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二章 -勝沼・流川・会津編ー
宇都宮城を攻略せよ
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それは深夜に静かに行われた。土方隊は人が寝静まった頃に宇都宮へ向けて進軍を開始。土方は集まった兵士たちに、これより先の命は自分が預かると厳しい口調で言った。宇都宮進軍に賛同したものは土方に逆らうなと言っているようなものだ。これまでも土方に逆らう者は居なかったが、今回の念押しになぜか恐ろしさを感じた。すでに幕府軍は三隊に分かれて宇都宮を目指して北上したそうだ。私達は遅れを取らないように先を急いだ。
「まもなく、桑名藩や伝習隊と合流する。いいか、千人だ。これだけの人数で負けるわけがない」
土方が振り返り兵士たちの士気を煽った。今までの新選組とはわけが違うのだ。幕府軍の本当の力を見せつけてやるんだと言っているようだった。私達は下妻、下館を経て宇都宮を目指した。
「テツ」
「はい」
「気を緩めるなよ。いくらお前でも、従いきれない場合は……」
「肝に、命じております」
「ならば、いい」
土方が江戸を出てから一度も笑うことはなかった。私達よりも強い何かを心に秘めているようにさえ感じる。何も言ってくれないのは、私が頼りないからだろう。島田は江戸に残してきたし、山口は会津へ向かった。私だけが土方の側にいつもいるのに、肝心なことは決まってから知らされた。
そして私達は鬼怒川を越えた先の、満福寺に宿陣することになった。
とても立派な寺で、つい京の東本願寺を思い出してしまう。庭の手入れがよく行き届いていて、美しい風景が広がっていた。そんな風情ある場所に似つかず、小銃や刀を持った人間が続々と入っていった。とても大きな寺だったがさすがに千人は抱えきれず、周囲の町民宅や空き部屋を借りた。
「テツ、ちょっと来い」
「はい」
おおかたの人間が入ったところで土方に呼ばれた。周りを確認して小声でこう言う。
「この人数だ。一人部屋はもちろん無理だが、幹部の俺も何人かと相部屋になる」
「あ、はい。その、私は」
「お前は、俺と一緒だ。間違っても離れるなよ。今までの集団とはわけが違う。気を許すな」
「はい」
新選組という小さな集まりとは違う。目的は同じとはいえ勝手が違うのだ。土方に迷惑をかけぬように振る舞わなければならない。そう、間違っても鉄之助の面は取ってはならないのだ。
そしてその晩、幹部たちの集まりがあった。江戸城が開城されたらしいとの話だった。幕府側の勝海舟は新政府軍の西郷隆盛らと、密かにこの計画を進めていたのだと聞いて内心驚いた。私達を勝ち目のない勝沼へ行けと命令し、その間に粛々と話し合いをしていたのだ。
「勝海舟殿は江戸の町を守るため、戦わずして明け渡したのだそうだ」
「なんと! 全くの無抵抗か」
「慶喜公もそれを望んだらしい」
土方は黙って聞いていた。
「ただ、それを聞いて黙ってはいられないと、彰義隊が腰を上げたらしいぞ」
彰義隊とはもともと佐幕派だった者たちの集まりで、江戸市中を見回るなど治安維持を目的で結成されていた。慶喜公の側近であった渋沢や天野が率いた隊だ。
「上野の寛永寺に立て籠もって抵抗する機会を伺っているらしい」
「江戸で戦をするのか」
「分からんが、もう引くに引けぬ状態であろう」
勝海舟が争うことをせずに、江戸城を明け渡したことに納得がいかなかったのだろう。彰義隊を率いる天野という男は、かなり過激で血の気の多い男だと言っていた。
「とにかく我々は宇都宮城の攻略だ。おのおの、よろしく頼む」
私が歩んできた道がどんどん荒れていく。振り返れば辛く悲しいことばかりだ。
「テツ、行くぞ」
「はい」
夜が明けたら、宇都宮城へ攻め入るらしい。いつくかの隊に分かれて同時に攻撃を開始する。私はもちろん土方と共に行く。この、沖田の愛刀で志を貫き通すんだ。
「テツ」
「はい」
廊下を進んでいた土方が、私の方振り向いて立ち止まる。見上げたその顔は険しいものだった。思わず私も眉間に力をいれる。
「お前まで、そんな顔をするんじゃない。心配するな、負けやしねえ。お前は俺の後ろにただ居さえすればいい。分かったか」
そう言い終わると、土方の指が私の口元に伸びてきた。その仕草に心臓が期待で早く打ちはじめる。その影を感じ私は目を閉じた。
「寝るぞ。明日は早い」
その手はいつの間にか消えていて、代わりに肩をトンと叩いた。
「はい」
これが普通なのに、なぜか残念に思う自分がいた。
翌日、日が昇る前に起き身支度をした。どこの誰よりも早く起き、用を済ませる必要があった。決して女とバレてはならないからだ。これから動き始める男たちの気配を感じながら部屋に戻る。その途中、寺の坊主たちの朝の勤めが聞こえてきた。久しぶりに聞いた読経に、心が少しづつ和らいでいく。
「土方くんの小姓か。早いな」
「おはようございます」
そんな事をしていたら、見知らぬ幹部に話しかけられてしまった。それを見た土方が早く側に来いと目で合図をしてくる。私は小姓らしく土方の身支度を手伝った。着物とは違い様式の軍服は簡単だ。紐の締め具合で文句を言われることがないから。
「慣れたもんだな」
「慣れれば袴より楽ですよ」
「そうかよ」
そんな他愛のない会話が今の私を勇気づけてくれる。私だけが許される仕事であり、私だけにしか許さない土方に安心しきっていた。
「皆の者、健闘を祈る! 出陣!」
私達は宇都宮城攻略の為、満福寺をあとにした。
隊は幾つかに分かれそれぞれが城を目指した。この隊のどこかに幕府が誇る、陸軍歩兵部隊がいるらしい。その隊を率いているのが大鳥圭介という人物で、戦法を異国で学んだそうだ。私達よりも洋式の武器を扱い慣れている。
「テツ。どこの隊よりも先に入城するぞ」
「はい」
土方の気合はこれまで以上だった。口には出さないけれど、近藤の代わりに勝利を手にしたいと思っているに違いない。
その時、前方から銃の音がした。新政府軍率いる鉄砲隊が先制攻撃を始めたのかもしれない。
「いいか! 弾は撃った後が手薄になる。怯まずにそこをつけ!」
土方の声が大きく響いた。そんな土方は隊長でもあるのに先頭を行く。銃弾に当たりやしないかと気がきでならない。身を隠すどころか大きく腕をかざし、俺を撃ってみろと挑発しているようにも思えた。
「副長っ! もっと身を低くしなければ被弾します」
「テツ! お前は俺の前に出るな。なに、弾に当たったって死ななきゃいいんだろうが」
「しかしっ」
何かに取り憑かれたように土方は突き進んだ。銃を持った人間が怯むほどの勢いだ。銃声もひとしきり鳴ったら暫くは止む。その瞬間を土方は逃さない。
「あの橋から城を攻める! 行くぞ」
目の前に掛かった橋から一気に流れ込むように私達は攻め入った。城まであと少しまで迫ると、新政府軍はその勢いに押されるように後退していった。それを見て幕府軍は下河原、中河原、今小路のそれぞれの 城門に分かれて突入することにした。土方率いる新選組とそれに合流した桑名藩は下河原門へ向かった。
パンパンと再び銃声が鳴り響き。前を走っていた兵士たちが倒れた。それでも私達は突き進み、とうとう辻で新政府軍とかち合った。
「これより先は一歩たりとも譲らぬ」
敵の隊長らしき者がそう叫ぶと、後ろに控えていた者たちがカチャカチャと刀を腰から抜いた。私はそれを見て少しほっとした。銃だとなかなか敵わないけれど、刀ならどうにでもなる。
「受けて立つ。かかれ!」
土方の号令で、血気盛んな兵士達が次々と敵に斬りかかる。これまでの鬱憤を晴らすように、手当り次第に斬っていった。私も沖田の刀を抜いて応戦した。勝沼の戦いからわずかひと月で、またも激闘することになるとは。相手は勢いついた新政府軍だ。気力も戦力も負けていない。いや、下手すると私達の方が危ないかもしれない。思っているそばから怖気づいた者が敵に背を向けた。そして刀を放って逆走してこちらに戻ってくる。
ズザッ……
「うあぁぁぁーーっ」
その男は私の隣を通り過ぎる寸前で倒れた。正面から袈裟斬りでざっくりと斬られたのだ。その光景を見て青褪める味方の兵士たち。なぜならば、それを斬ったのは我が隊を率いる隊長の土方歳三だったからだ。男の息が切れたのを確認すると、刀についた血を振り落とした。そして兵士たちに向かって叫んだ。
「命令なくして退く者は誰であろうと斬る。進め!」
そのどすの効いた声に一瞬あたりが凍った。が、しかしそれもつかの間、皆は己を奮い立たせて握る刀を敵に向けた。生きて還るためには、敵を倒し勝利する他なかったからだ。また銃声が鳴り響き、敵味方問わず多くの人間が倒れた。私は土方を見失わないように必死だった。私の前を行く土方はこれまで失った同士たちの分もと、戦っているのだろうか。私は沖田の刀を握りしめ、とにかく斬った。不思議と疲労はなく、むしろ湧き上がる力に戸惑っていた。まるでそれを操るのが沖田総司なのではないかと、思うほどに。
ドドドーンと大砲が唸り城下は火の海に包まれ、みるみるうちに広がった。
そして夕刻。気づけば幕府軍の勝利が告げられた。喜び勇む幕府軍の兵士たち、それを見て最後の抵抗とでも言うのか、新政府軍が城内に火を放って脱退した。
「くそ野郎どもが……」
これのせいで勝利した幕府軍は宇都宮城への入城が叶わず、一旦兵を収めることになった。それでも、私達は勝利したのだ。私が新選組と共にして、初めてのことだった。
翌朝、私達は宇都宮城に入城した。
「副長。勝ったのですね」
「ああ……取り敢えずはな。よく頑張った」
「はいっ」
朝日に照らされた土方の横顔は眩しくて見ることができなかった。とんな顔をしているのだろうか。少しでも心が晴れてくれれば良いのだけれど。
そしてその後、会津に入った山口二郎が松平容保に拝謁することになったと知らせが入った。
「まもなく、桑名藩や伝習隊と合流する。いいか、千人だ。これだけの人数で負けるわけがない」
土方が振り返り兵士たちの士気を煽った。今までの新選組とはわけが違うのだ。幕府軍の本当の力を見せつけてやるんだと言っているようだった。私達は下妻、下館を経て宇都宮を目指した。
「テツ」
「はい」
「気を緩めるなよ。いくらお前でも、従いきれない場合は……」
「肝に、命じております」
「ならば、いい」
土方が江戸を出てから一度も笑うことはなかった。私達よりも強い何かを心に秘めているようにさえ感じる。何も言ってくれないのは、私が頼りないからだろう。島田は江戸に残してきたし、山口は会津へ向かった。私だけが土方の側にいつもいるのに、肝心なことは決まってから知らされた。
そして私達は鬼怒川を越えた先の、満福寺に宿陣することになった。
とても立派な寺で、つい京の東本願寺を思い出してしまう。庭の手入れがよく行き届いていて、美しい風景が広がっていた。そんな風情ある場所に似つかず、小銃や刀を持った人間が続々と入っていった。とても大きな寺だったがさすがに千人は抱えきれず、周囲の町民宅や空き部屋を借りた。
「テツ、ちょっと来い」
「はい」
おおかたの人間が入ったところで土方に呼ばれた。周りを確認して小声でこう言う。
「この人数だ。一人部屋はもちろん無理だが、幹部の俺も何人かと相部屋になる」
「あ、はい。その、私は」
「お前は、俺と一緒だ。間違っても離れるなよ。今までの集団とはわけが違う。気を許すな」
「はい」
新選組という小さな集まりとは違う。目的は同じとはいえ勝手が違うのだ。土方に迷惑をかけぬように振る舞わなければならない。そう、間違っても鉄之助の面は取ってはならないのだ。
そしてその晩、幹部たちの集まりがあった。江戸城が開城されたらしいとの話だった。幕府側の勝海舟は新政府軍の西郷隆盛らと、密かにこの計画を進めていたのだと聞いて内心驚いた。私達を勝ち目のない勝沼へ行けと命令し、その間に粛々と話し合いをしていたのだ。
「勝海舟殿は江戸の町を守るため、戦わずして明け渡したのだそうだ」
「なんと! 全くの無抵抗か」
「慶喜公もそれを望んだらしい」
土方は黙って聞いていた。
「ただ、それを聞いて黙ってはいられないと、彰義隊が腰を上げたらしいぞ」
彰義隊とはもともと佐幕派だった者たちの集まりで、江戸市中を見回るなど治安維持を目的で結成されていた。慶喜公の側近であった渋沢や天野が率いた隊だ。
「上野の寛永寺に立て籠もって抵抗する機会を伺っているらしい」
「江戸で戦をするのか」
「分からんが、もう引くに引けぬ状態であろう」
勝海舟が争うことをせずに、江戸城を明け渡したことに納得がいかなかったのだろう。彰義隊を率いる天野という男は、かなり過激で血の気の多い男だと言っていた。
「とにかく我々は宇都宮城の攻略だ。おのおの、よろしく頼む」
私が歩んできた道がどんどん荒れていく。振り返れば辛く悲しいことばかりだ。
「テツ、行くぞ」
「はい」
夜が明けたら、宇都宮城へ攻め入るらしい。いつくかの隊に分かれて同時に攻撃を開始する。私はもちろん土方と共に行く。この、沖田の愛刀で志を貫き通すんだ。
「テツ」
「はい」
廊下を進んでいた土方が、私の方振り向いて立ち止まる。見上げたその顔は険しいものだった。思わず私も眉間に力をいれる。
「お前まで、そんな顔をするんじゃない。心配するな、負けやしねえ。お前は俺の後ろにただ居さえすればいい。分かったか」
そう言い終わると、土方の指が私の口元に伸びてきた。その仕草に心臓が期待で早く打ちはじめる。その影を感じ私は目を閉じた。
「寝るぞ。明日は早い」
その手はいつの間にか消えていて、代わりに肩をトンと叩いた。
「はい」
これが普通なのに、なぜか残念に思う自分がいた。
翌日、日が昇る前に起き身支度をした。どこの誰よりも早く起き、用を済ませる必要があった。決して女とバレてはならないからだ。これから動き始める男たちの気配を感じながら部屋に戻る。その途中、寺の坊主たちの朝の勤めが聞こえてきた。久しぶりに聞いた読経に、心が少しづつ和らいでいく。
「土方くんの小姓か。早いな」
「おはようございます」
そんな事をしていたら、見知らぬ幹部に話しかけられてしまった。それを見た土方が早く側に来いと目で合図をしてくる。私は小姓らしく土方の身支度を手伝った。着物とは違い様式の軍服は簡単だ。紐の締め具合で文句を言われることがないから。
「慣れたもんだな」
「慣れれば袴より楽ですよ」
「そうかよ」
そんな他愛のない会話が今の私を勇気づけてくれる。私だけが許される仕事であり、私だけにしか許さない土方に安心しきっていた。
「皆の者、健闘を祈る! 出陣!」
私達は宇都宮城攻略の為、満福寺をあとにした。
隊は幾つかに分かれそれぞれが城を目指した。この隊のどこかに幕府が誇る、陸軍歩兵部隊がいるらしい。その隊を率いているのが大鳥圭介という人物で、戦法を異国で学んだそうだ。私達よりも洋式の武器を扱い慣れている。
「テツ。どこの隊よりも先に入城するぞ」
「はい」
土方の気合はこれまで以上だった。口には出さないけれど、近藤の代わりに勝利を手にしたいと思っているに違いない。
その時、前方から銃の音がした。新政府軍率いる鉄砲隊が先制攻撃を始めたのかもしれない。
「いいか! 弾は撃った後が手薄になる。怯まずにそこをつけ!」
土方の声が大きく響いた。そんな土方は隊長でもあるのに先頭を行く。銃弾に当たりやしないかと気がきでならない。身を隠すどころか大きく腕をかざし、俺を撃ってみろと挑発しているようにも思えた。
「副長っ! もっと身を低くしなければ被弾します」
「テツ! お前は俺の前に出るな。なに、弾に当たったって死ななきゃいいんだろうが」
「しかしっ」
何かに取り憑かれたように土方は突き進んだ。銃を持った人間が怯むほどの勢いだ。銃声もひとしきり鳴ったら暫くは止む。その瞬間を土方は逃さない。
「あの橋から城を攻める! 行くぞ」
目の前に掛かった橋から一気に流れ込むように私達は攻め入った。城まであと少しまで迫ると、新政府軍はその勢いに押されるように後退していった。それを見て幕府軍は下河原、中河原、今小路のそれぞれの 城門に分かれて突入することにした。土方率いる新選組とそれに合流した桑名藩は下河原門へ向かった。
パンパンと再び銃声が鳴り響き。前を走っていた兵士たちが倒れた。それでも私達は突き進み、とうとう辻で新政府軍とかち合った。
「これより先は一歩たりとも譲らぬ」
敵の隊長らしき者がそう叫ぶと、後ろに控えていた者たちがカチャカチャと刀を腰から抜いた。私はそれを見て少しほっとした。銃だとなかなか敵わないけれど、刀ならどうにでもなる。
「受けて立つ。かかれ!」
土方の号令で、血気盛んな兵士達が次々と敵に斬りかかる。これまでの鬱憤を晴らすように、手当り次第に斬っていった。私も沖田の刀を抜いて応戦した。勝沼の戦いからわずかひと月で、またも激闘することになるとは。相手は勢いついた新政府軍だ。気力も戦力も負けていない。いや、下手すると私達の方が危ないかもしれない。思っているそばから怖気づいた者が敵に背を向けた。そして刀を放って逆走してこちらに戻ってくる。
ズザッ……
「うあぁぁぁーーっ」
その男は私の隣を通り過ぎる寸前で倒れた。正面から袈裟斬りでざっくりと斬られたのだ。その光景を見て青褪める味方の兵士たち。なぜならば、それを斬ったのは我が隊を率いる隊長の土方歳三だったからだ。男の息が切れたのを確認すると、刀についた血を振り落とした。そして兵士たちに向かって叫んだ。
「命令なくして退く者は誰であろうと斬る。進め!」
そのどすの効いた声に一瞬あたりが凍った。が、しかしそれもつかの間、皆は己を奮い立たせて握る刀を敵に向けた。生きて還るためには、敵を倒し勝利する他なかったからだ。また銃声が鳴り響き、敵味方問わず多くの人間が倒れた。私は土方を見失わないように必死だった。私の前を行く土方はこれまで失った同士たちの分もと、戦っているのだろうか。私は沖田の刀を握りしめ、とにかく斬った。不思議と疲労はなく、むしろ湧き上がる力に戸惑っていた。まるでそれを操るのが沖田総司なのではないかと、思うほどに。
ドドドーンと大砲が唸り城下は火の海に包まれ、みるみるうちに広がった。
そして夕刻。気づけば幕府軍の勝利が告げられた。喜び勇む幕府軍の兵士たち、それを見て最後の抵抗とでも言うのか、新政府軍が城内に火を放って脱退した。
「くそ野郎どもが……」
これのせいで勝利した幕府軍は宇都宮城への入城が叶わず、一旦兵を収めることになった。それでも、私達は勝利したのだ。私が新選組と共にして、初めてのことだった。
翌朝、私達は宇都宮城に入城した。
「副長。勝ったのですね」
「ああ……取り敢えずはな。よく頑張った」
「はいっ」
朝日に照らされた土方の横顔は眩しくて見ることができなかった。とんな顔をしているのだろうか。少しでも心が晴れてくれれば良いのだけれど。
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