45 / 50
45.一人ぼっち
しおりを挟む
半日かけて宿屋に戻って、疲れからすぐに眠ってしまった。
優しい歌が聞こえた気がする。
これまで何度か見てきた夢の続きを、私は見せられていた。
私だけど、私じゃない誰かが抱いた想い。
ユーレアスと過ごした時間は淡く虚ろで、幻想のようだと思えてしまう。
でも、目を開ければ現実に戻る。
そこには彼がいて、優しい微笑みを見せてくれる。
そう、思っていたんだ。
「どう……して……」
机の上には書置きだけが残されていた。
そこに書かれていたのはたった一文。
全部終わらせてくるから、君は待っていておくれ――
こんなことは初めてだ。
自由奔放で勝手な人だということは知っている。
それでも、五年間一緒に旅をしてきて、一度もなかったんだ。
私を置いてどこかへ行ってしまうなんて。
「……探さなきゃ」
「当てもなくか?」
不意に聞こえてきた女の人の声。
私はその声を知っている。
窓のほうに目を向けると、一羽のフクロウが止まっていた。
瞳の色が独特で、呑み込まれそうなほど濃い。
「冥王……様?」
「いかにも。久しぶりね、ユイノア。今はノアだったかしら」
冥界の女王イルカルラ。
彼女が私の前に現れたことも、これが初めてだった。
その時点で、簡単には解決しない問題があることを察する。
だけど、私は黙っていられない。
「冥王様! ユーレアスはどこにいるんですか? 何があったんですか?」
「ちょっ、いきなりトップギアで話さないでくれるかしら? ちゃんと教えてあげるから落ち着きなさい」
「は、はい……すみません」
「まったくもう、彼のことになると人が変わるわね。まぁそれは彼も同じだけど」
冥王様は呆れてため息を漏らす。
ソワソワしている私に、彼女はゆっくりと説明を始める。
「先に言っておくけど、追うことはお勧めしないわ。彼が貴女を置いていった一番の理由は、貴女を危険にさらせたくないからよ」
「私を?」
「ええ。貴女も見たはずよ、二人の戦いを」
私は冥王様から、シリスのことを教えられた。
五年前に彼女から受けていたおつかいの内容が、これでハッキリした。
そして今回の件も、シリスが関わっているらしい。
「あの日以降、ワタシが使い魔を駆使して世界中を探し回ったわ。そうしてやっと見つけたのよ」
シリスは、ここから西へ向かった森の奥地にいる。
なぜかそこから動こうとしない。
使い魔で探りを入れようと近づくと、彼に察知され潰されてしまうから、何をしているのかは不明という。
「結論だけ先に言うとね。彼はシリスを倒すために森へ向かったわ」
「どうして一人で?」
「さっきも言ったわよ。貴女を危険にさらしたくないから、あとは……自分が死ぬかもしれない相手だからね」
「死ぬ……えっ? ユーレアスが?」
死ぬかもしれない?
それはおかしい。
だって彼は、彼の身体は――
「そう、不死身よ。でも相手はソールイーターを持っているわ」
ソールイーター。
魂を斬り裂く力を持った武器。
ユーレアスの持つ大鎌がそれに該当する。
シリスは大昔に先々代の死神を殺し、魂と武器を奪いとっている。
元々彼は、魂に触れる力を持っていた。
つまり、この世でただ一人、シリスはユーレアスを殺せる。
彼の持つ大剣は、ユーレアスの魂に届く。
「そんな……でもユーレアスなら負けない。彼より強い人なんて、この世にはいない」
「いいえ、今回の相手はわからないわ。何せ同じ力を持ち、彼より前の時代から生きている男よ。だから彼も、負ける可能性を考えていた。そうなったとき、貴女だけでも生き残れるようにと」
これが最善の選択。
彼は刺し違えてでも、シリスを倒すつもりだった。
「そんなの……嫌だよ。もし帰って来なかったら……」
彼のいない世界で、私一人で生きていく?
そんなの無理だ。
きっと耐えられなくて、全部を投げ出す。
でも、私は足手まといだから、助けに行っても邪魔になる。
今の私に出来ることは、信じて待つことだけ。
「助けたい?」
「えっ……」
自分の無力さを嘆いていた私に、冥王様が問いかけてきた。
「助けたいなら、ワタシが力を貸してあげるわよ」
「できるんですか?」
「ええ。彼には止められているけど。ワタシとしてもね? 彼に死なれると困るのよ。ただしリスクもあるわ。これをすれば貴女は――」
「やります!」
「ちょっ、早いわね」
冥王様が呆れている。
だけど、リスクなんて関係ないと思った。
ユーレアスを助けられるなら、命も身体もかけられる。
「覚悟はあるのね?」
「はい」
「そう。ならこれ以上は聞かないわ。手を出しなさい」
「こうですか?」
右手を差し出すと、フクロウが掌に乗る。
「貴女の魂はね? ずっと昔に彼と会っているの。貴女はもう、気づいているんじゃない?」
夢で見せられた記憶。
あれがそうだというのなら、私はうんと答える。
「転生のとき、魂の記憶はリセットされる。でもね? 完全に消えるわけじゃないの。魂の奥底には、転生前の記憶と力が眠っている。それを今から起こす」
冥王様がいうには、転生前の記憶と力を呼び起こせば、ユーレアスと共に戦えるという。
ただし、別の記憶を呼び起こせば、今の自分が壊れてしまうかもしれない。
記憶と想いがぐちゃぐちゃになって、廃人のようになる可能性がある。
「それでも構わないのね?」
「はい。きっと大丈夫ですから」
なぜだか確信があった。
私なら大丈夫だと……想いは同じだから。
待っていてユーレアス。
今から行くよ。
優しい歌が聞こえた気がする。
これまで何度か見てきた夢の続きを、私は見せられていた。
私だけど、私じゃない誰かが抱いた想い。
ユーレアスと過ごした時間は淡く虚ろで、幻想のようだと思えてしまう。
でも、目を開ければ現実に戻る。
そこには彼がいて、優しい微笑みを見せてくれる。
そう、思っていたんだ。
「どう……して……」
机の上には書置きだけが残されていた。
そこに書かれていたのはたった一文。
全部終わらせてくるから、君は待っていておくれ――
こんなことは初めてだ。
自由奔放で勝手な人だということは知っている。
それでも、五年間一緒に旅をしてきて、一度もなかったんだ。
私を置いてどこかへ行ってしまうなんて。
「……探さなきゃ」
「当てもなくか?」
不意に聞こえてきた女の人の声。
私はその声を知っている。
窓のほうに目を向けると、一羽のフクロウが止まっていた。
瞳の色が独特で、呑み込まれそうなほど濃い。
「冥王……様?」
「いかにも。久しぶりね、ユイノア。今はノアだったかしら」
冥界の女王イルカルラ。
彼女が私の前に現れたことも、これが初めてだった。
その時点で、簡単には解決しない問題があることを察する。
だけど、私は黙っていられない。
「冥王様! ユーレアスはどこにいるんですか? 何があったんですか?」
「ちょっ、いきなりトップギアで話さないでくれるかしら? ちゃんと教えてあげるから落ち着きなさい」
「は、はい……すみません」
「まったくもう、彼のことになると人が変わるわね。まぁそれは彼も同じだけど」
冥王様は呆れてため息を漏らす。
ソワソワしている私に、彼女はゆっくりと説明を始める。
「先に言っておくけど、追うことはお勧めしないわ。彼が貴女を置いていった一番の理由は、貴女を危険にさらせたくないからよ」
「私を?」
「ええ。貴女も見たはずよ、二人の戦いを」
私は冥王様から、シリスのことを教えられた。
五年前に彼女から受けていたおつかいの内容が、これでハッキリした。
そして今回の件も、シリスが関わっているらしい。
「あの日以降、ワタシが使い魔を駆使して世界中を探し回ったわ。そうしてやっと見つけたのよ」
シリスは、ここから西へ向かった森の奥地にいる。
なぜかそこから動こうとしない。
使い魔で探りを入れようと近づくと、彼に察知され潰されてしまうから、何をしているのかは不明という。
「結論だけ先に言うとね。彼はシリスを倒すために森へ向かったわ」
「どうして一人で?」
「さっきも言ったわよ。貴女を危険にさらしたくないから、あとは……自分が死ぬかもしれない相手だからね」
「死ぬ……えっ? ユーレアスが?」
死ぬかもしれない?
それはおかしい。
だって彼は、彼の身体は――
「そう、不死身よ。でも相手はソールイーターを持っているわ」
ソールイーター。
魂を斬り裂く力を持った武器。
ユーレアスの持つ大鎌がそれに該当する。
シリスは大昔に先々代の死神を殺し、魂と武器を奪いとっている。
元々彼は、魂に触れる力を持っていた。
つまり、この世でただ一人、シリスはユーレアスを殺せる。
彼の持つ大剣は、ユーレアスの魂に届く。
「そんな……でもユーレアスなら負けない。彼より強い人なんて、この世にはいない」
「いいえ、今回の相手はわからないわ。何せ同じ力を持ち、彼より前の時代から生きている男よ。だから彼も、負ける可能性を考えていた。そうなったとき、貴女だけでも生き残れるようにと」
これが最善の選択。
彼は刺し違えてでも、シリスを倒すつもりだった。
「そんなの……嫌だよ。もし帰って来なかったら……」
彼のいない世界で、私一人で生きていく?
そんなの無理だ。
きっと耐えられなくて、全部を投げ出す。
でも、私は足手まといだから、助けに行っても邪魔になる。
今の私に出来ることは、信じて待つことだけ。
「助けたい?」
「えっ……」
自分の無力さを嘆いていた私に、冥王様が問いかけてきた。
「助けたいなら、ワタシが力を貸してあげるわよ」
「できるんですか?」
「ええ。彼には止められているけど。ワタシとしてもね? 彼に死なれると困るのよ。ただしリスクもあるわ。これをすれば貴女は――」
「やります!」
「ちょっ、早いわね」
冥王様が呆れている。
だけど、リスクなんて関係ないと思った。
ユーレアスを助けられるなら、命も身体もかけられる。
「覚悟はあるのね?」
「はい」
「そう。ならこれ以上は聞かないわ。手を出しなさい」
「こうですか?」
右手を差し出すと、フクロウが掌に乗る。
「貴女の魂はね? ずっと昔に彼と会っているの。貴女はもう、気づいているんじゃない?」
夢で見せられた記憶。
あれがそうだというのなら、私はうんと答える。
「転生のとき、魂の記憶はリセットされる。でもね? 完全に消えるわけじゃないの。魂の奥底には、転生前の記憶と力が眠っている。それを今から起こす」
冥王様がいうには、転生前の記憶と力を呼び起こせば、ユーレアスと共に戦えるという。
ただし、別の記憶を呼び起こせば、今の自分が壊れてしまうかもしれない。
記憶と想いがぐちゃぐちゃになって、廃人のようになる可能性がある。
「それでも構わないのね?」
「はい。きっと大丈夫ですから」
なぜだか確信があった。
私なら大丈夫だと……想いは同じだから。
待っていてユーレアス。
今から行くよ。
1
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
「君は有能すぎて可愛げがない」と婚約破棄されたので、一晩で全ての魔法結界を撤去して隣国へ行きます。あ、維持マニュアルは燃やしました。
しょくぱん
恋愛
「君の完璧主義には反吐が出る」――婚約者の第一王子にそう告げられ、国外追放を命じられた聖女エルゼ。彼女は微笑み、一晩で国中の魔法結界を撤去。さらに「素人でも直せる」と嘘を吐かれた維持マニュアルを全て焼却処分した。守護を失いパニックに陥る母国を背に、彼女は隣国の軍事帝国へ。そこでは、彼女の「可愛くない」技術を渇望する皇帝が待っていた。
異世界召喚されたアラサー聖女、王弟の愛人になるそうです
籠の中のうさぎ
恋愛
日々の生活に疲れたOL如月茉莉は、帰宅ラッシュの時間から大幅にずれた電車の中でつぶやいた。
「はー、何もかも投げだしたぁい……」
直後電車の座席部分が光輝き、気づけば見知らぬ異世界に聖女として召喚されていた。
十六歳の王子と結婚?未成年淫行罪というものがありまして。
王様の側妃?三十年間一夫一妻の国で生きてきたので、それもちょっと……。
聖女の後ろ盾となる大義名分が欲しい王家と、王家の一員になるのは荷が勝ちすぎるので遠慮したい茉莉。
そんな中、王弟陛下が名案と言わんばかりに声をあげた。
「では、私の愛人はいかがでしょう」
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
【完結】経費削減でリストラされた社畜聖女は、隣国でスローライフを送る〜隣国で祈ったら国王に溺愛され幸せを掴んだ上に国自体が明るくなりました〜
よどら文鳥
恋愛
「聖女イデアよ、もう祈らなくとも良くなった」
ブラークメリル王国の新米国王ロブリーは、節約と経費削減に力を入れる国王である。
どこの国でも、聖女が作る結界の加護によって危険なモンスターから国を守ってきた。
国として大事な機能も経費削減のために不要だと決断したのである。
そのとばっちりを受けたのが聖女イデア。
国のために、毎日限界まで聖なる力を放出してきた。
本来は何人もの聖女がひとつの国の結界を作るのに、たった一人で国全体を守っていたほどだ。
しかも、食事だけで生きていくのが精一杯なくらい少ない給料で。
だがその生活もロブリーの政策のためにリストラされ、社畜生活は解放される。
と、思っていたら、今度はイデア自身が他国から高値で取引されていたことを知り、渋々その国へ御者アメリと共に移動する。
目的のホワイトラブリー王国へ到着し、クラフト国王に聖女だと話すが、意図が通じず戸惑いを隠せないイデアとアメリ。
しかし、実はそもそもの取引が……。
幸いにも、ホワイトラブリー王国での生活が認められ、イデアはこの国で聖なる力を発揮していく。
今までの過労が嘘だったかのように、楽しく無理なく力を発揮できていて仕事に誇りを持ち始めるイデア。
しかも、周りにも聖なる力の影響は凄まじかったようで、ホワイトラブリー王国は激的な変化が起こる。
一方、聖女のいなくなったブラークメリル王国では、結界もなくなった上、無茶苦茶な経費削減政策が次々と起こって……?
※政策などに関してはご都合主義な部分があります。
【完結】聖女レイチェルは国外追放されて植物たちと仲良く辺境地でサバイバル生活します〜あれ、いつのまにかみんな集まってきた。あの国は大丈夫かな
よどら文鳥
恋愛
「元聖女レイチェルは国外追放と処す」
国王陛下は私のことを天気を操る聖女だと誤解していた。
私レイチェルは植物と対話したり、植物を元気にさせたりする力を持っている。
誤解を解こうとしたが、陛下は話すら聞こうとしてくれない。
聖女としての報酬も微々たる額だし、王都にいてもつまらない。
この際、国外追放されたほうが楽しそうだ。
私はなにもない辺境地に来て、のんびりと暮らしはじめた。
生きていくのに精一杯かと思っていたが、どういうわけか王都で仲良しだった植物たちが来てくれて、徐々に辺境地が賑やかになって豊かになっていく。
楽しい毎日を送れていて、私は幸せになっていく。
ところで、王都から植物たちがみんなこっちに来ちゃったけど、あの国は大丈夫かな……。
【注意】
※この世界では植物が動きまわります
※植物のキャラが多すぎるので、会話の前『』に名前が書かれる場合があります
※文章がご都合主義の作品です
※今回は1話ごと、普段投稿しているよりも短めにしてあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる