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第135話 動く森

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 ぎゃーっ、ぎゃーっという鳴き声。
 木々を揺らすがさがさという音。

「蜘蛛手尾長猿です。本来はもっと奥にいる魔物なんですけど…」

「油断しちゃだめよ。あれは危険度Ⅴぐらいはある魔物だから」

 いろいろ変わったのが出てきたな。何て思う。

 俺たちの所でも明け方になって魔物との戦闘が始まった。
 まずイノシシ型とか鹿型とかの獣型が遺跡に押し寄せてきたのだ。

 遺跡は頑丈な石作りで、出入り口も補強されているので簡単な要塞のようになっている。
 あとは安全な場所から弓で攻撃すればいい。という流れだったのだが、ちょっとおかしいことに気が付いた。

 こちらを攻撃するそぶりの魔物もそれなりにいるのだが、そうでなく迂回して逃げようという魔物がいるのだ。
 これはまずい。
 俺たちの陣地の奥には…まあ、森なんだが、そこをずっと行くとラーン男爵領に出てしまう。
 それに浅い森に強目の魔物が住み着くのはよくない傾向だ。

 村の人たちに被害が出かねない。

「できるだけ殲滅しましょう」

 というマルグレーテさんの判断で出戦に切り替えざるを得なくなった。

「役割分担だな、騎士団は全部右に展開してくれ、左はうちだ受け持つから」

「大丈夫ですか?」

 心配した騎士の一人から声が上がるが心配はお互い様だ。

「それに人数に限りがある以上、出来なくてもやるしかないでしょ」

 そういうとみんな黙ってしまった。

「じゃあマーヤさんは遺跡の後ろについてライフル射撃ね。うち漏らしたものを殲滅してくれ。
 俺は前に出て魔法で向かってくる魔物の数を減らすから」

 うちの戦力はネムとシアさんとラウニーだが…過剰戦力じゃない?

 指示を飛ばす俺をマルグレーテさんが何かに納得するようにうんうんと頷いてみてた。
 仕事が減って喜んでいるのだろうか?
 もちろん全体の仕事は減らすつもりだ。

 俺は遺跡のうち見晴らしのいいところに陣取って『魔光神槍』を連射する。
 多弾頭誘導型で近づいてくる魔物を片っ端から撃っていくのだ。
 これで後ろに行く魔物はほぼないといっていい。

 特に騎士団側は。

 ネムたちはね。多少は獲物を回してやんないと文句言われるから。
 俺は暢気に戦場を見渡しながら狙撃を続けていく。

 騎士団は堅実な戦いぶりだね。
 総指揮はマルグレーテさん。全体の指揮は取らないつもりらしい。
 うちのパーティーに対する信頼か?

 うちのメンバーといえばまずはマーヤさん。

 遺跡の後ろ側城壁の所にじんとって後逸した魔物を撃ち殺していく。
 現代人だけあって銃器の扱いは慣れたものだ。
 最近は魔法の修業も順調らしい。

 離れたところに魔法を撃ち込み、それ以上魔物がいかないようにしてからひたすら射撃。

 ステアーAUGのビームを撃って撃って撃ちまくる。
 確実に仕留めているようだ。

 そしてネムたち。新しい武器の試験運転に夢中だったりする。

「うん、こういう時は左手の方がいいね」

 左手はホーミング機能付きの斧だね。
 ギュルギュルと回転しながら魔物の間を飛び回り、深い傷を負わせていく。
 だけどいまいちだな。何というか当たればいいみたいな精度なんだよね。

 胴体とか、足とか。獲物なら首を狙いたいところだが、そこまでの自律性はないみたい。

「まあ、自動で獲物をとってくれる斧というのもつまらないでしょ」

 それに。

「それ!」

 ちゃんと仕留めたい獲物の時は右手の斧を使っている。
 ネムのコントロールで的確に獲物の首を切り裂いて、ものによってはほぼ切り落として仕留めている。

 接近戦も大したものだ。もともと獣人で能力が高いから突っ込んでくる魔物をさっと躱してすれ違いざまに斧の一撃。
 ネムとすれ違った魔物はみんな首から血を流して倒れ伏す。
 ご満悦のようだ。

 ラウニーのほうも心配ない。というかもっととんでもない。
 あの子は空間属性で重力を味方につけているから攻撃力が飛び抜けて高くなっている。

 使っているのは六角棒、ラウニーバージョン。ちょっと細め。
 見た目は軽い棒を振り回しているようにしか見えないのに殴られた魔物はそのまま叩き伏せられ地面にクレーターを作っている。
 もしくは盛大にかっとんで気にたたきつけられたりする。

 殴られた時点で首とか背骨とか変な方向を向いている。
 見せかけの質量がものすごく高いんだ。

 ただ子供なんで注意力は散漫。

 夢中になって魔物をぶっ飛ばしていて逆に横から魔物に襲い掛かられたりしてびっくりする。というのがたまにある。
 まあそのために周りを飛び回る六つの玉があるんだけどね。自動迎撃ちゃんと動いてます。

「う゛?」

 う゛? じゃなくてちゃんと警戒しような。

 シアさんも地味に活躍している。
 盾を持って素早く走り、逃げようとする魔物にシールドバッシュ。
 獣というのは頭を先に出すから必然的に首を折ったり、頭を割られたりして死んでいく。
 慣性制御の付いた大楯なので動きの邪魔どころか助けになっている。

 もうそこまで使いこなしているのだ。

 と、こちらはこんな具合で万全だ。

 そんな戦いが少し続く。
 そして気づく。

「強い魔物が出てきているね」

「そう、まるで奥地から、何かに追い立てられているみたい」

 その懸念は蜘蛛手尾長猿というかなり奥地の魔物の姿で顕在化した。

「結構強い。厄介」

 相変わらずマーヤさんは博識だ。

 蜘蛛手尾長猿は四本の長い手と長くて自在に伸び縮みする尻尾を持った樹上生活の猿らしい。

 危険度はⅤ~Ⅵ。ベテランのパーティーで互角。もしくは軍隊規模で対応すべき魔物。とされている。オーガ並みの魔物だ。

 巧みに樹上を移動し、伸縮自在の尻尾でいきなり上から飛び掛かり、長い手で獲物をつかんで樹上に引き上げ、麻痺毒をもつ牙で動けなくしておいしくいただくというとても危険な魔物だそうだ。

 それが群れで。

「でもこっちに気を払ってないな」

「やはり何かから逃げてる」

 だがこのまま逃がすわけにはいかない。
 村に行かれたら…黒曜がいるから平気かもしれない。

 いや、そうでなくて。

「よし、迎撃。【空震魚雷】いけ!」

 俺は一つの魔法を練り上げる。
 ホーミング機能を持った空震魚雷は蜘蛛の子を散らすように空を駆け、蜘蛛手尾長猿を打ち落としていく。
 空間を激震させる魚雷は直撃すれば即死コースだ。
 近くで破裂するだけでも木から叩き落すぐらいのことは楽にできる。

 落ちて痙攣する蜘蛛手尾長猿に騎士たちが駆け寄り、次々にとどめを刺していく。
 ただ剣の性能的に苦労はしているようだ。

「これはやはり、奥地からなにか強力な魔物が出てきたということみたいね」

 戻ってきたマルグレーテさんがそう断じた。
 俺たちも同意見だ。

「おっ、おい見ろ」
「なにあれ、森が…」

 森がうねうねと動いていたのだ。
 地面の下を何かが進行しているようだった。





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