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第148話 ネムの実力の片鱗

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 翌日、俺たちはミルテアさんたちと連れ立ってキャンプ地を出発した。
 現実的に考えて俺たちの馬車に百花繚乱の馬車がついてくることは不可能だ。
 マストドンはよい輓獣だが、いかんせんスピードが出ない。
 ただ現在の目的地は割と近いウイナの宿場だ。ご老公と初めて会ったあの温泉の町である。

 そこまでなら歩調を合わせて進んだところで大勢に影響はないだろう。

 そしてウイナの宿場はかなり様変わりしてた。
 はっきり言って開発が進んでちょっとした町になっているのだ。

 インパクト優先の看板もなくなっている。
 彼の巨大なトーテムポールもでかい看板もなくなっている。
 町の建物は少なくとも三倍にはなっている。

「あらー、しばらく来ないうちに変わったわねえ」

「本当ですね。少し前はひなびた感じのいい宿場だったのに…」

 ネムとミルテアさんには感慨深いものがあるだろう。
 人も増え、宿屋も増えている。

「何だい、前に来たことがあるのかい?」

 そう言って寄ってきたのはちょっと調子のよさそうな兄ちゃんだった。

「前にこの先のターリの町で魔族が討伐されただろう? 特需っていうのかね、あの後急に人通りが増えたのさ、
 でもそこどまりだ。魔族が討伐されれば確かに人の流れは多くなる。
 言ってみればターリの町はモニュメントになったんだ。
 だが人が大挙して押し寄せる。なんてのは最初のうちだけだな。
 まあ、多少は増えるんだろうけど、そのうち下火になる。これは間違いねえのさ、だから最初は控えめな投資だったよ。
 かかりも安かったしな」

 目ために反してこの男なかなかしっかりモノを見ているな。

「だけどそこで新しい迷宮が見つかったのさ。
 いやー、ぶったまげたね。
 俺だけじゃなくてさ、国中のやつがぶったまげたよ。
 そんでみんながこっちに投資を始めた。中でもこのウイナの町は分岐点だ。ここを押さえりゃ冒険者の町ベクトンや領都キルシュに行けるし、新しい迷宮のおかけで人の流れはけた違いに上がる。
 今日だってこの町は人でいっぱいさ。
 そんで得をしたのが前からここに投資していたやつらと、特需の時に多少なりとも儲かればいいやと気楽に金をぶち込んだ連中だ。
 他のやつらがあとから投資しようったっていい場所は残って無かったね。
 そのうち領主さまの所が乗り出してきて勝手な開発に制限をかける。
 魔物との兼ね合いとかもあるから無計画な開発はキルシュでは禁止されてるんだ。
 ちゃんと評価をしてからってわけさ、
 で、今はどこのお宿も大繁盛。
 探すのは結構大変だぜ?
 どうだい? 良ければ俺がいいところに案内するが」

 ながながと喋ったがどうやら客引きか、客の案内で食っているやつのようだ。

「あなたはずいぶん目端が利くみたいですね。宿屋はあてがあるから結構です」

「そうかい、そいつは残念だ」

「ですが面白い話を聞かせてくれたので情報量は出しましょうか」

 そういうとネムは気前よく銀貨を10枚放り投げた。
 男はその10枚の銀貨を素早くすべてキャッチする。

 かなりの離れ業だ。ただの情報通ではないかもしれない。

「おおー、姉さん気前がいいね」

「姉さんじゃなくて奥さんと呼んでください。
 で、また話を聞きたくなったら?」

「へい、あっしはシルバーというケチな野郎でさ。あっしに御用の時はガモガモ亭とか、水月楼とかのひとに申し付けてくれりゃ、こちらから伺いますんで」

 そういうとシルバーは踵を返して人ごみに消えていった。
 俺は感心してそれを見送る。

 シルバーもそうだが、こういう人を使うのがうまい。というところがネムにはあって、たぶんネムはあいつから何かを感じ取ったのだ。
 役に立つ何かを。

 まあ、そういうスキルは俺にはないし、これはお任せするしかない。

 周りを見回すとほかの人たちもちょっとあっけにとられたような顔で見ていた。
 うん、俺の嫁はすごいね。

 そして俺たちは水月楼に向かう。

■ ■ ■

「ごめんな~、普通の部屋はみんな満室どす~堪忍え」

 ネムたちを見て嬉しそうに顔をほころばせた女将さんだったが、すぐに申し訳ないような顔をしてそういった。

 残念ながらここも満室だったようだ。

 さてどうしようか?
 とか考えたけど全く問題なかった。

 ネムはご老公から預かった紋章を見せて、にっこり笑う。

「これは…おおきに。大きな部屋ですさかい皆さんでお泊りいただけますえ、でもお高い部屋どす?」

 聞いたら一泊、金貨20枚。
 200万円ですよ、奥さん。

 ネムがこちらを見るので了承しておく。
 付き合いというのもあるし、おかみさんも旧知の人だ。
 ただネムにしては思いきりいい、良すぎる対応だ。

 馬車を預けた後部屋に落ち着いて話を聞いたらこの宿屋にはお偉い貴族様がお泊りになる特別な部屋があるんだそうだ。
 ネムってばあらかじめここに泊まるようにとフレデリカさんから支持を受けていたらしい。
 となるとここもただの宿屋じゃないよね。

 案の定、おかみさんが資料を持ってきて渡してくれた。
 勇者関連と迷宮関連だ。

 勇者に関しては能力の高いだけの馬鹿。という感じの人間らしい。
 飼い殺しというか褒め殺しというかおだてられてその気になっていいように踊らされているだけの若造。

 問題は勇者のサポートについているおっさん。
 人相書きとかもついていた。
 おっさんというと太り気味の中年をイメージしてしまうのは日本人の性だろうか。

「名前はパーシバル=ソレティア。能力等は不明、ただ勇者を押さえられるぐらいの戦闘力はもっているみたいですね。
 帝国でそれなりの人かもしれません。
 ですが資料を見る限り表向きはただの腰ぎんちゃくですし、帝国の非合法活動員でしょう。
 勇者と一緒にのしちゃっていいと思います」

 パラパラと資料を流し読みしながらネムが言う。

 今日はネムが大活躍だ。
 人材確保とか政治的判断とか、そういうのはちゃんと教育を受けてない奴にはハードルが高い。俺だって営業職だったのでそれなりに対人スキルはあるつもりだが、それでもこういう時はかなわないなあ。と思うのだ。

 ただそのネムと連れ添っているのは俺なわけで、丸投げというのは旦那としていかがなものか。

「役割分担ですよ」

 まあ、今のところはね。
 全く無能では話にならないので何とかしよう。

 資料は他にも迷宮に関するものがあった。
 冒険者ギルトから上がってきたもので、現在のところ公表されていないものもあった。
 これに関してネムはこの場では話をしなかった。

 酷な話だがミルテアさんや百花繚乱も部外者だ。という判断による。
 それは新しい迷宮の危険性に関する報告で、深い階層に挑戦した冒険者がそのまま行方不明になった。と言う物だった。
 下の階層に挑戦する権利を認められている以上それなりの実力者であるらしい。

 未帰還の原因は不明。
 パーティーまとめてなので情報がないようだ。

 確率的には迷宮ではそれほど不自然ではない。と言う感じのようだが、この報告書の元を書いたギルドマスターのセルジュさんはどこかで違和感を感じているらしい。

 セルジュさんとかアレイシアさんとか、懐かしいね。
 遠い昔のような気がするよ。

 まあ、難しい話はここまで、あとは温泉に入って、おいしいものを食べて、ゆっくりするのだ。
 多分向こうに行ったら忙しくなるから。
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