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今日も、彼と

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すっかり朝食を食べ終え、片付けくらいは…と手伝いを申し出たけれど断られてしまった。

「キッチンには立ち入らないでいただきたい。僕の聖域ですので」

彼はさらりと口にするけれど、魔物が聖域なんて少し不思議だ。

「気にすんなイザベラ。イアンはこだわりがすげぇから」

お腹が満たされて気が済んだのか、アザゼル様は満足そうだ。

「イザベラ。今日も散歩するか?」
「よろしいのですか?」
「あ?いいに決まってんだろ」

昨日は迷惑をかけてしまったから、今日こそは気をつけなければと自身に言い聞かせる。けれど散歩と聞いて、わくわくと跳ねる心はどうすることも出来なかった。




「今日は気に登らなくていーのか?」
「はい、今日は大丈夫です」

本当は、いつまでだってあの場所にいられそうだけれど。流石にそこまでの迷惑はかけられない。

「俺に遠慮してんの?だったら」
「いえ、そうではないのです」

金の瞳を見上げながら、どう表現すれば上手く伝わるかと私は考えあぐねた。

「もちろん、また機会があるならば木の上にも登ってみたいです。けれど私は、それだけではなくて…上手く言えないのですが、その…」

まっすぐに私を見つめている彼の視線を、恥ずかしいと思ってしまう。

「一人ではないことが、その…とても楽しいと思ってしまって。何をしていても、私は…ええと…」

顔が熱い。こんな風に心の内を素直に伝えることは初めてで、どういう顔をすればいいのかさえ分からない。

「…ごめんなさい、私」
「謝んな」

アザゼル様はふわりと目を細め、私の頭に掌を乗せる。大きくて温かなそれは、彼の心そのもののような気がする。

私は聖女であり、アザゼル様は魔王だ。本来ならば、こんな風に触れ合うことはもちろん、名前だって呼び合うべきではない。

そんな簡単なことすら守れない自分を、情けないと思う。時折、罪悪感に潰されそうにも。

けれどここにいると、私は聖女である自分がどこかへ飛んでいってしまうのだ。目の前のこの人や赤髪の彼が、優しすぎるから。

イザベラと、この名を呼んでもらえることが。

堪らなく、嬉しいのだ。

「俺もお前と同じだ」
「私、と?」
「ああ」

アザゼル様は薄く笑いながら、もう一度私の頭を撫でる。

「思ってること、何だって言えよ。俺はお前を、絶対に否定しない」
「…」

ありがとうと、伝えたいのに。

溢れそうになる涙をこらえるだけで、精いっぱいだった。

(聖女として力を使うようになってから、一度だって泣いたことはなかったのに)

ここへ来てから私は、身体中から溢れそうになる程様々な感情に心を揺さぶられている。

それはきっと、悪いことであるのに。
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