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敬遠の仲、共闘
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ーー
ドォン!
鼓膜を振るわせる程の轟音が轟き、黒煙の中からイアンが姿を現す。バイオレットの髪はすすけ、体のあちこちには小傷ができている。
それでも彼が、普段の飄々とした態度を崩すことはなかった。
「なんなんだ、あいつは…っ」
「ばっ、バケモノだ…っ」
最早指の先すら動かすことの出来なくなった団員達は、未だ顔色一つ変えないイアンを見ながら恐怖に慄く。
同じ魔術師ながらば、相手にとっては多勢に無勢。利はこちらにあると思っていたし、団長であるハネスからもそのように聞いていた。獣人以外個々の能力は大したことがないし、聖女は回復能力しか使えないから、戦力にはならないと。
ところがどうだ。フタを開けてみればこの有様。聖女はしっかりとこちらに応戦し、光の防護壁で仲間を守っている。今回の捕獲対象である獣人の強さは言わずもがな、男女の魔術師も自分達とは比べ物にならなかった。
そしてなにより、屈辱的なこと。
「全く。殺さずに無力化するなど、こんなにも面倒なことはありませんね」
怠そうに首を回しながら呟く、赤髪の魔術師。そう、ヤツらには殺意がないのだ。こちらにはあるものが、相手からは感じられない。この状況下で、殺すことよりも殺さないことの方が難しいのは、一目瞭然だ。
そんなハンデを勝手に背負いながらも、こちらは向こうに歯が立たない。数の利でなんとか応戦しているような状況だった。
「ハネスは僕達の実力を知りながら、きっとわざと貴方達に伝えなかったのでしょう。でなければこんな陣形を取るはずがない」
ゆったりとした歩調で進みながら、赤髪の魔術師は目線を下に落とす。
団員達には最早、首をもたげる力すら残されてはいなかった。
「お気の毒に。付くべき主君を見誤りましたね」
「…く、そ……っ」
「あまり動かない方が得策です。そのままじっとしていれば、貴方方が死ぬことはないでしょう」
意味が分からないと、団員達は思った。止めを刺す必要すらないという、蔑みなのかと。
「だってここには、お人好しがいますから」
そう言った後、微かに聞こえた笑声。その直後、団員達がイアンの気配を感じ取ることはもう出来なかった。
「ロココ」
イアンは階下のレイリオに気を遣りながらも、ロココの元へと駆けつけた。彼女は今正に敵と対峙している最中で、それも先程打ち倒してきたような相手とは格が違う。
彼は内心、こちらへ来て正解だったと思った。ロココの実力が確かだということは彼も認めているが、状況からして周囲の雑魚と併せて相手にするには、少し分が悪そうだったからだ。
「加勢します」
黒ずくめの大男は、フレイルを振り回しロココに攻撃を繰り返している。休む暇も与えないとは正にこのことで、冷静に見える彼女も内心では徐々に疲労の色を感じていた。
イアンは大男の足元に炎を出現させ、一旦間合いを取る。
「何よイアン。この私が負けるって言いたいわけ?」
「そうではありませんよ。ただの時間短縮です」
「そんなぼろぼろでちゃんと戦えるわけ?」
「それはお互い様です」
二人の背中が、とんと合わさる。火術を得意とするイアンと、爆破術を得意とするロココの相性は、決して悪くなかった。あくまで性格的なものを抜きにすれば、の話であるが。
「それに僕は、上階よりも下のレイリオが気になります」
「そういえば、雄叫び聞こえなくなったわね」
「この場は迅速に済ませて、彼の元へ」
「言われなくても分かってるわよ!」
瞬間、二人の足元へフレイルが振り下ろされ、石造の床が粉々に砕け散った。
「雑魚が一匹加勢に来よったか。所詮、この場に転がる死骸が増えるだけだというのに」
大男はふんと鼻を鳴らし、二人を見下ろす。魔術力は元より、肉体を駆使した攻撃も合わさっている分、厄介だった。
それに加え、倒してもなお湧いてくる団員達の相手もしなければならない。
「死なないでくださいね。ロココが死ぬと、僕がアレイスター様に殺される」
「煩いわね、黙って背中を守りなさいよイアン!」
赤と薄桃が混ざり合い、同時に凄まじい爆音が辺りの空気を揺さぶった。
ドォン!
鼓膜を振るわせる程の轟音が轟き、黒煙の中からイアンが姿を現す。バイオレットの髪はすすけ、体のあちこちには小傷ができている。
それでも彼が、普段の飄々とした態度を崩すことはなかった。
「なんなんだ、あいつは…っ」
「ばっ、バケモノだ…っ」
最早指の先すら動かすことの出来なくなった団員達は、未だ顔色一つ変えないイアンを見ながら恐怖に慄く。
同じ魔術師ながらば、相手にとっては多勢に無勢。利はこちらにあると思っていたし、団長であるハネスからもそのように聞いていた。獣人以外個々の能力は大したことがないし、聖女は回復能力しか使えないから、戦力にはならないと。
ところがどうだ。フタを開けてみればこの有様。聖女はしっかりとこちらに応戦し、光の防護壁で仲間を守っている。今回の捕獲対象である獣人の強さは言わずもがな、男女の魔術師も自分達とは比べ物にならなかった。
そしてなにより、屈辱的なこと。
「全く。殺さずに無力化するなど、こんなにも面倒なことはありませんね」
怠そうに首を回しながら呟く、赤髪の魔術師。そう、ヤツらには殺意がないのだ。こちらにはあるものが、相手からは感じられない。この状況下で、殺すことよりも殺さないことの方が難しいのは、一目瞭然だ。
そんなハンデを勝手に背負いながらも、こちらは向こうに歯が立たない。数の利でなんとか応戦しているような状況だった。
「ハネスは僕達の実力を知りながら、きっとわざと貴方達に伝えなかったのでしょう。でなければこんな陣形を取るはずがない」
ゆったりとした歩調で進みながら、赤髪の魔術師は目線を下に落とす。
団員達には最早、首をもたげる力すら残されてはいなかった。
「お気の毒に。付くべき主君を見誤りましたね」
「…く、そ……っ」
「あまり動かない方が得策です。そのままじっとしていれば、貴方方が死ぬことはないでしょう」
意味が分からないと、団員達は思った。止めを刺す必要すらないという、蔑みなのかと。
「だってここには、お人好しがいますから」
そう言った後、微かに聞こえた笑声。その直後、団員達がイアンの気配を感じ取ることはもう出来なかった。
「ロココ」
イアンは階下のレイリオに気を遣りながらも、ロココの元へと駆けつけた。彼女は今正に敵と対峙している最中で、それも先程打ち倒してきたような相手とは格が違う。
彼は内心、こちらへ来て正解だったと思った。ロココの実力が確かだということは彼も認めているが、状況からして周囲の雑魚と併せて相手にするには、少し分が悪そうだったからだ。
「加勢します」
黒ずくめの大男は、フレイルを振り回しロココに攻撃を繰り返している。休む暇も与えないとは正にこのことで、冷静に見える彼女も内心では徐々に疲労の色を感じていた。
イアンは大男の足元に炎を出現させ、一旦間合いを取る。
「何よイアン。この私が負けるって言いたいわけ?」
「そうではありませんよ。ただの時間短縮です」
「そんなぼろぼろでちゃんと戦えるわけ?」
「それはお互い様です」
二人の背中が、とんと合わさる。火術を得意とするイアンと、爆破術を得意とするロココの相性は、決して悪くなかった。あくまで性格的なものを抜きにすれば、の話であるが。
「それに僕は、上階よりも下のレイリオが気になります」
「そういえば、雄叫び聞こえなくなったわね」
「この場は迅速に済ませて、彼の元へ」
「言われなくても分かってるわよ!」
瞬間、二人の足元へフレイルが振り下ろされ、石造の床が粉々に砕け散った。
「雑魚が一匹加勢に来よったか。所詮、この場に転がる死骸が増えるだけだというのに」
大男はふんと鼻を鳴らし、二人を見下ろす。魔術力は元より、肉体を駆使した攻撃も合わさっている分、厄介だった。
それに加え、倒してもなお湧いてくる団員達の相手もしなければならない。
「死なないでくださいね。ロココが死ぬと、僕がアレイスター様に殺される」
「煩いわね、黙って背中を守りなさいよイアン!」
赤と薄桃が混ざり合い、同時に凄まじい爆音が辺りの空気を揺さぶった。
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