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第160話 自由落下は不自由だ

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「ぬおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
「なっななななななっ」

 三者三様だな。
 飛行魔法というのは見たことがないから、これでなすすべもなく。

 とか思ったら背後から飛翔体。
 あのお目付け役の男だ。

「なんと!」

 俺の重力制御で真上に落ちている真っ最中なのに果敢に挑んでくる。空気を蹴っ飛ばすようにして突進してくるのだ。もちろん剣をひらめかせて。

「すごいな、あんな真似ができるんだ」

 空歩とか空間瞬動とか言うやつかな。

「大したものだね」

「エッ、エンツィアンさま」
「我々も!」

 一緒に空を落ちているのは勇者パーティーの荷物もちの二人だ。
 力だけの人のふりをして実は実力者だったらしい。

 エンツィアンと呼ばれた男ほどではないが二人で協力して空中で姿勢を変えて切りかかってくる。

「うんうん、これは少し侮りすぎていたかな」

「くっ、貴様、これはどういう術理だ!」

「どこまで上がるんだ」

 あー、そういえばずいぶん下が小さくなったな。
 数百は落ちたかな。
 でも三人とも全然元気。

「どこら辺まで行けるのか、このまま行ってみよう」

 正確な距離とか測り様もないが、そのままずんずん落ちていく。
 そのうちに一人がめまいのようにふらふらしだして、一人が頭痛をこらえているようなしぐさをし出した。

「数千メートルぐらいかな?」

「くっ、我らを解放しろ」

 エンツィアンくん。いい要望を出すじゃないか。
 逆自由落下は地面から離れていくからあまり怖くないんだよね。

「じゃあ、バンジーだ」

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ」
「・・・・・」
「・・・・・」

 おっさん二人は既に元気なし。
 エンツィアン氏が飛んでこないようにかなり距離を開けて追いかける。
 スカイダイビングとかないからな。体を広げて姿勢制御とかできないみたいでくるくる回りながら落ちていく。

「げっ、やべ!」

 ひーっ、全力回避。
 おっさんのお口から虹色のエフェクトがーーーーっ。

 これってこんなにやばい技だったのか。
 ティファリーゼとかよく耐えていたんだな…さすがドラゴン。

 あとさすが実力者。
 エンツィアン氏は地面に近づくとこちらにかまうのはやめて魔法を練り始めた。
 どんな魔法を使う気か知らないが何とか衝突を回避しようとしているようだ。
 ひょっとして飛行魔法とかあるんだろうか。

 さて、どうしよう。この状況なら一方的に攻撃もできるんだが…まあ、いいか。ずいぶん風で流されたからロイドシティーからは離れたし、どんな手でこの危機を回避するのか見てみたい。

 どんどん地上が近づいてくる。
 エンツィアン氏は呪文の詠唱を終えて手を地面にむけ発動。

「テンペストーーーーーーッ」

 呪文の詠唱は聞こえなかった(聞こえてもどうせわからない)が魔法の構造は見えた。かなり複雑で高度な魔法らしい。
 名前はテンペストか。

 轟と風がうなった。
 エンツィアン氏のもとから噴き出す莫大な風。
 なるほどこれで衝撃を和らげ…てないな。

 ものすごい勢いで風が吹き出しているけど、その反動というのが感じられない。魔法は使用者に反動を与えないのかも。
 そのまま下に落ちていく。

「むむむっ、あれっていったい何がしたいんだ?」

 さすがにやばくなってきたのでおっさん二人は回収。
 エンツィアン氏がどうなるか見ていたら下から風が来て彼の身体をほんの僅か減速させた。
 なるほど…地面に風をぶち当ててその反動で自分を持ち上げようとしたのか…

 でもこれは無理筋だ。
 地球の遊びで風に乗って宙に浮くというのがあったけど、あれは専用の服とか合ったはず。それにこれじゃ…

 ドン!

 やっぱり距離が近くなるほど跳ね返る風は莫大になる。
 そもそも攻撃魔法だ。
 相手を粉砕するための魔法だ。たぶん。それが跳ね返ればどうなるか。

 エンツィアン氏の身体が急に減速した。
 まるで水に飛び込んだかのように。
 まるで壊れた人形のように宙を舞い、地面に転がる彼。

 あれだけの風量なら地面にぶつかるのと大して変わらないだろう…
 おっさん二人をつかんだまま降り立った俺の前でエンツィアン氏は死にかけていた。

 複雑骨折に内臓破裂。
 達人だったみたいだけど自然の法則には勝てなかったか…

「こ…んな…ぶ…ざま…な」

「まだ喋れるのか…大したものだね。本当はぶつかる前に捕まえていろいろ喋ってほしかったんだけど…」

「ざ…」

 ざまを見ろかな?

「エ…エンツィアンさま…」
「そんな…こんな死に方が許されていいのか…」

 おっさん二人は愕然だ。

「戦士だから誇り高い死をというのは、まあ、欺瞞だよ。第一お前らだって俺に尊厳ある死を与えるために攻撃して来たわけじゃないだろ?
 誇り高かろうが汚辱に満ちていようが死は等しくただの死だからね」

 本人が納得できる死ではなかっだろうが、そんな死に方ができるのはごく一部。
 それに死の恐怖は俺もさんざん味わったからな。

「あれに比べたらましな死にかたさ…ちゃんと死ねるんだから」

 俺がにっこり笑いかけたらおっさん二人の顔は引きつった。

「さて、一番訳知りっぽい人が死んでしまったが、まあ、俺が知りたいのはそれほど複雑な話じゃない。
 君らの言うところの聖女様。ライホーを作った人の情報だな。
 まあ、大体予測はついているんだけど、教えてもらえると嬉しいな」

「くっ、聖女様は帝国に希望の光をともしたかただ。
 敵国に売るような真似はできない」

「そうだ。聖女様がいてくれれば帝国はすべての外敵を退けられる。あの方にはそれだけの力がある」

「うーん、その外敵というのが魔物被害のことならいいんだけどね。オルキデア公爵とつるんで変な動きをしているみたいだし…
 今敵国とか言っちゃっているし。
 まあ、さっきも言ったみたいに敵として互いに指をさして対峙するなら遠慮はいらないということで、もう一回ひもなしバンジー行ってみようかな」

「うおぉぉぉぉっ」
「があぁぁぁぁっ」

 声を置き去りにしておっさん二人は空高く。

「よし、今度こそどこら辺まで行けるのかやってみよう」

 俺は二人を追いかけてまっすぐ上へと落ちていく。

「目を閉じて耳をふさいで息を止めておいた方がいいぞー」

 追いついて忠告。
 俺ってばなんて親切。

 今度は何もせずにそのまま落ち続ける。
 1G加速で地表から離れていく俺たち。
 雲を突き抜けどんどん上がる。

「うーん、ダメだな。夜だからすでに宇宙にいるみたいだ。これじゃ青空と宇宙の境界線とかは見れないだろうね」

 そのうちに一人が喉をかきむしってじたばたし始めて、そのまま見てたら動きが止まった。
 これはいかんというので周辺の大気を集めて気圧を上げてやる。
 もう一人の方もついでだ。
 さらに回復の魔法もかけてあげよう。

「よしよし、気が付いたね。今度はまた下の方だ。ほら、行ってこい。こんな高度からスカイダイビングなんて、勇者の世界でもできることじゃない。
 お前たちは運がいいね」

 一人はもう息も絶え絶えだがもう一人は涙目で手を伸ばしてくる。
 でも残念。ここではどのみち落ちるしかない。

「いってらっさーーーい」

「!・・・・・・・・っ」

 地表についた時一人は既に息絶えていた。ショック死だな。

 だがもう一人はあきらめたように知っていることを話してくれた。
 ほんとかどうかというのはあるが、聖女の名前がアキラさまだと言っていたから嘘は言ってないだろう。

 王宮の一角に作られた研究所で銃器の開発をしてくれている。といっていた。
 まるで帝国のためにやってくれているような口ぶりだったけど、たぶんあいつは好き放題に銃に親しんでいるだけだよ。

「まあ、地球の武器ってここのと違うからね、なんかすごいもののように見えるんだろう。そんなものを手に入れたやつらが何か夢を見ちゃうのもわからなくはないよ。
 だけど俺から見ればこの世界の魔道具の方がよほどロマン武器だと思うよ」

 この世界は強さの質が違うから、一定以上の強さの敵には豆鉄砲はきかないんだよね。
 極端な話この間のダンゴムシとか、銃でどうにかなるようなものじゃない。
 機関銃とか対戦車砲とかあっても無理だろう。
 帝国の連中がそういう事実に気が付く前に救出に行かないとだめか。

「あー、おっさんおっさん。もう帰っていいぞ。え? ムリ?
 まあ、ここ森の奥だからな。
 よし、素直だったご褒美に近くまで運んでやるよ」
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