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課金令嬢はしかし傍観者でいたい
覚醒2
しおりを挟む「マナ様、お疲れではありませんか?この姿になるとマナ様からいただく魔力がとても増えてしまいますの」
「え、そうなの?全く何も感じないけど」
自身の感覚を確かめるように両手を見たり、頬や肩に触れたりしてみるものの、特に違和感はない。が、フゥちゃんから伝わる圧──恐らく魔力だろう──それが先程とは比べ物にならないくらいに大きくなっていることは感じる。圧倒的なオーラである。
「ふふ、さすがわたくしのマナ様ですわ♥️」
艶やかな声で笑うフゥちゃん。思わず見惚れてしまう妖艶さだ。重心を変えるだけでも見えてはいけないentranceが見えてしまいそうだし、コロコロと笑うだけで溢れてはれいけないmelonがポロンしそうだ。すごい設定を隠し持っていたんだな、フゥちゃん。無意識に自分の胸にそっと手を当てた。ココにも自動課金が発動すればいいのに……。
「ねぇ、ビスタ。どういうことなの?」
状況を把握できないアイーシャは、光の精霊に尋ねる。どうやらあの精霊はビスタというらしい。問いかけられたビスタは他の生徒と同じように、いや、それ以上に顔を青くさせている。
「ねぇ、ビスタってば」
アイーシャは拗ねる子供のように頬を膨らませビスタの腕を揺するが、それすら反応してやる余裕はないのであろう。
「さて、そこのお二人」
フゥちゃんの一言で、アイーシャとビスタがビクリと肩を揺らす。
「あなたはいつまでそうしているのです?」
優しい声音だが、アイーシャを見る表情からは一切の慈悲も感じられない。隣に並んでいる私でさえも、背中がゾクリと震えた。
そこで気が付く。会場からの視線が消えていることに。会場にいる全員と言ってもいいだろう。生徒も先生も老若男女問わず、全員が視線を落とし、跪いていた。
フゥちゃんの魔力で瞬時に把握し、そうしている者もいる。しかしよく見れば、頭にクエスチョンマークを浮かべながら頭を下げ、チラチラとロイを見ている者も少なからずいた。状況は分からないが、王太子がそうしているから従っておこうという判断なのだろう。
「……アイーシャ。頭を下げよう」
観念したかのように、ビスタは小さく息を吐いた。
「どうして!?」
アイーシャが納得している様子はない。これでもかというほど眉を寄せ、不快さを隠すつもりはないようだ。ビスタの横顔を睨み、腕を掴むその力を強くさせた。
「あの人はダメだ。アイーシャが敵対してはいけない人だよ」
「なんで!?あいつよりビスタの方が上なんでしょ!?」
「違う。とにかく頭を下げるんだ」
「……絶対にイヤ!」
駄々のこね方が、幼い頃のイヤイヤ期そのものだ。男爵家の養子となって早くに入学したと聞いた。まだ貴族令嬢としての立ち振舞いは学べていないのだろう。こんな人にケンカを売られていることが恥ずかしくなってきた。
「魔法使いでいられなくなるよ、アイーシャ」
「!!」
ビスタの重い一言で、アイーシャの表情は固まる。
「どういうことなの?」
「あの人は大精霊マザーだ」
「マザー??大精霊?」
アイーシャのオウム返しのような問いかけに、ビスタはこくりと頷く。何かを思い出そうとしてるのか、アイーシャは唇に指をあてて少しの時間黙り込む。きっと授業で学んだ記憶を引き出しているのだろう。
『人間はマザーを怒らせてはいけない。なぜなら、マザーは人間の内なる魔力を解放できる唯一の存在であり、またそれは即ち閉鎖もできる存在である』
そう。フゥちゃんは大精霊マザーだ。下級、中級、上級をさらに上回る大精霊ということですでにビスタに勝ち目はないが、人間であるアイーシャにとっては、最も敵に回してはいけない精霊と言えるだろう。フゥちゃんの判断によっては、魔力が全て閉ざされてしまうのだから。
「うそ……うそよ!」
「うそじゃない。マザーに魔力を閉ざされたらアタシとの契約も消滅するし、アイーシャは魔法を使えなくなる」
「そんな、私は聖女なのよ!」
「聖女?とにかく、魔法使いでいたいのなら、ここは堪えよう」
ビスタの有無を言わせない気迫に、アイーシャは下唇をぐっと噛み、鋭い視線でフゥちゃんを睨んだ。フゥちゃん自身は何も動じる様子はなく、つまらないものでも眺めるかのように相手の決断を待っている。ただし、アイーシャに許された選択は一つしかないであろう。
「なんで……なんで私が……」
アイーシャは跪いた。それはまるで上から頭を押さえつけられたかのように、抵抗する体を無理やり下げた様子である。表情はもう見ることができないが、震える肩、床に食い込みそうなほど力の入った指先からは、怒りがひしひしと伝わってくる。
「ふむ、まぁ良いでしょう。マナ様は高貴なお方。世界の至宝。自身と比較するなど烏滸がましい。ましてや、あなたの方が上?片腹痛いですわ。笑止千万とはこのことですわね」
フゥちゃん、前世で一緒に見た時代劇のセリフ、まだ覚えてるんだね。そして使いたかったんだね。キラキラした目で見てたもんね。
バカにしたようなその笑い、悪代官みたいだよ。
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