11 / 32
君はどんな人
想像の中だよね
しおりを挟む
「あの本は、私の大切なものなの。あなたは、どうしてあの本をお家で毎日読んでいるの?」
その本は、平凡な日常を描いた本。
本を読んでいる、というよりも、別のベクトルの日常に溶け込むためにある、という印象。
もし私が、この主人公のように、浮かず目立たず、静かに暮らすことができたら、視線より先に風や天気を気にしていたんだろうなと、思える本。
「私は、どうして、と一言で言ってしまうのは難しいのだけれど、強いていうなら、何の変哲もない、普通の日常を、ふと吹く風や水溜りに反射する空を見ながら生きる主人公に自分を重ねるから、かな。」
「そう、やっぱり、そうよね。私もなの。」
嬉しくなり、ついつい、早口で返してしまう。
ああ、駄目、落ち着かないとね。
「そうなんだね。私ね、友人にオススメをした時に、つまらない、と一蹴されてしまって。そこから、また、何人かにオススメしたのだけど、やっぱり皆、つまらないって。ストーリー性がないって。だからね、読んでいるところを見つけて、本当に嬉しかったんだよ。私を肯定してくれる人を見つけたみたいで。ずっと、お話がしたい。あわよくば、お友達になりたい。って思っていたの。」
だから、ついつい話しかけてしまったの、と。
正直、本1つでここまでの感情を抱いている人が、私以外にも居たことに驚いている。
同年代の、同じクラスの子に!
「私ね、こんな風に日常を感じ取れたらどんなに楽しいだろう、と思っていたの。でも、いざ、心に決めて家を出ても、結局気になるのは視線だけ。学校に着く前にはいつもの自分に戻っているわ。だからね、学校で、読み返すの。『ふんわりと柔らかい風が前へ進めと背中を優しく押す』って言葉が載っているところから、ゆっくり読み返すの。」
そして、ゆっくり、我にかえる。
ああ、なんてこと。
話しすぎだわ。
気持ち悪い、と思われたらどうしよう。
現状が把握しきれない。
さっきまでの温かな感情を自ら打ち消し、
嫌悪に走る。
「そう、そうだったんだね。でも、何度も言うけれど、あなたはとても綺麗な人だよ。」
そんなことはない、と即座に否定する。
「私が綺麗だと思ったものを否定するだなんて、あなた、酷いことを言うんだね。」
はっとする。
-私の見つけた宝石を、宝石と呼ぶに値しないだなんて、あなた、酷いことを言うのね。
想像の中で、私が言った言葉。
あの時の私の気持ちは、どんな気持ちだったかしら。
目の前の宝石を宝石でないと一蹴された気持ち。
綺麗なものを、そんなんじゃないと否定される気持ち。
「ふふっ、こういうことだったのね。ごめんなさい、ふふっ。私、あなたに会えてとても幸せだわ。ありがとう。」
心から、幸せな気持ちだった。
自分を少し、肯定できた。
彼の気持ちもわかった。
でも、彼女の気持ちもわかる。
なんて、素敵な気持ちなのかしら。
「何を言っているのかが、よく分からないよ。こういうことって?」
少し怪訝に、でも、幸せそうに笑いながら彼女は尋ねる。
「お友達になってから、このお話をしましょう。」
その本は、平凡な日常を描いた本。
本を読んでいる、というよりも、別のベクトルの日常に溶け込むためにある、という印象。
もし私が、この主人公のように、浮かず目立たず、静かに暮らすことができたら、視線より先に風や天気を気にしていたんだろうなと、思える本。
「私は、どうして、と一言で言ってしまうのは難しいのだけれど、強いていうなら、何の変哲もない、普通の日常を、ふと吹く風や水溜りに反射する空を見ながら生きる主人公に自分を重ねるから、かな。」
「そう、やっぱり、そうよね。私もなの。」
嬉しくなり、ついつい、早口で返してしまう。
ああ、駄目、落ち着かないとね。
「そうなんだね。私ね、友人にオススメをした時に、つまらない、と一蹴されてしまって。そこから、また、何人かにオススメしたのだけど、やっぱり皆、つまらないって。ストーリー性がないって。だからね、読んでいるところを見つけて、本当に嬉しかったんだよ。私を肯定してくれる人を見つけたみたいで。ずっと、お話がしたい。あわよくば、お友達になりたい。って思っていたの。」
だから、ついつい話しかけてしまったの、と。
正直、本1つでここまでの感情を抱いている人が、私以外にも居たことに驚いている。
同年代の、同じクラスの子に!
「私ね、こんな風に日常を感じ取れたらどんなに楽しいだろう、と思っていたの。でも、いざ、心に決めて家を出ても、結局気になるのは視線だけ。学校に着く前にはいつもの自分に戻っているわ。だからね、学校で、読み返すの。『ふんわりと柔らかい風が前へ進めと背中を優しく押す』って言葉が載っているところから、ゆっくり読み返すの。」
そして、ゆっくり、我にかえる。
ああ、なんてこと。
話しすぎだわ。
気持ち悪い、と思われたらどうしよう。
現状が把握しきれない。
さっきまでの温かな感情を自ら打ち消し、
嫌悪に走る。
「そう、そうだったんだね。でも、何度も言うけれど、あなたはとても綺麗な人だよ。」
そんなことはない、と即座に否定する。
「私が綺麗だと思ったものを否定するだなんて、あなた、酷いことを言うんだね。」
はっとする。
-私の見つけた宝石を、宝石と呼ぶに値しないだなんて、あなた、酷いことを言うのね。
想像の中で、私が言った言葉。
あの時の私の気持ちは、どんな気持ちだったかしら。
目の前の宝石を宝石でないと一蹴された気持ち。
綺麗なものを、そんなんじゃないと否定される気持ち。
「ふふっ、こういうことだったのね。ごめんなさい、ふふっ。私、あなたに会えてとても幸せだわ。ありがとう。」
心から、幸せな気持ちだった。
自分を少し、肯定できた。
彼の気持ちもわかった。
でも、彼女の気持ちもわかる。
なんて、素敵な気持ちなのかしら。
「何を言っているのかが、よく分からないよ。こういうことって?」
少し怪訝に、でも、幸せそうに笑いながら彼女は尋ねる。
「お友達になってから、このお話をしましょう。」
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる