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颯のマーキング:04
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2日目の商談は、順調に終わった。
クライアントの反応も良好で
思った以上にスムーズだった。
ホテルに戻ったのは、夕方。
ふたりで簡単に打ち上げを兼ねた
夕食を済ませ、早めに部屋へ戻った。
昨夜と同じ、ツインルーム。
同じ配置。同じ匂い。
ただ、柊の中で“なにか”が違っていた。
「今日もお疲れ様でした」
颯はベッドの上で
パソコンを広げて明日の報告資料を整理している。
「……お前、ほんと真面目だな」
柊は窓際の椅子に座ったまま
缶コーヒーを片手にぽつりと呟いた。
「真面目じゃないと
先輩に怒られるかと思って」
「はは。別に、怒らないよ」
笑って返したつもりだったけど
颯はふわりと笑うだけで
目だけはどこか冷めていた。
その目が、柊は少しだけ苦手だった。
時計の針が21時を回った頃
「先にシャワー、浴びていいですか」
と颯が言って、バスルームへ消えた。
静かになった部屋で
柊はなんとなくベッドに腰を下ろす。
昨晩のことが、ふと脳裏をかすめた。
曖昧に濁った記憶のまま
未だにはっきりしない。
けれど――
「……今日の夜も来るかな……」
そう思ってしまった時点で
なんとなく“期待している”
自分に気づいてしまった。
やがて浴室のドアが開き
濡れた髪のままラフなTシャツに
着替えた颯が出てくる。
「先輩もどうぞ」
その声は変わらず、穏やかだった。
柊がシャワーを終えて出てきた頃には
颯はもうベッドに潜り込んでいた。
灯りを落とすと、部屋は暗闇に包まれた。
静けさの中に、ふたつの呼吸が重なる。
しばらくは何も起こらなかった。
――気にしすぎだったか。
柊がそう思いかけたそのとき。
ふいに、布団越しに颯の手が触れた。
指先だけ。
確かに、柊の手の甲に触れている。
「……また寝てる間だったら
何してもいいんですか?」
小さく囁かれた声に、身体が反応する。
それでも、声は出なかった。
返事ではない“沈黙”を
颯は肯定と受け取ったのか。
ゆっくりと指先が手のひらをなぞり始める。
「昨日より、あったかいです」
その声音が、どこか嬉しそうだった。
柊の喉が、乾いていた。
眠ろうとすればするほど、
その手の熱が皮膚に染み込んでくる。
声を出せば終わるのに。
逃げれば届かないのに。
――なぜ、しなかったんだろう。
ふたりの間に
身体の重なりはない。
ただの“指先”だけ。
けれど、柊は思っていた。
――これ以上、踏み込まれたら。
たぶん、俺は。
きっともう、戻れない。
クライアントの反応も良好で
思った以上にスムーズだった。
ホテルに戻ったのは、夕方。
ふたりで簡単に打ち上げを兼ねた
夕食を済ませ、早めに部屋へ戻った。
昨夜と同じ、ツインルーム。
同じ配置。同じ匂い。
ただ、柊の中で“なにか”が違っていた。
「今日もお疲れ様でした」
颯はベッドの上で
パソコンを広げて明日の報告資料を整理している。
「……お前、ほんと真面目だな」
柊は窓際の椅子に座ったまま
缶コーヒーを片手にぽつりと呟いた。
「真面目じゃないと
先輩に怒られるかと思って」
「はは。別に、怒らないよ」
笑って返したつもりだったけど
颯はふわりと笑うだけで
目だけはどこか冷めていた。
その目が、柊は少しだけ苦手だった。
時計の針が21時を回った頃
「先にシャワー、浴びていいですか」
と颯が言って、バスルームへ消えた。
静かになった部屋で
柊はなんとなくベッドに腰を下ろす。
昨晩のことが、ふと脳裏をかすめた。
曖昧に濁った記憶のまま
未だにはっきりしない。
けれど――
「……今日の夜も来るかな……」
そう思ってしまった時点で
なんとなく“期待している”
自分に気づいてしまった。
やがて浴室のドアが開き
濡れた髪のままラフなTシャツに
着替えた颯が出てくる。
「先輩もどうぞ」
その声は変わらず、穏やかだった。
柊がシャワーを終えて出てきた頃には
颯はもうベッドに潜り込んでいた。
灯りを落とすと、部屋は暗闇に包まれた。
静けさの中に、ふたつの呼吸が重なる。
しばらくは何も起こらなかった。
――気にしすぎだったか。
柊がそう思いかけたそのとき。
ふいに、布団越しに颯の手が触れた。
指先だけ。
確かに、柊の手の甲に触れている。
「……また寝てる間だったら
何してもいいんですか?」
小さく囁かれた声に、身体が反応する。
それでも、声は出なかった。
返事ではない“沈黙”を
颯は肯定と受け取ったのか。
ゆっくりと指先が手のひらをなぞり始める。
「昨日より、あったかいです」
その声音が、どこか嬉しそうだった。
柊の喉が、乾いていた。
眠ろうとすればするほど、
その手の熱が皮膚に染み込んでくる。
声を出せば終わるのに。
逃げれば届かないのに。
――なぜ、しなかったんだろう。
ふたりの間に
身体の重なりはない。
ただの“指先”だけ。
けれど、柊は思っていた。
――これ以上、踏み込まれたら。
たぶん、俺は。
きっともう、戻れない。
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