エンドロールに誰を流そう

大野

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君はどんな人

想像の中だよね

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「あの本は、私の大切なものなの。あなたは、どうしてあの本をお家で毎日読んでいるの?」

その本は、平凡な日常を描いた本。
本を読んでいる、というよりも、別のベクトルの日常に溶け込むためにある、という印象。
もし私が、この主人公のように、浮かず目立たず、静かに暮らすことができたら、視線より先に風や天気を気にしていたんだろうなと、思える本。

「私は、どうして、と一言で言ってしまうのは難しいのだけれど、強いていうなら、何の変哲もない、普通の日常を、ふと吹く風や水溜りに反射する空を見ながら生きる主人公に自分を重ねるから、かな。」

「そう、やっぱり、そうよね。私もなの。」

嬉しくなり、ついつい、早口で返してしまう。
ああ、駄目、落ち着かないとね。

「そうなんだね。私ね、友人にオススメをした時に、つまらない、と一蹴されてしまって。そこから、また、何人かにオススメしたのだけど、やっぱり皆、つまらないって。ストーリー性がないって。だからね、読んでいるところを見つけて、本当に嬉しかったんだよ。私を肯定してくれる人を見つけたみたいで。ずっと、お話がしたい。あわよくば、お友達になりたい。って思っていたの。」

だから、ついつい話しかけてしまったの、と。

正直、本1つでここまでの感情を抱いている人が、私以外にも居たことに驚いている。
同年代の、同じクラスの子に!

「私ね、こんな風に日常を感じ取れたらどんなに楽しいだろう、と思っていたの。でも、いざ、心に決めて家を出ても、結局気になるのは視線だけ。学校に着く前にはいつもの自分に戻っているわ。だからね、学校で、読み返すの。『ふんわりと柔らかい風が前へ進めと背中を優しく押す』って言葉が載っているところから、ゆっくり読み返すの。」

そして、ゆっくり、我にかえる。
ああ、なんてこと。
話しすぎだわ。
気持ち悪い、と思われたらどうしよう。
現状が把握しきれない。
さっきまでの温かな感情を自ら打ち消し、
嫌悪に走る。

「そう、そうだったんだね。でも、何度も言うけれど、あなたはとても綺麗な人だよ。」

そんなことはない、と即座に否定する。

「私が綺麗だと思ったものを否定するだなんて、あなた、酷いことを言うんだね。」

はっとする。
-私の見つけた宝石を、宝石と呼ぶに値しないだなんて、あなた、酷いことを言うのね。
想像の中で、私が言った言葉。
あの時の私の気持ちは、どんな気持ちだったかしら。
目の前の宝石を宝石でないと一蹴された気持ち。
綺麗なものを、そんなんじゃないと否定される気持ち。

「ふふっ、こういうことだったのね。ごめんなさい、ふふっ。私、あなたに会えてとても幸せだわ。ありがとう。」

心から、幸せな気持ちだった。
自分を少し、肯定できた。
彼の気持ちもわかった。
でも、彼女の気持ちもわかる。
なんて、素敵な気持ちなのかしら。

「何を言っているのかが、よく分からないよ。こういうことって?」

少し怪訝に、でも、幸せそうに笑いながら彼女は尋ねる。

「お友達になってから、このお話をしましょう。」
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