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三人揃って

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翌朝目が覚めて、例に漏れず私は絶叫してしまった。藁のベッドで眠っているのはいつものことだったけれど、そこにアザゼル様がいたからだ。しかも、その逞しい腕でしっかりと私を抱き締めている。

「あっ、あっ、アザゼル様!!」
「…んだよ、朝からうるせぇなぁ」
「ふ、ふく、服を着ていないではないですかっ!!」

昨夜はあの余韻のまま、彼の温かい腕の中でいつの間にか眠りに落ちてしまった。巻きつけてあったシーツはベッドの下に落ち、アザゼル様は産まれたままの姿で未だに私を離してくれない。

「無理!無理ですからぁ!」
「もうちょい寝かせろって」
「お一人で!お願いします!」
「やだね」

寝ぼけているくせに、力は強い。私の腰にぎゅうっと腕を巻きつけ、あろうことかすりすりと頬を擦り寄せてきた。

「いっ、いい加減にしてぇーーっ!!」

羞恥心の針が振り切れぽきりと折れてしまった私は、喉を震わせながら大声で叫んだのだった。

「本当に貴方達はどうして普通に朝を迎えることが出来ないのでしょうね。少しは成長して帰ってきたかと思えば」
「だ、だって!アザゼル様が服を着てくださらなかったのです!」
「イザベラ様よくお考えください。芋虫は服を身につけていますか?いませんよね?けれど貴女はそれを見たって叫びはしない。つまりはそういうことです。気にする必要など全くない」
「おいイアンてめぇふざけんじゃねぇぞ!」

だん!と足を踏み鳴らすアザゼル様を横目に、イアンはなんら涼しい顔でそう言った。流石の私もなるほど確かに、とはならない。

「ここしばらく穏やかな朝を過ごすことができていたのに、お二人が帰ってくると煩くてかないませんね」
「とかいって寂しかったくせによ」
「まぁ、僕はもうすっかりこの賑やかさに慣れてしまいましたからね」

バイオレットの瞳を柔らかく細めるイアンを見て、私とアザゼル様は顔を見合わせる。そして同じように、笑顔を浮かべた。

「このジャムを塗ったトースト、とっても美味しいです!」
「イザベラ様、口の端にジャムがついていますよ。まったく」
「待てイアン触んな!イザベラの口についたジャムは俺が取る!」
「自分で取れます!」

街の喧騒など届かない深林の奥深く。魔物達の小さな鳴き声に混じり、三人の賑やかな朝食のひと時は過ぎていった。

「ではイザベラ様は、この国を出ると」
「はい。イアンには本当にお世話になりました。この感謝をどうやって返したらいいか」
「返さなくて結構。僕は僕の好きなようにしているだけです」

表情を変えることなく口にするイアンに、私の目尻はしゅんと下がる。今日でもう、イアンともお別れ。アザゼル様は私と共に旅をすると言ってくれたけれど、そうするとイアンが独りぼっちになってしまう。

「イザベラ様の考えていることは大体分かりますが、それは杞憂ですね」
「えっ?」
「僕もついていくに決まっているでしょう」

さも当たり前のような彼の態度に、嬉しくて思わず泣いてしまう。アザゼル様に抱き締められながら、何度も頷いた。

「アザゼル様には僕がいないとダメですからね」
「あほか、逆だろうが」

アザゼル様の声色も嬉しそうで、私も彼の腕の中で幸せを噛み締めたのだった。
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