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颯の変化:02
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淡々と、恥ずかしさなど
微塵も見せずに過去を語っていた颯が――
この話だけは、頑なに口を閉ざした。
まるで、その記憶の扉に
深く鍵をかけているように。
その先に踏み込むのは……怖かった。
知ってはいけない気がしたし
何より――颯が可哀想に思えた。
それでも、その寂しそうな表情を見ていると
抑えきれない愛しさが
胸の奥から溢れてきてしまう。
柊は、気づけばあの夜と同じように
颯を抱きしめていた。
腕の中で、颯の身体がピクッと震える。
「……先輩」
かすかに呼ぶ声が耳に触れ
柊は少し笑みを含ませた。
「ご主人様……
話してくれてありがとう。」
言葉を選びながら、ゆっくりと告げる。
「他の人たちは一度だけなんだよね。
でも……俺には、何度も躾けてくれて
ご褒美もくれる。」
「ってことは――俺が特別なわんこ。
ってことだよね?」
颯は何も言わず黙って聞いていた。
その瞳に、揺れるような光が見えた気がする。
「これからも、俺は颯のわんこです。
どこにも行かないから。」
「だから……ご主人様も
どこにも行かないでね。」
柊はさらに腕に力を込め、低く囁く。
「俺だけを躾けて
俺だけにご褒美をください」
そして、はっきりと言い切った。
「俺は……颯のものです」
その告白は
柊なりの精一杯の気遣いであり
同時に、逃れられないほどの
愛の告白だった。
颯は短く息を吐き
わずかに目を伏せると
「……ほんと、可愛いですよね。先輩は」
「ふふっ。お利口なワンコくん。」
と小さく笑った。
その笑顔は、どこか安心したようで――
少しだけ泣きそうにも見えた。
颯は、柊の腕の中でふっと笑った。
「……なんか、酔いが覚めちゃいました」
その声はいつもの軽さを残しつつ
どこか深く沈んでいて、耳の奥に残る。
「……ごめん」
柊がそう言うと
颯はゆっくり首を横に振った。
「なんで謝るんですか?」
そう言いながら
柊の頭を優しく撫でる。
指先が髪を梳くたび
妙に落ち着かない熱が背中を走る。
「……酔いが覚めちゃったので」
颯は少し顔を近づけ
耳元にだけ落とすように囁いた。
「このまま、ワンコくんを
抱かせてくれませんか」
低く甘い声が
柊の胸の奥をざわつかせる。
気づけば、ベッドに背を預けていた。
覆いかぶさる体温
頬をかすめる吐息。
視界の端で
夜の灯りがやわらかく揺れる。
「愛されている」と感じてしまう。
錯覚ではなくて身体を打ち込まれるたびに
「愛されている」と
身も心も感じてしまっていた。
いつもより、優しく丁寧に
颯は、抱いてくれたから。
やがて――ふたりはそのまま
熱を絡めて夜へと溶けていった。
つづく
微塵も見せずに過去を語っていた颯が――
この話だけは、頑なに口を閉ざした。
まるで、その記憶の扉に
深く鍵をかけているように。
その先に踏み込むのは……怖かった。
知ってはいけない気がしたし
何より――颯が可哀想に思えた。
それでも、その寂しそうな表情を見ていると
抑えきれない愛しさが
胸の奥から溢れてきてしまう。
柊は、気づけばあの夜と同じように
颯を抱きしめていた。
腕の中で、颯の身体がピクッと震える。
「……先輩」
かすかに呼ぶ声が耳に触れ
柊は少し笑みを含ませた。
「ご主人様……
話してくれてありがとう。」
言葉を選びながら、ゆっくりと告げる。
「他の人たちは一度だけなんだよね。
でも……俺には、何度も躾けてくれて
ご褒美もくれる。」
「ってことは――俺が特別なわんこ。
ってことだよね?」
颯は何も言わず黙って聞いていた。
その瞳に、揺れるような光が見えた気がする。
「これからも、俺は颯のわんこです。
どこにも行かないから。」
「だから……ご主人様も
どこにも行かないでね。」
柊はさらに腕に力を込め、低く囁く。
「俺だけを躾けて
俺だけにご褒美をください」
そして、はっきりと言い切った。
「俺は……颯のものです」
その告白は
柊なりの精一杯の気遣いであり
同時に、逃れられないほどの
愛の告白だった。
颯は短く息を吐き
わずかに目を伏せると
「……ほんと、可愛いですよね。先輩は」
「ふふっ。お利口なワンコくん。」
と小さく笑った。
その笑顔は、どこか安心したようで――
少しだけ泣きそうにも見えた。
颯は、柊の腕の中でふっと笑った。
「……なんか、酔いが覚めちゃいました」
その声はいつもの軽さを残しつつ
どこか深く沈んでいて、耳の奥に残る。
「……ごめん」
柊がそう言うと
颯はゆっくり首を横に振った。
「なんで謝るんですか?」
そう言いながら
柊の頭を優しく撫でる。
指先が髪を梳くたび
妙に落ち着かない熱が背中を走る。
「……酔いが覚めちゃったので」
颯は少し顔を近づけ
耳元にだけ落とすように囁いた。
「このまま、ワンコくんを
抱かせてくれませんか」
低く甘い声が
柊の胸の奥をざわつかせる。
気づけば、ベッドに背を預けていた。
覆いかぶさる体温
頬をかすめる吐息。
視界の端で
夜の灯りがやわらかく揺れる。
「愛されている」と感じてしまう。
錯覚ではなくて身体を打ち込まれるたびに
「愛されている」と
身も心も感じてしまっていた。
いつもより、優しく丁寧に
颯は、抱いてくれたから。
やがて――ふたりはそのまま
熱を絡めて夜へと溶けていった。
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