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「……嗅ぐだけで、満たされてますか?」
その言葉がきっかけだった。否、もしかしたら──その前から、ずっと頭の片隅にはあったのかもしれない。
否、嗅ぐというステップを超えた先には、きっとそれ以上を求めてしまう人間としての本能がある。この欲望を自分が覚えることは必然だったのかもしれない。
この柔らかい、脇を舐める? かすかに汗を含んだ湿度と体温で蒸された空気。
ずっと嗅いでいたその香りがいま、別の形に変わって迫ってくる。
(どんな、味がするんだろう──)
頭の中に、静かに波紋が広がる。しょっぱいのか。甘いのか。舌にのせたら、もっと濃くてもっと熱いのか。
嗅覚だけではもう届かない場所があるのかもしれない。その場所への、道が拓かれている。喉の奥が、ずるりと重たくなる。
──味わいたい。
──欲しい。
小さく喉が鳴った。その音に反応するように、颯がふっと息を吐いた。
「……先輩。ほんと、わかりやすいですね」
見下ろす瞳は、甘く潤んでいて、けれど、どこまでも深く逃げ場がなかった。
「その顔……完全に舌がうずいてるじゃないですか」
「……ねえ、味わってもいいんですよ? 先輩がどうしてもってお願いするなら──僕、許してあげます」
「だから……欲しいなら、素直にお願いしてください」
「……欲しい」
かすれた声が、息と一緒に漏れた。視線を逸らし、顔を伏せたまま。
「舐めたい……」
「神城の脇を…………舐めたい……お願い……」
言ってしまった。それは確かに、自分自身の意志だった。
沈黙が落ちる。そして──すぐに甘くて優しい声が降ってくる。
「ふふっ……。よく言えました」
颯は吐息混じりの声で俺の髪を優しく撫でた。
「お願いできたご褒美です。味わってください……先輩」
(ああ……)
(もう、戻れない)
その言葉と共に最後の抵抗が溶けていった。すでに鼻先に密着していた肌へ俺はゆっくりと──舌を伸ばした。
ほんの一瞬、肌の上をぬるく滑った感触。
舌先を刺激する淡い塩味。体温に溶けた、匂いとは違う味。
「ぁ……っ」
舌が触れると、颯は小さく吐息を漏らす。
もう一度、舌を這わせる。ゆっくりと、ためらいがちに。でも──確かに味わっていた。
その感覚を颯は身体をピクッと震わせながら感じていた。目を細めて、満ち足りたように。
「ふふ……どうですか?」
「嗅いでるだけより、ずっと……濃いですか?」
「……ちゃんと、味も覚えてくださいね? 先輩だけにあげてるんですから」
舌を這わせた瞬間。
世界が音を失った。濡れた肌に触れた舌の温度が、音になって溶ける。
酸味と体温、そして微かに残る柔らかな清潔感の名残。
ぴと……じゅるっ……くちゅ……
香りが内側に満ちていたときとは違う。今は、味がそのまま口の中に流れ込んでくる。
ちゅぷ……れろっ……くちゅぬちゅ……
舐める。また、舐める。
颯の湿ったくぼみの味を、ぬるん、ぬちゃり……と、舌の根まで使って味わう。
舌の裏に絡まるような粘膜の熱が喉奥へ、ゆっくり沈んでいく。
「……はぁ、……っ」
そのたびに、颯が甘く吐息を漏らす。浅く息を吸い、また吐くたびに、鼻先にふわりと舞い戻る肌の奥に染みついた香り。
すぅ……くん……ふっ……はぁ……
自分の呼吸が乱れる。そして──上からも。
「ふっ、……ん、先輩……」
颯の声が降りてくると同時に、ふたりの吐息が空気の中で絡み合い、音の膜を作っていく。
頬を挟むように密着する両脇の間。そこはもう、濡れた吐息と音が溜まっていく空洞。
ぬちゅ、ぬちゅっ、ぴと……れろ……
粘る舌がまた、這う。吸い上げるように、奥へ、奥へと滑らせる。舌の動きに合わせて、肌がぴくりと震える。
唾液に滲んだ汗が混ざって、音が変わる。そのしょっぱさが──なぜか、愛しくて仕方がなかった。
(もっと……)
乾いた喉が、それを欲していた。舌をねじ込むように角度を変えて、くぼみのさらに奥へ、深くのめり込んでいく。
ずる……ちゅっ……ぬぽっ……れろ……
「……ん、ふふ……すごい」
「……先輩、もう……完全に夢中ですね」
「はっ……ふぅ……」
颯の脇からだらしない音がふたりの間を濡らす。
それでも──止められない。理性の痛みすら、蕩けた快感にすり替わっていた。
知らず、俺の指がそっと颯の腰に添えられていた。逃がさないように。もっと深く感じ取るように。
ふたりの身体が重なったまま、時間も、空気も、音さえもすべてがひとつに溶けていく。ただ呼吸と味覚と、頬を挟む肌のぬくもりだけが、現実のすべてだった。
その言葉がきっかけだった。否、もしかしたら──その前から、ずっと頭の片隅にはあったのかもしれない。
否、嗅ぐというステップを超えた先には、きっとそれ以上を求めてしまう人間としての本能がある。この欲望を自分が覚えることは必然だったのかもしれない。
この柔らかい、脇を舐める? かすかに汗を含んだ湿度と体温で蒸された空気。
ずっと嗅いでいたその香りがいま、別の形に変わって迫ってくる。
(どんな、味がするんだろう──)
頭の中に、静かに波紋が広がる。しょっぱいのか。甘いのか。舌にのせたら、もっと濃くてもっと熱いのか。
嗅覚だけではもう届かない場所があるのかもしれない。その場所への、道が拓かれている。喉の奥が、ずるりと重たくなる。
──味わいたい。
──欲しい。
小さく喉が鳴った。その音に反応するように、颯がふっと息を吐いた。
「……先輩。ほんと、わかりやすいですね」
見下ろす瞳は、甘く潤んでいて、けれど、どこまでも深く逃げ場がなかった。
「その顔……完全に舌がうずいてるじゃないですか」
「……ねえ、味わってもいいんですよ? 先輩がどうしてもってお願いするなら──僕、許してあげます」
「だから……欲しいなら、素直にお願いしてください」
「……欲しい」
かすれた声が、息と一緒に漏れた。視線を逸らし、顔を伏せたまま。
「舐めたい……」
「神城の脇を…………舐めたい……お願い……」
言ってしまった。それは確かに、自分自身の意志だった。
沈黙が落ちる。そして──すぐに甘くて優しい声が降ってくる。
「ふふっ……。よく言えました」
颯は吐息混じりの声で俺の髪を優しく撫でた。
「お願いできたご褒美です。味わってください……先輩」
(ああ……)
(もう、戻れない)
その言葉と共に最後の抵抗が溶けていった。すでに鼻先に密着していた肌へ俺はゆっくりと──舌を伸ばした。
ほんの一瞬、肌の上をぬるく滑った感触。
舌先を刺激する淡い塩味。体温に溶けた、匂いとは違う味。
「ぁ……っ」
舌が触れると、颯は小さく吐息を漏らす。
もう一度、舌を這わせる。ゆっくりと、ためらいがちに。でも──確かに味わっていた。
その感覚を颯は身体をピクッと震わせながら感じていた。目を細めて、満ち足りたように。
「ふふ……どうですか?」
「嗅いでるだけより、ずっと……濃いですか?」
「……ちゃんと、味も覚えてくださいね? 先輩だけにあげてるんですから」
舌を這わせた瞬間。
世界が音を失った。濡れた肌に触れた舌の温度が、音になって溶ける。
酸味と体温、そして微かに残る柔らかな清潔感の名残。
ぴと……じゅるっ……くちゅ……
香りが内側に満ちていたときとは違う。今は、味がそのまま口の中に流れ込んでくる。
ちゅぷ……れろっ……くちゅぬちゅ……
舐める。また、舐める。
颯の湿ったくぼみの味を、ぬるん、ぬちゃり……と、舌の根まで使って味わう。
舌の裏に絡まるような粘膜の熱が喉奥へ、ゆっくり沈んでいく。
「……はぁ、……っ」
そのたびに、颯が甘く吐息を漏らす。浅く息を吸い、また吐くたびに、鼻先にふわりと舞い戻る肌の奥に染みついた香り。
すぅ……くん……ふっ……はぁ……
自分の呼吸が乱れる。そして──上からも。
「ふっ、……ん、先輩……」
颯の声が降りてくると同時に、ふたりの吐息が空気の中で絡み合い、音の膜を作っていく。
頬を挟むように密着する両脇の間。そこはもう、濡れた吐息と音が溜まっていく空洞。
ぬちゅ、ぬちゅっ、ぴと……れろ……
粘る舌がまた、這う。吸い上げるように、奥へ、奥へと滑らせる。舌の動きに合わせて、肌がぴくりと震える。
唾液に滲んだ汗が混ざって、音が変わる。そのしょっぱさが──なぜか、愛しくて仕方がなかった。
(もっと……)
乾いた喉が、それを欲していた。舌をねじ込むように角度を変えて、くぼみのさらに奥へ、深くのめり込んでいく。
ずる……ちゅっ……ぬぽっ……れろ……
「……ん、ふふ……すごい」
「……先輩、もう……完全に夢中ですね」
「はっ……ふぅ……」
颯の脇からだらしない音がふたりの間を濡らす。
それでも──止められない。理性の痛みすら、蕩けた快感にすり替わっていた。
知らず、俺の指がそっと颯の腰に添えられていた。逃がさないように。もっと深く感じ取るように。
ふたりの身体が重なったまま、時間も、空気も、音さえもすべてがひとつに溶けていく。ただ呼吸と味覚と、頬を挟む肌のぬくもりだけが、現実のすべてだった。
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