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押し殺す感情

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とっぷりと日の暮れた夜。どれだけ簡素であろうと、我が家に帰ればホッと息をつける。けれど今日みたいに、帰りたくないと思ってしまったのは初めてだ。

オーロは優しい子だから、この頬の腫れを見たらきっと哀しむ。あの子にそんな思いをさせなければならないのが、とても憂鬱だった。

「オーロ。ただいま」

扉を開けると、真っ暗な部屋に微かに光る金色の影。肩にかかる少しの重みとその温かな温もりに、私の心はじんわりと紅く染まる。

「今日は蝋燭にしましょうか」

ランプではなく蝋燭の方が、幾らか誤魔化せるだろう。そう思ってマッチで火を灯すと、オーロはすぐさま頬に擦り寄ってきた。

いつもよりもずっと優しい加減で、気を遣ったようなその行為に胸がぐっと詰まる。

この子には何でもお見通しみたい。魔物には、そういう力が備わっているのだろうか。

オーロとは明らかに意思疎通ができているし、とても気遣いのできる優しい子だ。オーロといるとまるで、人と話しているかのような錯覚を起こしてしまいそうになるほど。

「ごめんねオーロ。お前に心配ばかりかけて」

満足な寝床も、美味しいご飯も、側にいてあげることも、私には何一つ満足にしてやれない。オーロに貰ってばかりで、同じものを返してやれない自分が心底情けなかった。

「ねぇオーロ。お前は優しい子だから、私に気を遣っているんでしょう?そんなことは気にしないで、お前はお前の自由にしてもいいんだからね?」

耐えきれなくなった私は、ずるずると床にへたり込む。辛うじてベッドに上半身を預けながら、顔の側に来たオーロの羽根を指でつうっとなぞった。

するとオーロは、ビクッと体を震えわせる。その行動がまるでくすぐったがっているように見えて、思わずくすっと笑いが溢れた。

「本当に綺麗な羽根…使わなきゃもったいないわ」
「…」
「ねぇオーロ。もしも生まれ変わったら、私も鳥になりたいわ。お前みたいに美しくなくていい、この瞳のように鈍色でみすぼらしい姿でもいいから、自分だけの羽根がほしいわ」

今度は優しくゆっくりと、掌で撫でてやる。蝋燭の揺らぎに併せて、金色のシルエットもゆらりと歪んだ。

「私は聖女…私は聖女……」

私の意思とは関係なく、限界に達した身体が勝手に機能を停止しようとする。瞼が重くなり、私の視界は暗闇に包まれた。

「可愛いオーロ。お休みなさい…」

遠のく意識の中で、私に応えるようにオーロがちぃと鳴いた気がした。
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