが、これも効果がなかった。
「魔法がキャンセルされた。土属性は無敵」
魔物が無敵という意味ね。
この魔物も強い土属性を持っているらしい。
こうなるとあとは物理攻撃。とばかりに攻撃役の騎士たちが剣を叩き込む。
もちろんダメでした。
ガキーンとか、ガアアンとか音を響かせながらはじかれる武器。外殻がものすごく硬い。
ならばと隙間に剣をねじ込もうとする者もいるのだが虫が動いて殻がすれるときに巻き込まれてあっさりと砕けてしまった。
しかもそれだけじゃない。
この虫、なかなか攻撃も多彩。
口から泡を噴き出してくる。
泡のブレスだね。
大楯隊がこれを受けるが縦がシオシオと歪んでいく。
ものすごく腐食性能があるようだ。
かと思うとおしりの突起部分から糸を吹きだし、風に乗った糸は戦う騎士たちの動きを疎外する。
動けなくなったところでハサミが。
ガアアァアンと景気のいい音。
シアさんが盾をもって救援に割り込んだのだ。
まるで盾を巨大な剣のように振り回し、虫を跳ね飛ばし、あるいは叩き潰す。
「おおーっ」
さすがにシアさんの全力の刺突は虫の甲殻にひびを入れた。
「シアさまー」
「すごいです」
巨大な盾を軽々と振り回し、虫を滅多打ちにしていくシアさん。
虫のバブルブレスもこの盾なら防げるみたいだ。
その間俺が何をしているかって。
けが人の治療をしているんだよ。
やられたやつは結構怪我がひどくて俺でないと間に合わない。
あー、またけが人が飛んできた。
そしていつの間にか虫はもう一匹増えていた。
そちらを迎え撃つのはネムとラウニー。
ネムの斧は虫の殻を叩き割っている。すごいぞペークシス。
そしてラウニーのこん棒は重力攻撃で虫をしたたかに打ちのめしている。
「向こうは心配なさそう」
「よかったわ。けが人は出たけど、死人は出さなくて済みそうね」
けが人の治療で大忙しの俺の隣でマルグレーテさんがほっと息をつく。
やっぱり領主さまとなると前線に突っ込むわけにはいかないのだ。というか出してもらえない。
出ると周りの騎士たちがマルグレーテさん優先に動くしかないのでこの状況では邪魔にしかならない。
そんな状況の中、三匹目がやってきた。
「こいつら何匹いるんだ?
というわけでミサイル発射」
手が空いているのがいないから三匹目の虫には俺が魔法を叩き込む。
魔光神槍の連続攻撃。
空震魚雷とかに比べると周囲への影響が軽微。
この魔法はかなり威力が高いのにこの虫はかなり耐えた。
すごく耐えた。
フルサイズを20本近く撃ち込んだよ。
だがそのせいで場が乱れていたのだろう。
四匹目の襲来に気が付かなかった。
それはラウニーのそばに現れて…
『きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ』
悲鳴じゃありません、咆哮です。ラウニーの咆哮。
次の瞬間虫はその関節の隙間から『ぶしっ』と煮えたぎった体液を吹いて絶命した。
「そうか、グラビトンウエーブか!」
ラウニーも空間属性だ。押しつぶしだけではなくこういうこともできるのか。
「すごいぞラウニー。えらい」
「にゃはーっ」
嬉しそうに笑うラウニー。
君はいい攻撃方法を見出した。
そうだよ、これはすごいんだよ。
ごばっと五匹目が飛び出してきた。
よし、ここは俺もグラビトンウエーブで…
その瞬間。
ぐしゃっ。
虫は頭部を踏み潰されて死んでしまった。
《まーぜーて》
虫を踏み潰した黒曜が暢気にそう宣った。
■ ■ ■
《楽しそう。様子を見に来た》
うん、黒曜はそういうやつだ。
そしてその瞬間動く森の気配が変わった。
地面が揺れ動き。土砂がまき散らされる。
「あれって、子爵家の軍とか巻き込まれてないといいんだけど」
巻き込まれてますね。盛大に。
視覚を飛ばすと巻き上げられる土砂に埋もれていく軍隊が見える。
どうやらノーコ男爵軍も合流しているようだ。
捲き上げられる土砂がその軍に降り注ぐ。だが少し距離があるから運が悪くなければ助かるだろう。
それに何より地中から出てきた蟲がこちらを指向している。
こちらに向かってくるようだ。
これで残った人たちは助かる確率が上がる。
でもなんでこっちに向かってくるんだ?
「よし、みんないったん後退だね。ネムたちはみんなを護衛しつつ下がってくれ」
「あれと戦うつもりですか?」
ネムが心配そうにこちらを見ている。
まあ、当然か。
「まあ、大丈夫たよ。周りの被害を考えなければたぶん倒せるから。
なんだったらどっかに捨ててきてもいいし。
重さ関係なしだから」
重力制御点で捕まえれば持ち上がると思う。
「はあ…」
しばらく逡巡していたネムだが、あきらめたようにため息をつき、
「わかりました。お帰りをお待ちしますね」
シアさんも泣きそうな顔で俺のそばに来て手をぎゅっと握る。
何か言いたそうだけど、まあ、言わぬが花だね。
次はマーヤさん。
「大丈夫?」
ジョークを混ぜて答える。
「できれはブラックホールまでは使いたくない」
「チートすぎ」
そういうとすたすたと離れていった。
最後はラウニー。
「うっきゃー。あい、うー」
多分励ましだな。
俺の背中をぺちぺち叩いてはしゃいでいる。
なんの憂いも感じられない。
《俺はやるぜ。俺はやるぜ》
そして黒曜が吠える。
まあ、どうとでもなるような気がしてきた。
さて、それでは…
「ああっ、魔物が!」
こっちに向かってきていたはずの魔物が方向を転じてまた子爵軍の方に進みだした。
原因は魔法だ。
土砂で危なかったことで危機感にかられたのか巨大な魔物に魔法を撃ち込みだしたのだ。
効果などないだろうが攻撃されて気がそれたのか魔物がゆっくりとそちらに向かっていく。
ワラジムシもどきをそのまま巨大にした魔物。
体の上に大量の土砂とか樹木とか生えている。
いや、乗っているだけか?
その体長、実に100m。
まるで動く山。動く森だ。
やっぱり人間パニックになると何をしでかすかわからないな。うん。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
大和型戦艦、異世界に転移する。
焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。
※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。
男女比1対5000世界で俺はどうすれバインダー…
アルファカッター
ファンタジー
ひょんな事から男女比1対5000の世界に移動した学生の忠野タケル。
そこで生活していく内に色々なトラブルや問題に巻き込まれながら生活していくものがたりである!
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる