異世界生まれの鍛冶屋さん ~理不尽にクビ宣告された宮廷鍛冶師、敵国の魔王様にスカウトされ自分のお店を開業する~

日之影ソラ

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 私はグレン様に連れられお城の中を歩く。
 どこへ向かっているのだろう?
 廊下を通り過ぎる通行人たちが、グレン様に頭を下げる。
 当然、私に視線が向く。
 あの娘は誰なのだろう。
 心の中でそう思われているのがわかって、なんだか落ち着かない。

「あ、あの、グレン様、どちらに向かわれているのですか?」
「しばらくお前が過ごすことになる客室だ」
「私の?」
「ああ。お前の願い、店を用意するための時間、少し待っていてもらいたくてな」
「そこまでして頂かなくても……」
「そこまで? 未来の花嫁に衣食住を提供する。この程度のことはして当然だ」

 は、花嫁……。
 気が早いというか、そのワードは少し恥ずかしい。
 何の臆面もなく、本心から口にしている。
 たった一文に、グレン様の心の広さと強さが伺えた。

「それとも、当てがあったか?」
「いえ、特に」
「なら素直に甘えておけ」

 確かにありがたい話だった。
 毎回宿を探すのも大変だし、お金だって無限じゃない。
 ただ、いきなりお城に住むというのは、やっぱり少し緊張する。
 知らない国、知らない街、他人ばかりが暮らす場所。
 私一人がぽつりと浮いている感覚。
 周りの人たちは、私のことをどう思うだろうか。
 王女様のように、気に食わないと思われたら大変だ。
 果たして馴染むことができるだろうか。
 
「安心しろ。どこかの国と違って、意地悪な奴はここにはいない」
「――!」

 私の心を見透かすように、グレン様が呟いた。
 驚いた私に、グレン様は呆れたように笑って言う。

「顔に出ていたぞ」
「うっ……すみません」
「ははっ、素直なのはいいことだ。口に出せればもっといいがな」
「口に出して、いいんでしょうか」
「思っているだけでは何も変わらない。口に出し、行動することで道は切り開かれる。お前は我慢をし過ぎる。それはあまり褒められたことじゃないぞ?」
「……はい」

 我慢しなくていい、そう言ってくれている。
 グレン様なりの優しさか、そういう生き方を彼がしてきたからこその助言なのか。
 どっちでもいい。
 その言葉に、少しだけ心が軽くなる。
 もちろん、緊張がなくなったわけじゃないけど。

「どちらに行かれていたのですか? 陛下」
「――!」

 唐突に、廊下を歩いている私たちの背後から声が聞こえる。
 グレン様を呼ぶ声は、少し高めの男性の声だった。
 ビックリして私は振り返る。
 そこに立っていたのは、黄緑色の髪が特徴的な美男子で、飽きれたようにため息をこぼしている。
 黒縁のメガネをかけているのも印象的だ。

「ん? ああ、レーゲンか。今戻った」
「今戻った、じゃありませんよ。いつも言っているじゃありませんか! 何も言わず外を出歩かないでください。いくら陛下でも、何かあったら大……へ?」

 レーゲンと呼ばれていた男性が、私のことに気づいた。
 目と目が合う。
 驚いて固まってしまった彼に、ちょこんと挨拶程度のお辞儀をしてみる。

「……」
「ちょうどいい。紹介しよう」

 グレン様が私のことを話そうとした。
 それより早く、レーゲンさんは瞬時に距離を詰めて、グレン様の眼前に移動する。

「陛下! どこから攫ってきたんですか!」
「え……?」
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