12 / 57
一章 ー京都・大阪編ー
錦の御旗が上がるとき
しおりを挟む
ー ズザッ……ドッ
瞬時に黒装束の男の後ろに移動し、私は鞘から刀を抜いた。抜くのと同時に斜め下からその男の首を斬った。息を止めたまま一気にその動作を行ったので終わったときには、体が空気を欲していた。倒れたのは黒装束の男で土方は立っている。それだけ確認して、私は膝をついて息を整える。
(よかった……間に、あった)
「テツ!」
土方の声が頭のてっぺんでした。慌てて顔を上げると、土方の険しい顔が私を見つめる。なぜ、そんな顔をしているのだろう。走ってきた原田と山崎も言葉を失ったまま私を見ていた。
「テツ、お前っ……」
「えっ、な、なんですか」
土方は屈んで私と視線を合わせると、私の頭を引き寄せてその胸に押し付けた。視界が真っ暗になり混乱した。ただ、土方の胸はじっとり濡れており生臭い。すぐにそれは血の臭いだと分かった。
「お前にこんなことさせちまった。原田、それを」
「ああ」
何かを引き摺る音がした。
「副長」
「鉄之助くんは、悪くないから。土方さんを助けたんだもの」
「え、あの」
「行くぞっ」
視界が開けたと思ったら、今度は土方が私の手を掴んで走り出した。まだ止まぬ大砲と鉄砲の音が迫っていたからだ。街道を走り抜けるころ、同時に日も傾き始める。私たちは林道に身を隠した。
日が傾くと、やはり寒さが戻ってきた。いや、緊張の連続で冬であることを忘れていただけだった。遥か南で育った私には耐え難い冷え込みに、気づけばガタガタと全身が震えていた。奥歯が鳴るのを初めて体験する。
「鉄之助くん、寒いですか」
椿さんが心配して私のそばに座ってくれた。さすがの私も強がりは言えず「はい、寒いです」と答えた。
「凍死するわけにはいきませんから、皆で寄り添って座ったほうがいいですね。眠らないでくださいね」
「はい」
椿さんはそう言い残し、怪我をした隊士たちを見て回る。周りを見ると、今にも息が絶えそうな者もいた。見るに耐えない光景に、私は抱えた膝に顔を埋めた。
「テツ、大丈夫か」
「副長……。はい、私は大丈夫です」
そう言うと、はぁと土方は溜息をつき、どかっと私の隣に腰を下ろした。土方は私の肩を抱き込むように引き寄せて頭を何度か撫でてきた。たったそれだに体が熱くなって、涙が溢れた。泣きたくないのに、泣いてしまう。
「すまなかった。小姓であるお前にあんなことを。まだ年端も行かないお前に、人間の首を」
「副長。私の意思で、そうしました。そうしようと決めて落としました。ですから」
「もういい」
それ以上は言わせてもらえなかった。あの時、私の顔を隠したように土方はまた私の顔を胸に押し付けた。その胸からは土方の心臓の音が乱れることなく力強く打っている。なんとなく目を閉じると、その音しか聞こえなくなり私は安らかな気持ちになれた。それに、土方は温かい。
「テツ、お前はあったけえな」
互いに温かいと思っていたことが、嬉しかった。
*
いつまでここに潜んでいるのかと不安をいだき始めた頃、偵察に出ていた監察の山崎が血相を変えて戻って来た。
「副長」
「どうした」
「薩長連合軍が、朝廷の、錦の御旗を掲げました」
土方は無言で立ち上がり林道脇へ向かった。私もそのあとを追い、そこから街道に目を向けると、薩長軍と思わしき集団が旗を上げて勢いづいていた。あれが山崎の言う朝廷の錦の御旗と言うものらしい。私にはそれが何を意味するのか直ぐには分からなかった。分かったのは私達にとって非常に不味いという空気だ。
「くそっ」
土方は爪がめり込むほど強く拳を握りしめていた。それを見てずくんと心臓が悪い痛みを覚え、錦の御旗の意味を思い出した。朝廷の錦の御旗は、天皇の命令で敵とみなした軍を討つときに、託されるもの。いわば、正義の御旗だっだ。という事は、薩長連合軍が官軍となり徳川が率いる軍は賊軍。私達は反乱軍になってしまったのだ。
「賊軍……俺達が、賊軍だと! なぜだ」
あちらこちらでその御旗を見て、怒り叫ぶ者や声にならず膝を折る者が続出した。中には悲鳴のような声をあげ、林道から逃げる者まで現れる始末。土方は追いも追わせもせずに、ただ黙って突っ立ったままだ。叱咤しながら戦い、保ってきた士気が音を立てて崩れ落ちていく気がした。男たちの背中に屈辱という大きな石がのしかかる。私は声をかけることができず、その場を離れようとしたそのとき、原田がやって来た。
「土方さん、どうする」
険しい顔のまま土方が振り向いた。
「撤退する。大阪城まで、退け」
「分かった」
原田が座り込む隊士たちや幕府の兵士に向かって叫んだ。
「大阪城に向けて、撤退!」
動ける者は怪我をして走れないものを支え、或いは担ぎ林道を大阪に向けて移動を開始した。その傍らで、錦の御旗に勢いづいた薩長連合軍は、我こそが正義なりと幕府軍に向けて鉄砲を放ち、倒れた者の背中に刀を刺した。
「あいつら……っ、くそがっ」
背を向けて逃げる者も容赦なく斬られた。
「酷い……」
「まだ、伏見に残っている隊士がいるな」
まだ退こうとしない土方がそう言った。確かに新選組の主要幹部が残っている。井上源三郎、永倉新八、山口二郎ら率いる隊士がこれを知らずに戦っているかもしれない。
「誰か、伝令を頼めるものはいないか」
撤退命令を伝えるために、あの戦場を伏見まで戻るなんて。私は考えた。私なら軽巧を使えるし、攻撃を避けながら駆け抜けることは容易い。私しか、いないと。
「副長。俺が、行きます」
私が発する前に男が手を挙げた。その言葉に周りにいた者は息を呑む。山崎烝が志願したからだ。副長は山崎を失いたくないと一度は拒んだ。しかし、山崎は引かなかった。自分にしか出来ないと言って。
「私もお供します」
気づけば私もそう言っていた。山崎に何かあったら椿さんが悲しむから、それはどうしても見たくなかった。すると頭の上から恐ろしい声で土方が怒鳴る。
「ばかやろう」
「ひっ……だ、大丈夫です」
「何が大丈夫なんだ。お前は分かっちゃいない。ここがどれだけ危険か、分かっちゃいねえ」
「分かっています!」
ここにいる誰よりも、私の足は速いのに。原田も気づいているはずだ。なのに、何も言ってはくれない。すると、土方は私の胸ぐらを掴んで引き寄せると「小姓が出すぎた真似をするんじゃねえ」と言い放ち、私を地面に叩きつけた。
「土方さんっ、鉄之助はまだ子供だぞ」
「子供だから知らしめてやらなきゃならねえだろ」
「そうだけどよ」
私は役に立たないと、言われたのと同じだ。叩きつけられた痛みは無かったけれど、胸の奥がとても痛かった。すると、黙っていた山崎が口を開いた。
「俺一人で行きます。俺なら、何処に隊士が居るか分かります」
「だが」
「必ず! 生きて戻ります。行かせて下さい!」
山崎の決意は硬かった。これは俺の仕事だ、誰にも務まりはしない。そんな顔をしていた。土方も分かっていたに違いない。山崎の他に任せられる人間はいない、と。
「分かった。貴殿に、新選組の撤退命令を託す。絶対に死ぬなよ。必ず生きて戻れ!」
「御意」
土方が山崎に命を下すと、山崎は素早く近くに繋いであった馬に跨った。それを椿さんは黙って見ているだけだ。あっという間に山崎は埃が舞う林道を抜けてしまった。
「山崎さんっ」
椿さんの悲痛な声が、私の胸を締め付けた。その声は山崎に届かない。そうと分かっていて叫んだのだと、未熟な私でも分かったことだったから。
「退けぇーー。新選組、撤退! 大阪城に向けて、走れっ。まだ終わらねぇぞ、諦めるなぁっ」
原田の声が止まっていた兵士たちの足を動かした。まだ終わりじゃない、こらからだ、将軍の待つ大阪城へ走れと鼓舞していた。原田は私の手を取り走る。私の方が走れば速いのに、この男気には敵わない。土方は椿さんの手を引き、庇うように走る。
(お願いします山崎さん。必ず生きて、お戻りください)
私には祈るの事しか、出来なかった。
瞬時に黒装束の男の後ろに移動し、私は鞘から刀を抜いた。抜くのと同時に斜め下からその男の首を斬った。息を止めたまま一気にその動作を行ったので終わったときには、体が空気を欲していた。倒れたのは黒装束の男で土方は立っている。それだけ確認して、私は膝をついて息を整える。
(よかった……間に、あった)
「テツ!」
土方の声が頭のてっぺんでした。慌てて顔を上げると、土方の険しい顔が私を見つめる。なぜ、そんな顔をしているのだろう。走ってきた原田と山崎も言葉を失ったまま私を見ていた。
「テツ、お前っ……」
「えっ、な、なんですか」
土方は屈んで私と視線を合わせると、私の頭を引き寄せてその胸に押し付けた。視界が真っ暗になり混乱した。ただ、土方の胸はじっとり濡れており生臭い。すぐにそれは血の臭いだと分かった。
「お前にこんなことさせちまった。原田、それを」
「ああ」
何かを引き摺る音がした。
「副長」
「鉄之助くんは、悪くないから。土方さんを助けたんだもの」
「え、あの」
「行くぞっ」
視界が開けたと思ったら、今度は土方が私の手を掴んで走り出した。まだ止まぬ大砲と鉄砲の音が迫っていたからだ。街道を走り抜けるころ、同時に日も傾き始める。私たちは林道に身を隠した。
日が傾くと、やはり寒さが戻ってきた。いや、緊張の連続で冬であることを忘れていただけだった。遥か南で育った私には耐え難い冷え込みに、気づけばガタガタと全身が震えていた。奥歯が鳴るのを初めて体験する。
「鉄之助くん、寒いですか」
椿さんが心配して私のそばに座ってくれた。さすがの私も強がりは言えず「はい、寒いです」と答えた。
「凍死するわけにはいきませんから、皆で寄り添って座ったほうがいいですね。眠らないでくださいね」
「はい」
椿さんはそう言い残し、怪我をした隊士たちを見て回る。周りを見ると、今にも息が絶えそうな者もいた。見るに耐えない光景に、私は抱えた膝に顔を埋めた。
「テツ、大丈夫か」
「副長……。はい、私は大丈夫です」
そう言うと、はぁと土方は溜息をつき、どかっと私の隣に腰を下ろした。土方は私の肩を抱き込むように引き寄せて頭を何度か撫でてきた。たったそれだに体が熱くなって、涙が溢れた。泣きたくないのに、泣いてしまう。
「すまなかった。小姓であるお前にあんなことを。まだ年端も行かないお前に、人間の首を」
「副長。私の意思で、そうしました。そうしようと決めて落としました。ですから」
「もういい」
それ以上は言わせてもらえなかった。あの時、私の顔を隠したように土方はまた私の顔を胸に押し付けた。その胸からは土方の心臓の音が乱れることなく力強く打っている。なんとなく目を閉じると、その音しか聞こえなくなり私は安らかな気持ちになれた。それに、土方は温かい。
「テツ、お前はあったけえな」
互いに温かいと思っていたことが、嬉しかった。
*
いつまでここに潜んでいるのかと不安をいだき始めた頃、偵察に出ていた監察の山崎が血相を変えて戻って来た。
「副長」
「どうした」
「薩長連合軍が、朝廷の、錦の御旗を掲げました」
土方は無言で立ち上がり林道脇へ向かった。私もそのあとを追い、そこから街道に目を向けると、薩長軍と思わしき集団が旗を上げて勢いづいていた。あれが山崎の言う朝廷の錦の御旗と言うものらしい。私にはそれが何を意味するのか直ぐには分からなかった。分かったのは私達にとって非常に不味いという空気だ。
「くそっ」
土方は爪がめり込むほど強く拳を握りしめていた。それを見てずくんと心臓が悪い痛みを覚え、錦の御旗の意味を思い出した。朝廷の錦の御旗は、天皇の命令で敵とみなした軍を討つときに、託されるもの。いわば、正義の御旗だっだ。という事は、薩長連合軍が官軍となり徳川が率いる軍は賊軍。私達は反乱軍になってしまったのだ。
「賊軍……俺達が、賊軍だと! なぜだ」
あちらこちらでその御旗を見て、怒り叫ぶ者や声にならず膝を折る者が続出した。中には悲鳴のような声をあげ、林道から逃げる者まで現れる始末。土方は追いも追わせもせずに、ただ黙って突っ立ったままだ。叱咤しながら戦い、保ってきた士気が音を立てて崩れ落ちていく気がした。男たちの背中に屈辱という大きな石がのしかかる。私は声をかけることができず、その場を離れようとしたそのとき、原田がやって来た。
「土方さん、どうする」
険しい顔のまま土方が振り向いた。
「撤退する。大阪城まで、退け」
「分かった」
原田が座り込む隊士たちや幕府の兵士に向かって叫んだ。
「大阪城に向けて、撤退!」
動ける者は怪我をして走れないものを支え、或いは担ぎ林道を大阪に向けて移動を開始した。その傍らで、錦の御旗に勢いづいた薩長連合軍は、我こそが正義なりと幕府軍に向けて鉄砲を放ち、倒れた者の背中に刀を刺した。
「あいつら……っ、くそがっ」
背を向けて逃げる者も容赦なく斬られた。
「酷い……」
「まだ、伏見に残っている隊士がいるな」
まだ退こうとしない土方がそう言った。確かに新選組の主要幹部が残っている。井上源三郎、永倉新八、山口二郎ら率いる隊士がこれを知らずに戦っているかもしれない。
「誰か、伝令を頼めるものはいないか」
撤退命令を伝えるために、あの戦場を伏見まで戻るなんて。私は考えた。私なら軽巧を使えるし、攻撃を避けながら駆け抜けることは容易い。私しか、いないと。
「副長。俺が、行きます」
私が発する前に男が手を挙げた。その言葉に周りにいた者は息を呑む。山崎烝が志願したからだ。副長は山崎を失いたくないと一度は拒んだ。しかし、山崎は引かなかった。自分にしか出来ないと言って。
「私もお供します」
気づけば私もそう言っていた。山崎に何かあったら椿さんが悲しむから、それはどうしても見たくなかった。すると頭の上から恐ろしい声で土方が怒鳴る。
「ばかやろう」
「ひっ……だ、大丈夫です」
「何が大丈夫なんだ。お前は分かっちゃいない。ここがどれだけ危険か、分かっちゃいねえ」
「分かっています!」
ここにいる誰よりも、私の足は速いのに。原田も気づいているはずだ。なのに、何も言ってはくれない。すると、土方は私の胸ぐらを掴んで引き寄せると「小姓が出すぎた真似をするんじゃねえ」と言い放ち、私を地面に叩きつけた。
「土方さんっ、鉄之助はまだ子供だぞ」
「子供だから知らしめてやらなきゃならねえだろ」
「そうだけどよ」
私は役に立たないと、言われたのと同じだ。叩きつけられた痛みは無かったけれど、胸の奥がとても痛かった。すると、黙っていた山崎が口を開いた。
「俺一人で行きます。俺なら、何処に隊士が居るか分かります」
「だが」
「必ず! 生きて戻ります。行かせて下さい!」
山崎の決意は硬かった。これは俺の仕事だ、誰にも務まりはしない。そんな顔をしていた。土方も分かっていたに違いない。山崎の他に任せられる人間はいない、と。
「分かった。貴殿に、新選組の撤退命令を託す。絶対に死ぬなよ。必ず生きて戻れ!」
「御意」
土方が山崎に命を下すと、山崎は素早く近くに繋いであった馬に跨った。それを椿さんは黙って見ているだけだ。あっという間に山崎は埃が舞う林道を抜けてしまった。
「山崎さんっ」
椿さんの悲痛な声が、私の胸を締め付けた。その声は山崎に届かない。そうと分かっていて叫んだのだと、未熟な私でも分かったことだったから。
「退けぇーー。新選組、撤退! 大阪城に向けて、走れっ。まだ終わらねぇぞ、諦めるなぁっ」
原田の声が止まっていた兵士たちの足を動かした。まだ終わりじゃない、こらからだ、将軍の待つ大阪城へ走れと鼓舞していた。原田は私の手を取り走る。私の方が走れば速いのに、この男気には敵わない。土方は椿さんの手を引き、庇うように走る。
(お願いします山崎さん。必ず生きて、お戻りください)
私には祈るの事しか、出来なかった。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
九州のイチモツ 立花宗茂
三井 寿
歴史・時代
豊臣秀吉が愛し、徳川家康が怖れた猛将“立花宗茂”。
義父“立花道雪”、父“高橋紹運”の凄まじい合戦と最期を目の当たりにし、男としての仁義を貫いた”立花宗茂“と“誾千代姫”との哀しい別れの物語です。
下剋上の戦国時代、九州では“大友・龍造寺・島津”三つ巴の戦いが続いている。
大友家を支えるのが、足が不自由にもかかわらず、輿に乗って戦い、37戦常勝無敗を誇った“九州一の勇将”立花道雪と高橋紹運である。立花道雪は1人娘の誾千代姫に家督を譲るが、勢力争いで凋落する大友宗麟を支える為に高橋紹運の跡継ぎ統虎(立花宗茂)を婿に迎えた。
女城主として育てられた誾千代姫と統虎は激しく反目しあうが、父立花道雪の死で2人は強く結ばれた。
だが、立花道雪の死を好機と捉えた島津家は、九州制覇を目指して出陣する。大友宗麟は豊臣秀吉に出陣を願ったが、島津軍は5万の大軍で筑前へ向かった。
その島津軍5万に挑んだのが、高橋紹運率いる岩屋城736名である。岩屋城に籠る高橋軍は14日間も島津軍を翻弄し、最期は全員が壮絶な討ち死にを遂げた。命を賭けた時間稼ぎにより、秀吉軍は筑前に到着し、立花宗茂と立花城を救った。
島津軍は撤退したが、立花宗茂は5万の島津軍を追撃し、筑前国領主としての意地を果たした。豊臣秀吉は立花宗茂の武勇を讃え、“九州之一物”と呼び、多くの大名の前で激賞した。その後、豊臣秀吉は九州征伐・天下統一へと突き進んでいく。
その後の朝鮮征伐、関ヶ原の合戦で“立花宗茂”は己の仁義と意地の為に戦うこととなる。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる