追放聖女と元英雄のはぐれ旅 ~国、家族、仲間、全てを失った二人はどこへ行く?~

日之影ソラ

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36.嫌な未来だ

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 ソールイーターは魂を刈り取る武器。
 刈り取られた魂は強制的に冥界へ下り、罪人であれば地獄に送られる。
 人間であろうとなかろうと、この力には逆らえない。

「終わりだよ」
「くっそ……」

 デッドリードラゴンが暴れ出す。
 僕は背から跳び避けて、自分のドラゴンの背に戻った。
 胸を押さえて苦しむシリス。
 シリスの魂は切断された。
 汚くてどす黒い魂なんて、地獄行きでも足りないくらいだろう。
 そして僕自身も、いつかそうなるのかもしれない。
 ただ、今はこれで終わる。

「チッ、今のどうやって移動をぁ……」
「おしゃべりに夢中みたいだったからね。線を引かせてもらったんだよ」

 青いドラゴンから伸びる炎の線。
 薄く目を凝らさなければ見えない線を辿って、彼の元へ移動した。
 一瞬で目の前から来て、さぞ驚いたことだろう。
 さて、これでイルのおつかいは完了して――

「しくったぜ……」

 いや、おかしいぞ。
 魂を刈り取ったのに、なぜ彼の胸には……まだどす黒い魂が揺らいでいる?

「まさかこんな所で使わされるとはよぉ」
「これは一体……どういうことかな?」
「お前、今までの死神とは明らかに違うなぁ」

 彼は僕の疑問に答える気はなさそうだ。
 じっと見つめ、胸に宿った炎の揺らぎが本物だと確信する。
 情報を整理しよう。
 これまでに聞いている彼のことと、今見せられた信じがたい事実。
 ソールイーターから逃れる術はない。
 考えられるとすれば――

「そうか、そういうことか。驚いたな……君は魂のダミーを作れるんだね」
「……へぇー、すげぇなお前。もうそこにたどり着いちまったのかよ」

 シリスはニヤリと笑う。
 どうやら本当だったらしい。
 僕も半信半疑で口にした考えだったから、当たっていたのは驚いた。
 いや、事実だどすれば純粋に驚かされる。
 魂は唯一無二の一つだけ。
 そのルールを犯す禁忌を、彼は成し遂げている。

「そんなことが可能なんだね」
「普通は無理だな。俺みたいに魂の味を知ってなきゃ、似せることも出来ねぇ」
「色じゃなくて味か」
「興味あるなら試してみろよ」
「遠慮しておこう」

 なるほど。
 これで理解した。
 先代と相打ちになって倒されたはずの彼が、どうして生き長らえているのか。
 おそらくその時も、魂のダミーを持っていたんだ。
 そのダミーが先代を退け、あまつさえ冥王である彼女の眼すら欺いた。

「あーくそっ! やっぱ長生きしている奴は強ぇーなぁ」

 そう言って、シリスは頭をぽりぽりかきむしる。

「しゃーねぇな。ダミーも壊されちまったし、先にアレを探すか。そういやお前、名前はユーレアスっていうんだな?」
「そうだけど。逃げるつもりかい?」
「おう。認めたくねぇけど、お前は別格だ。今のままじゃ分が悪い」

 魂のダミーは一つしかないのか?
 それとも単純に実力差を感じて、勝てないと悟ったか。
 どちらにしろ、逃げるというなら――

 僕は大鎌を構える。

「逃がすと思うかい?」
「お前はそういうだろうよぉ。だがなぁ、逃げるだけなら簡単だぜ? なんせお前の弱点は、こんな眼を使うまでもなくハッキリ見えてるんだからなぁ~」

 シリスがニヤリと笑う。
 その瞬間、僕は彼の意図を察知した。

「ノア!」

 視線を後ろに向けると、彼女の所へアンデッド化したワイバーンの群れが接近している。
 それも一、二匹ではない。
 十を超える群れを相手にするのは、いくら彼女でも無理だ。

「ほらほら~ 助けにいかなくていいのか~」
「っ――」

 挑発に乗るのは嫌だけど、今は仕方がない。
 僕はドラゴンの向きを変え、ノアを助けに向う。

「お前がいる限り、あの魂にも近づけないか。だったら次こそ、お前を地獄へ送ってやるよぉ。なぁ、楽しみにしててくれよな」
「お互いにね」

 シリスが別方向へ去っていく。

「ユーレアス!」
「ノア! 動いてはだめだよ」

 僕はワイバーンの群れを斬り裂いていく。
 なるべく手早く終わらせたつもりでも、振り向けば彼はいない。
 魂の痕跡を追えなくもないけど、ノアを連れているし、深追いは禁物だと判断した。

「ねぇ、ユーレアス……あの人は誰なの?」
「うん、そうだね。僕と同じ眼を持っていて、魂を悪用する罪人だよ。イルから捕まえるように頼まれていたんだ」

 ノアへの説明を簡単に済ませ、僕らは街へと帰還した。
 
 その日の夜。
 彼女が眠っている間に一人、僕は外へ出る。
 人気のない場所で立ち止まると、空から一羽のフクロウが近寄ってきて、僕の肩に停まった。

「ごめん、イル。取り逃がしちゃったよ」
「構わないわ。むしろ貴方はよくやってくれた方よ」

 このフクロウはイルの使い魔だ。
 冥王である彼女は、無条件で現世に姿を現すことが出来ない。
 使い魔を通して、彼女は現世の様子を見ている。

「それにしても驚かされたわね。ダミーの魂とか」
「うん。それと普通に強かったよ。不意打ちが決まらなかったら、長期戦になっていたんじゃないかな」

 もう同じ手は通用しないだろう。

「奴はお前を狙うわよ? わかっているわよね?」
「もちろんさ。まぁ口ぶりからして、明日明後日の話ではなさそうだけどね」
「ええ、今後は貴方の周りを使い魔に監視させるわ」
「助かるよ。あと、出来れば先に居場所を見つけてほしいな」
「それもするわ」

 僕らの旅を脅かす存在。
 いつか僕は、己の魂を天秤にかけて戦う日が来るのだろう。
 中々どうして……嫌な未来だ。

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