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アザゼルの懺悔
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「アザゼル様、アザゼル様、アザゼ「ここ」
アザゼル様を追いかけ森に入って幾らもしない内、頭上から聞き慣れた声が降ってくる。
「お前を置いていく訳ねぇだろ」
「アザゼル様…」
「ほら、こっち来い」
木や葉が鬱蒼と生い茂るこの場所は、日中でもまるで夜のように暗い。アザゼル様が指で空に何やら描いた途端、すると私の身体はふわりと宙に浮く。そしてすぐに、彼が立っている太い木の枝に降り立った。
「すっ、凄い!こんなこともできるのですね!」
「長距離は無理だけどな」
「貴重な体験ができました」
思わず子供のようにはしゃいでしまう私を、金の瞳が柔らかく見つめている。アザゼル様に倣い彼の隣に腰を掛けると、私の肩に腕を回し体を支えてくれた。
「今日は特に寒いや」
「私は、温かいです」
「…そうかよ」
言い方はぶっきらぼうだけれど、彼が更にこちらに身を寄せてくれたことに気付き、思わず笑みが溢れた。
(吸い込まれてしまいそう。まるで)
「アザゼル様の髪の色のようです…」
半ば無意識に呟くと、アザゼル様の身体が僅かに反応する。彼の一挙手一投足が愛おしくて、私は彼の肩口に頬を寄せた。
「アザゼル様」
「あ?」
「ごめんなさい」
アザゼル様が、どれだけ私のことを思っての行動なのか、とても良く伝わる。スティラトールで辛い思いをしていた私を、彼は誰よりも案じてくれているのだ。
大切に、大切に、宝物のように。
アザゼル様はいつだって私を、何者からも守ってくれる。
「アザゼル様のお気持ちも考えず、私は…」
「謝ってほしいわけじゃねぇよ」
(…やっぱり、怒ってる)
ぐっと黙り込んだ私を見て、彼は私を支えていない方の手でくしゃくしゃと髪を掻く。
「言い方が悪かった。俺はあの時お前を守れなかった自分を、今すぐ殺してやりたいくらいなんだよ」
「…アザゼル様」
「お前を…イザベラを、守れなかった」
この暗闇では、その表情をはっきりと見ることはできない。けれどきっと、哀しそうな顔をしているのだと思う。
「お前に怪我をさせた。俺がもっと警戒していれば、あんなことにはならなかった。俺が、全部悪い」
「そっ、そんなことありません!」
勢いよく顔を上げた為、私の身体は重力に従おうとしてゆらりと揺れる。アザゼル様の腕が、しっかりと私を支えてくれた。
「あの時は私達も必死でしたし、魔物達が一斉に襲ってきたのですから、どうしようもありませんでした」
「…いや、でも」
「私の大切な人を悪く言うことは、例えそれがアザゼル様本人であってもとても哀しいです」
私の行動が彼を傷つけていることに、涙が溢れそうになる。けれど今は、アザゼル様に伝えたいという気持ちの方が勝る。貴方は何一つ、悪くなんてないのだと。
「お願いだから、ご自身を責めないで」
「……」
アザゼル様が、私を強く抱き締める。この気持ちが届きますようにと、私も力いっぱい彼の背に腕を回した。
「…お前が、死ぬかと思った」
震え、掠れているその声に。
堪えていた涙が一筋、音もなく私の頬をつたった。
アザゼル様を追いかけ森に入って幾らもしない内、頭上から聞き慣れた声が降ってくる。
「お前を置いていく訳ねぇだろ」
「アザゼル様…」
「ほら、こっち来い」
木や葉が鬱蒼と生い茂るこの場所は、日中でもまるで夜のように暗い。アザゼル様が指で空に何やら描いた途端、すると私の身体はふわりと宙に浮く。そしてすぐに、彼が立っている太い木の枝に降り立った。
「すっ、凄い!こんなこともできるのですね!」
「長距離は無理だけどな」
「貴重な体験ができました」
思わず子供のようにはしゃいでしまう私を、金の瞳が柔らかく見つめている。アザゼル様に倣い彼の隣に腰を掛けると、私の肩に腕を回し体を支えてくれた。
「今日は特に寒いや」
「私は、温かいです」
「…そうかよ」
言い方はぶっきらぼうだけれど、彼が更にこちらに身を寄せてくれたことに気付き、思わず笑みが溢れた。
(吸い込まれてしまいそう。まるで)
「アザゼル様の髪の色のようです…」
半ば無意識に呟くと、アザゼル様の身体が僅かに反応する。彼の一挙手一投足が愛おしくて、私は彼の肩口に頬を寄せた。
「アザゼル様」
「あ?」
「ごめんなさい」
アザゼル様が、どれだけ私のことを思っての行動なのか、とても良く伝わる。スティラトールで辛い思いをしていた私を、彼は誰よりも案じてくれているのだ。
大切に、大切に、宝物のように。
アザゼル様はいつだって私を、何者からも守ってくれる。
「アザゼル様のお気持ちも考えず、私は…」
「謝ってほしいわけじゃねぇよ」
(…やっぱり、怒ってる)
ぐっと黙り込んだ私を見て、彼は私を支えていない方の手でくしゃくしゃと髪を掻く。
「言い方が悪かった。俺はあの時お前を守れなかった自分を、今すぐ殺してやりたいくらいなんだよ」
「…アザゼル様」
「お前を…イザベラを、守れなかった」
この暗闇では、その表情をはっきりと見ることはできない。けれどきっと、哀しそうな顔をしているのだと思う。
「お前に怪我をさせた。俺がもっと警戒していれば、あんなことにはならなかった。俺が、全部悪い」
「そっ、そんなことありません!」
勢いよく顔を上げた為、私の身体は重力に従おうとしてゆらりと揺れる。アザゼル様の腕が、しっかりと私を支えてくれた。
「あの時は私達も必死でしたし、魔物達が一斉に襲ってきたのですから、どうしようもありませんでした」
「…いや、でも」
「私の大切な人を悪く言うことは、例えそれがアザゼル様本人であってもとても哀しいです」
私の行動が彼を傷つけていることに、涙が溢れそうになる。けれど今は、アザゼル様に伝えたいという気持ちの方が勝る。貴方は何一つ、悪くなんてないのだと。
「お願いだから、ご自身を責めないで」
「……」
アザゼル様が、私を強く抱き締める。この気持ちが届きますようにと、私も力いっぱい彼の背に腕を回した。
「…お前が、死ぬかと思った」
震え、掠れているその声に。
堪えていた涙が一筋、音もなく私の頬をつたった。
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