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ふるさとの花5
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ふるさとの花 5
八月二十四日。あまりすっきりとしない曇り空だけど今日も早めに家を出る。学校ではない。百花との約束だ。少しでも早く会いたいというので早めの時間に出たのだ。学校前で集まりいっしょに歩き始める。今日は一日一緒だよ、と百花はにっこり笑う。
今日の気温は予報だと三十三度。夏の最後の暑さのなかをゆっくり歩いていく。引っ越してしばらくたった、友達とたくさん遊んだ思い出の町。
「ここでずーっと前に子猫見つけたよね」
「なつかしいな、十年前だからあの猫ももうすっかり大きくなったな」
「猫の十歳はおじいさんかおばあさんだね」
町をくまなく巡って、小学生やもっと小さい頃の思い出を掘り出して、そして時間はいつの間にかお昼。
「竜ちゃんの家に行っていいかな?台所を借りていいかな?」
「手料理?」
「一回くらいは食べてほしいかな、なんて」
「家にはだれもいないから台所は平気だぞ、それで何を作るんだ?」
「えーと、それは秘密」
と言いかけて百花は凍りついた。
「何を作れるんだろう」
うーんと考え、卵だけを調達して僕の家の台所へ。少し思考してから調理をはじめ、少しして料理の乗った皿を居間に持ってきた。
「はいどうぞ」
「ゆで玉子」
「料理の勉強をもう少ししてくればよかったよ、うう」
「良いんだよ、それにこれ凄くおいしいよ」
「本当?」
「僕は半熟が好きなんだけど丁度一番好きな感じに出来てるよ」
「良かった」
百花はにっこりと笑う。そして僕が食べているところをじっくり眺めていた。食べないの?と聞いてみるとはっと我に返ったかのように食べ始めた。だいぶ熱心に見ていたらしい。
食べたあとは僕の部屋で二人でゆっくり話す。窓から夏の日差しが差し込んでくる。午前中の雲は何処かへ流れていってしまったようだ。窓を開けて風をいれるがそれでも暑い。冷房がある居間に戻ろうか、と言うとこの部屋が良いという。おしゃべりの内容は始めはただの世間話だったが、思い出話にかわり、そして文章に書くのが躊躇われるような愛の言葉が並ぶ。そのまま気持ちを確かめるかのように抱き合う。・・・・・・すると突然百花が涙を流し始める。理由が解らず、
「ごめん、嫌だった?」
と謝る。でも涙は流したまま、
「ううん、嬉しいの、どうしてこうして二人でいっしょに居られて幸せなのに涙が止まらないんだろう」
優しく慰める。僕は涙のわけはよく知らなかったけど、ゆっくり百花の気持ちを受け止めていこうと思った。
すっかり雲の無くなった夕方。暑い日差しが差し込む。夏の長い日もだんだん短くなってきている。お祭りの準備をしなければいけないので、ちょっとシャワーで体を冷してから外出する。テントを持ち上げ、他にもいろいろな機械を設置して準備完了。神社には日が暮れるにつれ人々が集まってくる。村は普段お年寄りばかりなのにこういうときは何処からか若い人がたくさんやってくる。きっと普段は車で村の外に働きに出ているのだろう。
百花は僕の手をとって引っ張るようにいろいろな屋台をまわる。とうもろこしを食べながら金魚をすくう。
なかなか上手くいかず二人でやっととった一匹を百花は大事そうに眺めながら歩く。前を見ないと危ないよと注意したとたんに人とぶつかる。僕が。
「すいません、って村山か、大丈夫か?」
「いえ、大丈夫ですよ」
少し表情が怒っていたような気がした。後でしっかり謝っておこう。
「きっと私が一緒にいたからでしょ」
祭りはいよいよ佳境に入る。太鼓の音が鳴り響き巫女さんが伝統の舞を舞う。これは何百年もの間もこの村に伝わってきたという。この舞がお祭りの最後を締めくくり、祭りの屋台を店を閉める。大人たちは草から大量のお酒を取り出し神社の境内で酒盛りを始める。祭りのちょうちんが明るくともるその下で飲んでいる大人たちから離れて、百花と神社の社殿の縁側に座り込む。明るさから離れ神社の裏側に座ったから、すっかり闇に包まれる。そのなかでも星たちは明るく瞬いていた。
「星がきれいだよね」
「天の川が広がってるね」
そう百花が呟く。そしてさらに続ける。
「人が死んだらお星さまになるってお母さんが昔言ってたよ、きっと本当は別なんだろうけど」
「百花はもし死んだらお星さまになりたいの?」
「私はお星さまが良かったなぁ」
きらきら光る星たちを見つめる。少しして百花は話を変える。
「竜ちゃんは先生になりたいんだよね」
「そうだよ、小学校の先生になりたいんだ、できたらこの村の学校の先生になりたい」
子供たちの教育によって育ててくれたこの村への恩返しがしたい。そう思ってこの道に入ったのだ。
「きっといい先生になれるよ、竜ちゃん優しいけどただ甘いって訳じゃなくてしっかりしてるもん」
「ありがとう」
「いいなぁ、先生。私もなりたくなってきたよ」
「将来の夢?」
「将来・・・・・・じゃないけど夢かもしれないね」
そして静かな沈黙。そんなに時間はたっていないような気がしたが酒盛りは既に終わっていた。静けさが支配する。時計を見ると十一時をまわっていた。
「あと一時間だけ、一緒にいさせて?」
「うん、一緒にいよう」
百花ははじめは静かに肩に寄りかかっていただけだったが、しばらくすると百花は涙を流し始めた。訳を聞いてみるけど答えはかえってこない。だから、不安なこと、辛いことが少しでも和らぐように抱き締める。
百花は小学生のころは泣き虫だったな。中学生のころは泣いてるところなんて見たことなかったけれど。僕に今出来ることは泣いているのを受け止め、守ってあげること。きっと。
十一時五十分。百花は僕の腕時計をちらっと見て、そしてものすごく久しぶりに(、いや一時間前はたくさんしゃべっていたのだけど、それくらい時間がたったように感じた)言葉を発した。
「竜ちゃん、これを飲んで欲しいんだ」
百花は持っていた鞄からあめ玉のようなものを取り出して、手のひらに乗せて僕に渡そうとする。しかし僕に渡す前に・・・・・・
手のひらから飛び出す。そして床に落ちた。暗くてどこに落ちたかは見えない。
「無いっ!無い!」
手探りで床を探すが見つからない。僕も探すがまったく手がかりがない。もしかして隙間に落ちたのかも、と思い床下を覗く。クモの巣も張っている床下に百花は潜り込んでいった。
「待てっ、一回落ち着け!そんなに大切なものなのかっ!」
「大切なんだよ・・・・・・見つからないっ!私の馬鹿ぁ・・・・・・」
子供のように声をあげて泣く百花を強く、どこにも逃がさないかのように抱き締める。百花は五分ほどたって不自然に泣き止んだ。というより・・・・・・絶句。百花は僕じゃない、何かを見ていた。
「肘折百花」
突然空気を圧するかのような声。誰だと思い振り返った丁度その時顔を思いっきり蹴られ倒され、抱いていた百花を奪われる。そこで見たのは黒い影に大きな翼。百花を捕まえてどこかへ飛び去っていった。
八月二十四日。あまりすっきりとしない曇り空だけど今日も早めに家を出る。学校ではない。百花との約束だ。少しでも早く会いたいというので早めの時間に出たのだ。学校前で集まりいっしょに歩き始める。今日は一日一緒だよ、と百花はにっこり笑う。
今日の気温は予報だと三十三度。夏の最後の暑さのなかをゆっくり歩いていく。引っ越してしばらくたった、友達とたくさん遊んだ思い出の町。
「ここでずーっと前に子猫見つけたよね」
「なつかしいな、十年前だからあの猫ももうすっかり大きくなったな」
「猫の十歳はおじいさんかおばあさんだね」
町をくまなく巡って、小学生やもっと小さい頃の思い出を掘り出して、そして時間はいつの間にかお昼。
「竜ちゃんの家に行っていいかな?台所を借りていいかな?」
「手料理?」
「一回くらいは食べてほしいかな、なんて」
「家にはだれもいないから台所は平気だぞ、それで何を作るんだ?」
「えーと、それは秘密」
と言いかけて百花は凍りついた。
「何を作れるんだろう」
うーんと考え、卵だけを調達して僕の家の台所へ。少し思考してから調理をはじめ、少しして料理の乗った皿を居間に持ってきた。
「はいどうぞ」
「ゆで玉子」
「料理の勉強をもう少ししてくればよかったよ、うう」
「良いんだよ、それにこれ凄くおいしいよ」
「本当?」
「僕は半熟が好きなんだけど丁度一番好きな感じに出来てるよ」
「良かった」
百花はにっこりと笑う。そして僕が食べているところをじっくり眺めていた。食べないの?と聞いてみるとはっと我に返ったかのように食べ始めた。だいぶ熱心に見ていたらしい。
食べたあとは僕の部屋で二人でゆっくり話す。窓から夏の日差しが差し込んでくる。午前中の雲は何処かへ流れていってしまったようだ。窓を開けて風をいれるがそれでも暑い。冷房がある居間に戻ろうか、と言うとこの部屋が良いという。おしゃべりの内容は始めはただの世間話だったが、思い出話にかわり、そして文章に書くのが躊躇われるような愛の言葉が並ぶ。そのまま気持ちを確かめるかのように抱き合う。・・・・・・すると突然百花が涙を流し始める。理由が解らず、
「ごめん、嫌だった?」
と謝る。でも涙は流したまま、
「ううん、嬉しいの、どうしてこうして二人でいっしょに居られて幸せなのに涙が止まらないんだろう」
優しく慰める。僕は涙のわけはよく知らなかったけど、ゆっくり百花の気持ちを受け止めていこうと思った。
すっかり雲の無くなった夕方。暑い日差しが差し込む。夏の長い日もだんだん短くなってきている。お祭りの準備をしなければいけないので、ちょっとシャワーで体を冷してから外出する。テントを持ち上げ、他にもいろいろな機械を設置して準備完了。神社には日が暮れるにつれ人々が集まってくる。村は普段お年寄りばかりなのにこういうときは何処からか若い人がたくさんやってくる。きっと普段は車で村の外に働きに出ているのだろう。
百花は僕の手をとって引っ張るようにいろいろな屋台をまわる。とうもろこしを食べながら金魚をすくう。
なかなか上手くいかず二人でやっととった一匹を百花は大事そうに眺めながら歩く。前を見ないと危ないよと注意したとたんに人とぶつかる。僕が。
「すいません、って村山か、大丈夫か?」
「いえ、大丈夫ですよ」
少し表情が怒っていたような気がした。後でしっかり謝っておこう。
「きっと私が一緒にいたからでしょ」
祭りはいよいよ佳境に入る。太鼓の音が鳴り響き巫女さんが伝統の舞を舞う。これは何百年もの間もこの村に伝わってきたという。この舞がお祭りの最後を締めくくり、祭りの屋台を店を閉める。大人たちは草から大量のお酒を取り出し神社の境内で酒盛りを始める。祭りのちょうちんが明るくともるその下で飲んでいる大人たちから離れて、百花と神社の社殿の縁側に座り込む。明るさから離れ神社の裏側に座ったから、すっかり闇に包まれる。そのなかでも星たちは明るく瞬いていた。
「星がきれいだよね」
「天の川が広がってるね」
そう百花が呟く。そしてさらに続ける。
「人が死んだらお星さまになるってお母さんが昔言ってたよ、きっと本当は別なんだろうけど」
「百花はもし死んだらお星さまになりたいの?」
「私はお星さまが良かったなぁ」
きらきら光る星たちを見つめる。少しして百花は話を変える。
「竜ちゃんは先生になりたいんだよね」
「そうだよ、小学校の先生になりたいんだ、できたらこの村の学校の先生になりたい」
子供たちの教育によって育ててくれたこの村への恩返しがしたい。そう思ってこの道に入ったのだ。
「きっといい先生になれるよ、竜ちゃん優しいけどただ甘いって訳じゃなくてしっかりしてるもん」
「ありがとう」
「いいなぁ、先生。私もなりたくなってきたよ」
「将来の夢?」
「将来・・・・・・じゃないけど夢かもしれないね」
そして静かな沈黙。そんなに時間はたっていないような気がしたが酒盛りは既に終わっていた。静けさが支配する。時計を見ると十一時をまわっていた。
「あと一時間だけ、一緒にいさせて?」
「うん、一緒にいよう」
百花ははじめは静かに肩に寄りかかっていただけだったが、しばらくすると百花は涙を流し始めた。訳を聞いてみるけど答えはかえってこない。だから、不安なこと、辛いことが少しでも和らぐように抱き締める。
百花は小学生のころは泣き虫だったな。中学生のころは泣いてるところなんて見たことなかったけれど。僕に今出来ることは泣いているのを受け止め、守ってあげること。きっと。
十一時五十分。百花は僕の腕時計をちらっと見て、そしてものすごく久しぶりに(、いや一時間前はたくさんしゃべっていたのだけど、それくらい時間がたったように感じた)言葉を発した。
「竜ちゃん、これを飲んで欲しいんだ」
百花は持っていた鞄からあめ玉のようなものを取り出して、手のひらに乗せて僕に渡そうとする。しかし僕に渡す前に・・・・・・
手のひらから飛び出す。そして床に落ちた。暗くてどこに落ちたかは見えない。
「無いっ!無い!」
手探りで床を探すが見つからない。僕も探すがまったく手がかりがない。もしかして隙間に落ちたのかも、と思い床下を覗く。クモの巣も張っている床下に百花は潜り込んでいった。
「待てっ、一回落ち着け!そんなに大切なものなのかっ!」
「大切なんだよ・・・・・・見つからないっ!私の馬鹿ぁ・・・・・・」
子供のように声をあげて泣く百花を強く、どこにも逃がさないかのように抱き締める。百花は五分ほどたって不自然に泣き止んだ。というより・・・・・・絶句。百花は僕じゃない、何かを見ていた。
「肘折百花」
突然空気を圧するかのような声。誰だと思い振り返った丁度その時顔を思いっきり蹴られ倒され、抱いていた百花を奪われる。そこで見たのは黒い影に大きな翼。百花を捕まえてどこかへ飛び去っていった。
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