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第147話 新生・百花繚乱
しおりを挟むネムとミルテアさんが手を取り合ってキャッキャッしている後ろに、ちょっとびっくりしたような顔で三人の女の子が立っていた。
この三人とミルテアさんを入れて四人が新メンバーだろう。
一人は明らかにエルフ。小柄な女の子だ。
一人はさらに小柄。ドワーフの女の子のようだ。見た目がコロボックルだからわかりやすいんだよね。
もう一人は獣人の女の人。頭に角があって、尻尾が揺れている。
多分牛系の獣人さん。
背が高くてスタイルが良くて胸が暴力的だ。
装備は普通の冒険者。あまり目立った装備はもっていない。
だが質は悪くないようだ。
それに後ろに止まっている馬車もうちのように貴族仕様のオーダーメイドなものではないが悪くないもののようだ。
この様子からそれなりにうまくやっているのがうかがえる。
人見知りというわけではないのだろうけど、三人はどうしていいかわからないような雰囲気でこちらを見ていた。
これに対してうちのシアさんとマーヤさんが動いた。
スススッと歩いて近づき、きれいなお辞儀をする。
貴族のお嬢様だけあってコミュ力が高いのだ。
「はじめまして、私はトリンシア・ラーンと言います。あそこではしゃいているネムさんのパーティーメンバーです。
よしなに」
うん、まあ、お嬢様だからね。
「マーヤ・クラウ。よろ」
マーヤさんは全く物おじしないのに言葉が足りない。
こうなると黙っているわけにもいかないので俺も前に出てパーティーリーダーであると自己紹介する。
ついでにうちの姫であるラウニーを紹介する。
「きゃうあっ。よろ?」
ああっ、マーヤさんの悪影響が!
ついでにティファリーゼも紹介する。これは居候だ。
一応対人コミュ力は多少はあるのでちゃんと挨拶をしていた。
そうすると相手もちゃんと返してくれる。
挨拶は大事だね。
「えっと、ラエルノアです。見ての通りエルフです」
人間社会では人間以外の種族を馬鹿にする人間がいる。この辺りではめったにみないのだが、南のほうとかには多いらしい。
彼女もあからさまにこちらを、というか人間を警戒している感じがあるので南の方から流れてきたのかもしれない。
それでもある程度の警戒で、ちゃんと話をしてくれる。
これはラウニーのおかげだと思う。
ラウニーは現在、俺に抱き付いて、いや、巻き付いてくつろいでいる。
これを見れば異種族差別などはないのは一目瞭然だろう。
それにラウが〝にぱっ〟と笑うと何ともなごむんだよね。
「うちはドワーフのターフェですの。よろしくですの」
次に挨拶してれたのはドワーフの女の子。
ドワーフというのは親方衆を見て分かる通り、結構フリーダムな種族なので物怖じはしないらしい。
「これはどうもご丁寧に。ドワーフの方って誰でもフレンドリーですよね」
物怖じしないという意味で。
「あははですの。私たちは自分の興味のあること以外は興味がない種族ですの。なので同族の先輩以外は恐れないですの」
あとで聞いたら師弟関係と能力による上下関係とかは厳しいらしい。
カンゴームさんの工房でも弟子のみんなはぞんざいな扱いだったな。言われてみれば。
でもカンゴームさんは慕われていた。
蹴散らされるみんなも喜んでいたと…
一瞬いやな考えが頭をよぎった。
いや、たぶん普通の人たちだよ。うん。
最後が獣人の…
「カーフです。よろしくお願いしますね~」
ものすごい巨乳でスタイルもいい。
これはミルテアさんもなんだけど、彼女と決定的に違うのはなにか『エロい』ということ。
ミルテアさんは神職ということもあってかたたずまいが潔癖なところがある。
可愛らしい女性ではあるし、スタイルもいい。動きも柔らかいのだが、セックスアピールはほとんどない。
対してカーフさんは隙が多いというか、動くたびに胸とかおしりとか強調される感じで、動くたびに男の目を惹くような感じがある。
装備とかロングのストレートとか見るとしとやかな印象なのにしぐさがエロイんだよね。
あまり近づかんとこ。
一通りの自己紹介が済んだ頃、ネムとミルテアさんが戻ってきてとりあえず一緒にキャンプしましょう。という話になって。俺は黒曜を放して車を彼女たちの馬車の隣に置く。
動力が俺なのでバックで簡単だ。
彼女たちの馬車を牽いているのはマストドンだった。
スピードを捨てれば非常にいい輓獣だ。
だが微妙におびえて世をはかなんでいるような雰囲気が…
まあ、ドラゴンが二匹もいるしな。
俺はそばによると少し力を分けてやる。
強く生きろよ。
ひょっとしたら悟りとか開けるかもしれないよ。
「現在の百花繚乱の特徴は全員が回復手段を持っているということね」
一緒にキャンプの用意とかしながらミルテアさんが教えてくれた。
あまり魔物の討伐とかは受けずに旅をしながら移動病院、移動神殿みたいな生活をしているらしい。
戦闘はできるがあくまでも自衛手段。
ミルテアさんの結界があれば普通に出てくる魔物は敵じゃない。
今回はターリの町でけが人がそれなりに出ているので出張依頼のクエストを受けて移動中ということだった。
そして僕たちの依頼内容を聞いていやな顔をする。
「勇者ですか…」
「知ってるの?」
「はい、先日ベクトンに寄ったときに神殿経由でうわさを聞きました。かなり問題のある人物の様です。
平たくいうと下半身に理性を装着し忘れたタイプ」
この勇者の評価はどこで聞いても一貫している。なかなかすごい。
「従者というかお供も10人近く連れているようですけど、こちらもあまり評判はよくないですね。
勇者が何をやっても止めたりしないという意味で。
基本的に太鼓持ち、もしくは追従するだけの奴隷じゃないかって言ってましたよ」
「あっ、一人だけ、勇者のやることに口出しをして、うまく操縦している感じの人がいるそうです。この人が一番の実力者ではないかと…」
多分帝国の回し者だろうね。
「でも勇者がそんなのっていやですね」
「うん、帝国に近くなると私たち異人種は住みづらくなるからね」
「うーん、この依頼は失敗したかしら…」
女性だけで、しかも美人ぞろいだ。
勇者に会えばからまれるのは目に見えている。
「向こうに着いたらフォローしますよ。私たちの目的は勇者がバカならなボコっておとなしくさせることですから」
「えー、いいんですかそれで」
ネムの言葉を聞いたミルテアさんがこちらを見る。
「まあ、ご老公からの依頼ですからいいと思います」
「でも勇者だから強いんじゃないですか?」
そう言われて考える。
話を聞く限りそれほど強いという話は聞こえてこない。
勇者の強さというのは魔力が膨大で、スキルなどが取得しやすい。というこの二点だ。
だがマーヤさんを見るとそれほど極端に違うとは思えなかった。
マーヤさんは最近メキメキ腕を上げているが、それでもティファリーゼや黒曜と戦えるほどじゃない。
はっきり言ってネムの方が強いと思う。
俺はちらりとマーヤさんを見た。
「何か失礼なこと考えている」
「いえいえ」
相変わらず勘のいい子だ。
「勇者は私が倒す。今の私は強い。ブラストクラッシャーパンチがある」
あっ、そういう名前にしたのね。
意味合いはともかく音の響きはいいな。強そうだ。
シアさんが『油断しないで』とたしなめているが、確かにその通りだね。
とりあえず勇者の強さを測るべきか。
その日は話し込んでしまったので本格的な料理などはやめて弁当を出してみんなで食べた。
他にもやってきた冒険者が恨めしそうに俺を見ているが…考えてみたら俺以外は全員女でしかも結構な美女だったわ。
まあ、黒曜に睨まれて引き下がる程度のやつらだから問題ないか。
応援ありがとうございます!
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