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新たなる第一歩

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三人並んで、古ぼけた城を見上げた。私がここで過ごした月日は知れているけれど、二人はそれよりもずっと長い歳月を共にしてきたのだろう。きっと感慨深い想いがあるはずだ。

「俺らだって別にずっとここに居たわけじゃねぇからなぁ」
「そうなのですか?」
「ああ。気ままに旅したりやめたり、適当に」

なんだかアザゼル様らしくて、微笑ましい。

「でもこれからは特別な旅になる。イザベラ、お前がいるからな」
「アザゼル様…」
「僕もいることをお忘れなきよう」

私の方にぐいっと体を寄せたアザゼル様を、その反対側からイアンが手で押し返す。

「言っとくけどなぁイアン!俺らは昨日…」
「昨日?昨日何です?」
「…いや、なんでもねぇよ」

さらさらの黒髪から覗く耳が赤く染まり始めていて、私にまでそれが伝染してしまう。そういえばオーロの正体がアザゼル様だったことの衝撃が大き過ぎて、すっかり頭から抜けていた。

ーーイザベラ、愛してる

「~~っ!」

今更ながらに、とても恥ずかしい。全身が熱を持ち、アザゼル様と触れている箇所なんかは今にも発火してしまいそうだ。

「「……」」
「何ですか二人して同じ顔をして」

訝しげな顔のイアンを気にする余裕もない程に、私達は身を縮こまらせた。




ーー

深林を後にした私達は、街に出て今夜泊まる宿を探す。瘴気もほとんど薄まり、以前と変わらない活気を取り戻しつつあった。

「聖女様だ!聖女イザベラ様だ!」
「私達の命を救ってくれた救世主だ!」
「…ちっ。都合いいんだよ糞共が」

私達はローブを目深に被り正体に気付かれないよう注意していたのだけれど、前のように男装などしているわけではないから、一人に気付かれるとあっという間に囲まれてしまった。

アザゼル様が私を庇うように立ち、歯を見せながら威嚇している。

「申し訳ありませんが、私達は国王陛下の勅命により動いている身。どうか騒がれませんよう」

同じくフードを目深に被っているイアンが、冷静沈着な態度で場を諫める。私はただ黙って、凛とした態度を心掛けた。

「聖女様の力を酷使せぬようお言葉を授かっておりますので、私達はこれにて失礼致します」

イアンが機転を聞かせてくれたおかげで、人集りが散らばっていく。嘘を吐くことは心苦しかったけれど、今は私だけでなく二人も一緒だ。騒ぎを起こして迷惑をかける訳にはいかない。

(もう二度と、ここへは帰らないかもしれない)

これだけたくさんの人が居ても、誰も私自身を見てはくれなかったけれど。

それでも、ラーラや他の子供達のようにきらきらと輝く希望の光も、この国にはたくさん残っているから。

「皆さん」

被っていたフードを外すと、銀色の髪が露わになる。それと同じ色の瞳で、まっすぐに前を見据えた。

「無事命が助かったこと、心から祝福致します。どうか皆様に、スティラトールの女神様のご加護があらんことを」

ざわざわとした喧騒がぴたりと止んだ。私はアザゼル様とイアンに向かって一度頷くと、再び歩みを進めた。
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