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雨遊びの代償

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せっかく傘を貸してもらったのに、雨の散歩を終えて城に帰り着く頃には、私もアザゼル様もびしょびしょになっていた。

私がつい夢中になり、傘をさすのも忘れてしまいながら駆け回る。そんな私にアザゼル様は自身の傘を差し出そうと、同じように駆け回って。

そんなことを繰り返しているうちに、すっかり雨に濡れてしまったのだ。

「傘渡した意味ありませんでしたね」

私達を見て、イアンがいつもの如く溜息を吐いた。

「アザゼル様…私またご迷惑を」
「あ?別に?」
「ごめんなさい…」

あの木登りの日に誓ったばかりなのに、また同じことを繰り返してしまうなんて。

艶やかな黒髪から、したしたと雫が滴り落ちる。私はしょんぼりと背中を丸め、ただただ反省した。

「言ったろ?俺がお前の願いを全部叶えてやるって。ちょっと濡れたくらいでぐだぐだ言ってんじゃねぇよ」
「アザゼル様…」
「お前は特別に許してやる、イザベラ」

ふふんと得意そうに鼻を鳴らした瞬間、彼は豪快なくしゃみをした。

「格好つけるのは結構ですが、取り敢えず湯に使ってこられてはいかがですか。風邪でも引かれたら面倒ですから」

夏前で気候は安定しているといっても、このままでは流石に体が冷える。くしゃみの余韻なのかぶるりと身を震わせたアザゼル様を見上げて、私は一度頷いた。

「どうぞお先に」
「あ?馬鹿かお前が先に入れ」
「いえ、それはできません」

私達は顔を突き合わせ、お互いに決して譲ることはない。こうして不毛な言い争いをしている間にも、私達の体からは絶え間なく雫が滴り落ちる。

それが床に広がり、どんどんと染みを作っていった。

「…いい加減にしてもらえませんかね。人がせっかく掃除をした場所を、そんなくだらないやり取りのせいで台無しにするなんて。今すぐ風呂に入らないと、私が火で体を炙って乾かしますよ」

淡々と口にするイアンの瞳が、ぎらりと赤く光る。

「…まずいぞ。イアンの火術は俺でも止めらんねぇ」
「え、え?」
「行くぞイザベラ!」

アザゼル様は慌てたように、ひょいと私を抱える。

(だ、だからこの人はいつもこんな…っ)

身体は冷えているはずなのに、顔はかっと熱くなる。彼はそんなことお構いなしに、以前と同じように私ごとばちゃんと湯桶に飛び込んだ。

「はぁー、最高」

アザゼル様が後ろから私に手を回したまま、深い息を吐く。

「…ふぅ」

この状況は恥ずかしくて堪らないけれど、確かに温かい湯は身体に沁み渡り心まで解れていくようだった。
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