上 下
6 / 165

金色の小鳥

しおりを挟む
朝目が覚めた瞬間、私はバランスを崩して椅子から落ちる。

「いてて…私、あのまま寝てしまっていたのね」

腰を摩りながら立ち上がると、そっとバスケットを覗き込む。この子の様子が気になり、結局ベッドでは寝付けなかったのだ。

小さなまん丸の瞳がこちらをじっと見つめている。私は怖がらせないよう注意を払いながら、にこりと微笑んだ。

「おはよう。怖がらなくても大丈夫。すぐにここから逃すから」

ゆっくりとバスケットを抱えると、隙間風の吹き込む傾いた窓を開ける。

「ほら、お行き。もう自由よ」
「…」

おかしい。私の治癒でこの子の傷は癒えたのだから、飛び立てないはずがない。ましてやこの黄金色の美しい小鳥は…

「お前は魔物でしょう?いつまでもここにいてはいけないわ」

バスケットを軽く揺すると、小鳥はさも億劫だと言わんばかりにゆっくりと羽をはためかせる。そのまま窓から飛び立っていくのかと思いきや、なんと私の頭上に落ち着いてしまったのだ。

「とっても不思議な子なのね、お前は」

私は諦めて、腕を伸ばし小鳥をちょいとつついた。

私は聖女であり、魔物と相反する存在。小鳥といえどこんな風に関わりを持つなんて、きっと許されることじゃない。

私の中の理性はきちんと、答えをはじき出しているはずなのに。

「お前の好きな時に家にお帰り。ここにいることは誰にも言わないし、私以外に住んでいる人もいないから」

どうしてだろう。毎日毎日あれだけ人に触れ、その温もりを肌で感じているのに。

頭の上にいるこの小さな魔物から感じる鼓動と体温の方が、ずっと暖かいと感じるなんて。

「おいで。一緒にパンを食べましょう。少し固いかもしれないけれど」

ふかふかの白いパンを出してあげられない自分を、情けないと思う。

ふっと影が落ちたかと思えば、金色の小鳥が私の頬に擦り寄ってきた。

「もしかして、慰めてくれてるの?」

当然、小鳥は答えない。もしかして魔物はこんな姿をしていても、人間の言葉が理解できるのかしら。

詳しくは分からないけれど、この子の仕草はとても可愛らしい。

「名前…つけてもいいかな。いいよね、少しの間だけだし」

ちょいちょいと嘴を触ると嫌そうに首を振るのがおかしくて、思わず笑みが溢れる。

「綺麗な黄金の羽…私、あなたのことオーロって呼ぶわね。いい?オーロ」

小鳥はつんつんと優しく私の手の甲をつつく。まるで言葉を理解しているような仕草に驚きつつ、私の胸の中には温かな感情がじんわりと染み込んでいった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【祝福の御子】黄金の瞳の王子が望むのは

BL / 完結 24h.ポイント:901pt お気に入り:976

沈むカタルシス

BL / 連載中 24h.ポイント:333pt お気に入り:31

俺が、恋人だから

BL / 完結 24h.ポイント:1,107pt お気に入り:26

【完結】いせてつ 〜TS転生令嬢レティシアの異世界鉄道開拓記〜

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:165

最低なふたり

BL / 完結 24h.ポイント:795pt お気に入り:26

氷の公爵はお人形がお気に入り~少女は公爵の溺愛に気づかない~

恋愛 / 完結 24h.ポイント:752pt お気に入り:1,595

悪役にされた令嬢は、阿呆共に報復する

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:0pt お気に入り:2,832

処理中です...