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課金令嬢はしかし傍観者でいたい
接触4
しおりを挟む「シャルロッタ様!」
「様は必要ありません」
勢いよくシャルロッタの両手を包むが、彼女は驚く様子を微塵も見せない。これが正しく教育を受けた令嬢の姿か。もちろん、その手は離しません。これを伝えなければ始まらないのだから。
「シャルロッタ、私達お友達になりましょう!」
「お断りいたします」
「早いな!」
こんなにもリズミカルに友情を拒絶されたのは初めてだ。
「私と貴女様は、友と呼べるほど近い身分ではございません。貴女様は将来国母となられる尊きお方」
「いいえ!そんなはずはないわ!」
握った手に力を込める。あまりの勢いに、さすがのシャルロッタも少しだけ目を丸くした。ここで畳み掛けてしまおう。
「あなたと私は、いつだって対等であるべきよ!」
そうよ。だって、貴女も私と同じロイの婚約者候補だもの!正式?そんなもの簡単に覆せる。「一生一緒最強カップル♥️別れるなんてありえなーい!」なんて公言していた友人が、半年後にボロクソに相手を罵倒している姿をこの目で見ましたから!ね、サキ!
そして何より、シャルロッタは私よりも断然王妃としての素質がある。気品、威厳、知性……は分からないけど、勉学を疎かにするタイプではないだろう。手を離し、然り気無く後退りをして遠目で見ても二人はお似合いだ。心なしか二人の頭にクラウンが見える。うん、お似合いだ。
「シャルロッタ。私はあなたと私自身に格差があるなんて思わない。あるとしても、それは友情を築けない理由にはならないわ。人は皆平等だなんて綺麗事は言わない。けれど、人は皆公平であるべきよ。私はあなたと友達になりたいの」
そしてあわよくば婚約者の交代を、という本音は飲み込んでおいた。
「マナリエル様……」
そう呟いたシャルロッタは長い睫毛を下げ、しばらく思案しているようだった。
私の友達作りを応援してくれているのか、ロイは邪魔をせずに真剣な表情で見守っている。
カチ、カチ、カチ。
そんな時計の秒針が聞こえてきそうなほど静かに時が過ぎる。押し通そうとした勢いは消え、余計なことを言ったのでは、言葉のチョイスを間違えたのではと不安が募るには十分な時間が経った。
「ああああの、シャルロッタ、さん?」
耐えきれずにおずおずと呼べば、俯いていた顔が上がる。その表情は、どこか満たされたようなスッキリとした笑顔だった。
「貴女様と出会えたことは、この上ない幸福ですわ」
先ほどの会話より、幾分か柔らかい彼女の声が響く。
その通りよシャルロッタ。今日の出会いイベントが起こった以上、あなたはもうハッピーエンドへ片足を突っ込んだようなもの。あなたはこれからシンデレラストーリーを歩むのよ!
「私もシャルロッタと出会えてよかった。これからも、こうしてみんなで話しましょう!」
必ずロイも連れてくるからね!なんて意気込む。
「みんなで……分かりました。まずは皆様もご一緒に、僭越ながらお茶会にご招待させていただきます」
シャルロッタは微かに眉間にシワを寄せ、声を低くさせた。明らかに気落ちしている。もしかして、ロイと二人きりがよかったかな?でも一応まだ私が婚約者だし、二人で会わせることは世間体が悪い。ロイにとってもシャルロッタにとっても良くないだろう。初めは数人で機会をもち、そこから二人の時間を作った方が得策だ。
そっと彼女の耳元に顔を近付ける。
「大丈夫、タイミングを見計らって二人の時間を作るからね!」
そう囁けば、シャルロッタは一瞬目を丸くしたあと、少し頬を赤らめて「分かりましたわ」と小さな返事を返した。笑顔はないが、満足げな様子は見て取れる。その顔を見られれば、こちらとしても満足だ。
「シャルロッタ様ー!どちらにいらっしゃるのですかー!」
「ん?」
遠くからシャルロッタを呼ぶ声が聞こえる。声は二人のようだが、一人がキンキンと甲高い声で騒がしい。まるで何度止めても鳴り続ける目覚まし時計のような不快感を覚える。そんな声だ。
「はぁ…。ここに来られると面倒な人達が呼んでいますので、私は失礼いたします」
隠そうともしないため息は大きく吐き出され、また表情を消したシャルロッタは私達に一礼し、背を向けた。
せっかく仲良くなれそうだったのに。もっと話をしたかったのに。咄嗟に連絡先を交換しようとしたが、そういえばこの世界にはそのようなツールがないことに気が付いた。この世界の人はどうやってナンパするんだろう。合コンで気に入った相手とどうやって次の約束を取り付けるんだろう。この場で終わらせないために、何か一手を。
「お茶会のお誘い、待ってますね!」
これが精一杯だった。他にも上手い台詞があるだろうとは思うが、如何せん経験値不足である。
振り向いたシャルロッタは気分を害した様子はなく、勿論、と呟き言葉を続けた。
「お茶会は近いうちに開催させていただきます。けれどその前に、今度の精霊祭、楽しみにしていますわね」
「精霊祭?」
聞きなれないワードに反応するものの、シャルロッタはもう振り返ることなく颯爽と消えていった。
「……精霊祭?」
レイビーとイリスに首を傾げてみたものの、同じような仕草が返ってきただけだった。
「……精霊祭?」
今度は三人でロイを見る。
「分かった、私が教えるよ」
苦笑したロイが降参とでも言うように両手を上げた。
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