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 その後、用意された朝食を一緒に食べる。
 さすが王家の食事だ。
 私が作る料理とは比べ物にならないほど美味しくて、複雑な味がする。
 量も多くて、朝から満腹になってしまった。

「ご馳走様でした。美味しかったです」
「ありがとうございます。お口にあって何よりです」

 私はシェフの男性にお礼を伝えた。
 食べ終わった殿下が立ち上がり、私のほうへと歩み寄る。

「さて、これから王城を案内しようと思う。どうだ?」
「はい! お願いします」

  ◇◇◇

 グレン様に案内され、場内を紹介してもらうことになった。
 昨日は遅い時間だったから、あまり見て回らなかったし、王城はとても広い。
 迷ってしまいそうだから、案内してもらえるのはありがたい。
 ただ一つ気になったのは……。

「お忙しくはないのですか? お仕事とか」
「心配するな。事務作業はレーゲンに任せてある」
「え、いいんですか?」
「構わん。今はお前のほうが優先だ」

 レーゲンさんの姿が朝から見えないと思っていたけど、まさか仕事を押し付けられているんじゃ……。
 あまり深く考えないようにしよう。

 カン!

 聞き慣れた音が響く。

「今の音……」
「気づいたか? こっちには宮廷がある。鍛冶師もいるぞ」

 ヴァールハイト帝国の宮廷。
 ここで働く鍛冶師はどんな人だろう?
 どんな剣を作るのだろう。
 興味が表情に出て、それをグレン様に気づかれる。

「見に行くか?」
「いいんですか?」
「もちろん。お前に、うちの鍛冶師の指導でもしてもらおうか」
「そ、それは必要ないと思いますけど……」

 宮廷で働く鍛冶師なら、かならず相応の腕を持っているはずだ。
 私みたいな若輩者に教えられることなんてない。
 とにかく興味が湧いた。
 同じ鍛冶師なら、もしかして仲良くなれたりするのかな、とか思う。
 グレン様に案内されて、宮廷の鍛冶場へやってくる。
 少し離れていただけなのに、懐かしい空気と匂いを感じる。

「邪魔するぞ」

 グレン様の声は、鉄を打つ音にかき消された。
 男性は鉄を打ち続けている。
 その後ろ姿は逞しく、肌も焼けている。
 顔は見えないけど、私よりずっと年上の男性なのはわかった。

「相変わらずの集中力だな。ドンダ!」
「――! うるっせぇな! 仕事中に話しかけてんじゃねーよ!」

 大声で呼びかけたグレン様に、鍛冶師の男性はブチ切れた。
 ハンマーを片手に、鬼の形相で振り返り、私と目が合う。

 こ、怖い……。

 まったく仲良くなれそうになかった。
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