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灰色の瞳の魔物
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(どうしよう、どうすれば…)
痛い。肩がずきずきと刺すように、そして燃えるように痛む。先程はそこを引きずられていたけれど、今は身体を咥えられていた。自身の発光でちらりと見えた風体は、まるで狼のようだった。それも普通のものよりもずっと大きく、そして素早い。
あっという間だった。私達が他の魔物に気を取られているうちに、気が付けば噛まれ拐われていた。
(何も、出来なかった…っ)
けれど今は自身の不甲斐なさを嘆いている場合ではない。この状況を早く何とかしなければ、アザゼル様に迷惑をかけてしまう。
以前大神官様を倒した時のように、掌に神経を集中させる。肩の痛みのせいで、気を抜けば意識を失ってしまいそうになるのを、ぐっと奥歯を噛んで耐えた。
段々と掌が熱くなってくる。本当にやれるかどうかは一か八か。けれどこのまま何もせずに殺されてしまうのは嫌だ。
「……っ」
ほんの一瞬、灰色の瞳と視線が絡む。狼のような魔物がちらりとこちらを見やり、すぐに逸らした。
(…そうだ。大神官様の時とは違うんだ)
どこへ向かっているのかも分からない。凄い速さで森を駆け抜けていることから、もしかすると行き先があるのかもしれないと思った。
殺すことがならばとっくにそうしているのではないか、と。
魔物を倒す為に力を集中させていた掌を、自身の肩に当てる。このまま意識を失うわけにはいかないと、私は血の滴り落ちるそこに聖女の力を注いでいった。
魔物は変わらず足を緩めることなく、生い茂る木など無視して前へ前へと進んでいる。
「ねぇ…あなたはどこへ向かっているの?」
咥えられているにも関わらず、その部分には牙が食い込んでいない。この魔物は噛み殺さないよう、加減をしているのだ。
ピチャッと、頬に何かが掛かる。触れるとぬるりとしているそれは、どす黒い血だった。
(私の傷は治したのに…)
「もしかして怪我をしているの?もしそうなら、治させて!逃げたりしないから一度止まって!ねぇってば!」
なるべく耳元へ唇が近づくよう上半身を起こせるだけ起こして、私は叫ぶ。鼻の先をぺちぺちと叩いて見ても、止まる様子は微塵もなかった。
「こんなに急いで、あなたは私をどこへ連れて行きたいの?」
やはり、答えない。もうこちらを見ることもなく、魔物の瞳はひたすらに前を見つめていた。
魔物がようやく足を止めた頃には、私はふらふらだった。傷を治したとはいえ咥えられた状態であれだけの速さ、あちこち葉や枝にぶつかり小傷だらけだ。
魔物が口を開けると、私はどさりと地に落ちる。すぐに体を起こし、その魔物に近付き体に触れた。やはり、見た目は狼のようだ。
(…酷い怪我してる)
腹部におびただしい量の血がついている。どうやら剣で斬られたような傷ではないようだが、私自身の淡い光だけでは正しく判別できない。
「待ってて、今すぐに…」
口早にそう告げる私を拒むように、その魔物はぶるりと体を震わせた。そして鼻先をくいと上げる。
差した先に手をかざすと、淡く光ったその先に小さな魔物らしき影が二匹、身を寄せ合って震えているのが見えて私は目を見開いた。
痛い。肩がずきずきと刺すように、そして燃えるように痛む。先程はそこを引きずられていたけれど、今は身体を咥えられていた。自身の発光でちらりと見えた風体は、まるで狼のようだった。それも普通のものよりもずっと大きく、そして素早い。
あっという間だった。私達が他の魔物に気を取られているうちに、気が付けば噛まれ拐われていた。
(何も、出来なかった…っ)
けれど今は自身の不甲斐なさを嘆いている場合ではない。この状況を早く何とかしなければ、アザゼル様に迷惑をかけてしまう。
以前大神官様を倒した時のように、掌に神経を集中させる。肩の痛みのせいで、気を抜けば意識を失ってしまいそうになるのを、ぐっと奥歯を噛んで耐えた。
段々と掌が熱くなってくる。本当にやれるかどうかは一か八か。けれどこのまま何もせずに殺されてしまうのは嫌だ。
「……っ」
ほんの一瞬、灰色の瞳と視線が絡む。狼のような魔物がちらりとこちらを見やり、すぐに逸らした。
(…そうだ。大神官様の時とは違うんだ)
どこへ向かっているのかも分からない。凄い速さで森を駆け抜けていることから、もしかすると行き先があるのかもしれないと思った。
殺すことがならばとっくにそうしているのではないか、と。
魔物を倒す為に力を集中させていた掌を、自身の肩に当てる。このまま意識を失うわけにはいかないと、私は血の滴り落ちるそこに聖女の力を注いでいった。
魔物は変わらず足を緩めることなく、生い茂る木など無視して前へ前へと進んでいる。
「ねぇ…あなたはどこへ向かっているの?」
咥えられているにも関わらず、その部分には牙が食い込んでいない。この魔物は噛み殺さないよう、加減をしているのだ。
ピチャッと、頬に何かが掛かる。触れるとぬるりとしているそれは、どす黒い血だった。
(私の傷は治したのに…)
「もしかして怪我をしているの?もしそうなら、治させて!逃げたりしないから一度止まって!ねぇってば!」
なるべく耳元へ唇が近づくよう上半身を起こせるだけ起こして、私は叫ぶ。鼻の先をぺちぺちと叩いて見ても、止まる様子は微塵もなかった。
「こんなに急いで、あなたは私をどこへ連れて行きたいの?」
やはり、答えない。もうこちらを見ることもなく、魔物の瞳はひたすらに前を見つめていた。
魔物がようやく足を止めた頃には、私はふらふらだった。傷を治したとはいえ咥えられた状態であれだけの速さ、あちこち葉や枝にぶつかり小傷だらけだ。
魔物が口を開けると、私はどさりと地に落ちる。すぐに体を起こし、その魔物に近付き体に触れた。やはり、見た目は狼のようだ。
(…酷い怪我してる)
腹部におびただしい量の血がついている。どうやら剣で斬られたような傷ではないようだが、私自身の淡い光だけでは正しく判別できない。
「待ってて、今すぐに…」
口早にそう告げる私を拒むように、その魔物はぶるりと体を震わせた。そして鼻先をくいと上げる。
差した先に手をかざすと、淡く光ったその先に小さな魔物らしき影が二匹、身を寄せ合って震えているのが見えて私は目を見開いた。
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