桜の花弁が散る頃に

ユーリ(佐伯瑠璃)

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二章 -勝沼・流川・会津編ー

溢れ出す新たな欲望

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 いつも突然に口を塞がれていた気がする。けれど、今は違う。土方は私の眼を見たままゆっくりと顔を下げてきた。少し潤んだような怪しく光った黒眼に私が映っている。それは自分では久しぶりに見る常葉の顔だった。

「あ……」

 思わず声を出してしまったのは、自分の顔が自分でも分かるくらいに大人びていたからだ。兄と別れたあの日からもう少しで一年が経つ。私から鉄之助の顔を取ったら、誰が見ても女だと分かってしまう。

「なんて顔をしやがる」
「すみま……っ」

 ふわりと唇が重なった。土方の薄い唇が私の下唇を食んで引き、舌先で舐めてみせる。僅かに開いた隙間に土方の息がかかると、今までとは違う何かが腰に伝わり、昨夜のことが脳裏に蘇った。下腹の奥の方が縮まる感覚と、明らかに脚のあわいのあの場所が、触れてもいないのに何かが湧き出る感覚があった。

(やっぱりおかしいっ。私が触れられているのは唇だ。なのにどうしてあんな所が)

 言葉では説明の付かないものがあり、むずむずするのを膝を強く擦り合わせてごまかした。なぜか分からないけれど、そんな状態の自分を土方に悟られてはならないと思ったのだ。悟られたら何かが変わってしまいそうな気がしたから。

「口吸いが好きか」
「な、なぜっ……ふぁっ」

 唇だけだったのに、土方は自分の舌を私の口内に押し込んできた。口の中が土方のそれでいっぱいで、息をするのもままならない。でも、さっきよりも強く私の中の何かを暴こうとしているのは分かった。土方の舌が私の舌を捕らえ、押したり吸ったり撫でたりする。そうされると私はもう駄目で、なんの抵抗もできなくなっていった。

「ん、んっ……はっ、んっ」
「もう飛んじまいそうだな」

 土方が言わんとすることが何なのか、もう考えられない。私はすっかり土方の口吸いの虜になっていた。

「口だけじゃ、鎮まらねえよな。昨夜のアレで、お前はもう女の悦びを知っちまったもんな」
「悦びっ、て……あっ」

 土方は固く閉じた私の膝に手を置いた。昨夜のあられもなく乱れた自分の姿が思い出される。だから絶対に開いては駄目だと強く自分に言い聞かせた。それに勘付いたのか土方は無理に開こうとはせず、そっと私の脹脛ふくらはぎを手のひらで撫で上げた。

「つああっ、んっ」

 土方のたったそれだけの触れ方に体中が甘く痺れた。そう、この時に初めて痺れに甘さがあることを知った。それに力が入らず、抗う力を奪われてしまう事に恐怖を感じる。

「おまっ」
「ふうんっ、さ、触らないでくださっ……」
「随分と敏感だな……」
「嫌なんです。どうしてこんなっ、やっぱり私はおかしい」

 体を起こそうとしても土方の重みで起き上がれない。何とかしてこの態勢を崩さなければ、私は私でなくなるかもしれない。

「おかしくないと、言っただろう。少しばかし感じやすいみたいだが……悪くはない」
「えっ、あっ、やめぇ……っあ!」

 土方の熱い手が隙きを突いて私の膝を割った。私は自分の手でそれ以上の侵入を防ぐべく土方の手を押えた。力の入らない状態では大した抵抗にはならず、土方の手は太腿の内側まで上がってきた。

「駄目、です」
「駄目、か……」
「だ、だめですよ。だって、そんなところ……触ってはいけません」
「本当に何にも知らねえんだな」

 土方は何度か瞬きをした後、反対の手で私の腰紐を解いた。やめてくれると思っていた私は慌てた。

「土方さんっ」
「痛いことはしない。火照った体を鎮めてやるだけだ」
「あ、ま、待ってください」

 土方は私の言葉を無視して寝間着の合わせを開いた。土方の手が肌襦袢の上から臍の辺りを優しく円を描くように撫でる。直接触れられていないのに、私の体は怖いくらいに反応をした。

(私の体がっ、おかしい!)

「ほら、腰が揺れてるじゃねえか。観念したらどうだ。さっさと達したほうが楽だろ」
「い、意味が分かりませっ……ふあっ」

 襦袢の上から土方は私の乳を食んだ。腰を撫でられながらそうされると、私の腰は勝手に揺れた。私の知らない、もう一人の自分がいるみたいだ。それが怖くて、逃れたくて、私は踵で布団を蹴った。けれどなんの意味もなく、余計に土方の懐に埋まってしまう。そのせいで開くまいと固く閉じていた脚は無防備になり、簡単に土方の手を許してしまった。腰巻きの下に土方が手を伸ばす。

「力を抜け」
「いやっ、いっ……あっ!」

 叫びそうになった時、土方は私の口を唇で塞いだ。土方の熱い舌が再び口内を暴れ、片手は乳をもみ、そしてもう片方の手は下肢の誰にも見せたことのない場所を暴いていた。

(熱い……熱い!)

 私の体が熱いのか、土方の体が熱いのか分からない。腹の底から込み上げる何かに、私は恐ろしさを隠せなかった。口吸いから解放されると、私は土方の胸に顔を押しあててその熱に怯えた。

「逆らうな」
「土方さんっ、熱いです。怖いっ……あっ、あん……やっ、やだぁ」
「おい。俺の眼を見ろ……大丈夫だ。その熱を解放するだけだ」
「あっ、あっ、怖いっ……土方さ」

 目から涙が溢れてくる。土方は私の頭を胸に抱え込んで耳元で大丈夫だと何度も私に言い聞かせた。そして私はとうとうその熱を、土方の導きで解き放った。ガクガクと揺れる体、はっはっと絶えそうになる息、そして襲い来る脱力感。

「あ……んっ」
「こいつは、先が長いな」

 ぬるんと土方の指が出ていった。先が長いとはどういう意味だろうか。口を開くのが億劫で問いかけはしなかった。けれど不思議なことに、何か満たされたような気持ちになる。とても、とても近くに土方を感じているからかもしれない。こんなふうになるとは思っていなかったけれど……。

「俺も大人げねえな……原田に、嫉妬しちまうなんてな」

 惚けるとはこういうことなのだろう。私は土方の呟きを遠くに聞きながら、無意識に言葉を紡ぐ。

「あの、ありがとうございました」
「……」

 なぜか土方は驚いたような顔をして、そのあと目尻を下げて笑った。とても優しい笑みだ。


「はぁ……お前には敵わねえな。まあいい、明日から稽古に付き合え」
「はい。喜んで」

 土方の手が包み込むように私の頬を撫でた。今までこんなに優しく触れられた事があっただろうか。まるでその手は私のことを好いていると言っているようで、とても幸せな気持ちにさせてくれた。

「もう、寝ろ。明日から稽古をして体を戻す。早く山口が率いる新選組と合流したい」
「はい」

 驚いたことに土方は私を背中から抱え込んで同じ布団に入った。はだけた寝間着を適当に合わせて私の腹に土方の手が重なる。驚きと戸惑いと、嬉しさが入り交じる。土方に私のことをどう思っているのか聞く勇気はないけれど、このひと時は忘れないようにしたいと思う。少なくとも私は土方の事が、好きだ。土方の為なら命さえ惜しまない。

 それほどに、私は……。

「土方さん……」

 頭の上で寝息が聞こえる。だから呼んでみた。返事をされても困るから。

(いつか、歳三さんて……呼んでみたい。いつか、常葉って呼んでもらいたい)

 満たされると新たな欲が溢れ出す。


 そして、この会津でもまた熾烈で残酷な戦いが待っていると、今の私は想像していなかった。多くの若き魂が散りゆくなんて……思っていなかった。
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