異世界生まれの鍛冶屋さん ~理不尽にクビ宣告された宮廷鍛冶師、敵国の魔王様にスカウトされ自分のお店を開業する~

日之影ソラ

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 ヴァールハイト帝国の宮廷鍛冶師は、筋肉質で濃い髭を生やしている男性だった。
 大きな体は筋肉の塊のようで、太い眉毛が吊り上がり、私を睨んでいる。
 とても怖い。
 すごく怖い。
 同じ鍛冶師なのに、私とは大違いだ。

「てめぇ……何勝手に鍛冶場に入ってきてんだ?」
「あ、あの……私も鍛冶師で」
「は? 鍛冶師だぁ? そんな細腕で剣を打てるってか? なめてんじゃねーぞ」
「えっと……」

 言葉と大きな体で詰め寄られる。
 いつの間にか彼は私のほうに近づいていて、手が届く距離に立ち私を見下ろす。
 身長も私よりは高い。
 やっぱり怖い。

「そのくらいにしておけ」

 怯える私を助けるように、陛下が間に割って入る。
 鬼の形相だった鍛冶師の男性は、陛下を見て少し落ち着いた。

「ん? あれ、陛下じゃないですか。いつからそこに?」
「最初からだ。呼びかけたのは彼女じゃなくて俺だぞ」
「え、マジか。嬢ちゃんじゃなかったのか! いやすまん! 早とちりしちまったみてーだ」
「い……いえ……」

 急に態度が軟化して、気の抜けた笑顔を見せる。
 さっきまでとは別人みたいだ。

「まったく、集中しすぎて周りが見えなくなるのは悪い癖だぞ」
「いやーすんませんね。鉄の色と音に集中しねーと、最高のタイミングを逃しちまうんですよ。鍛冶師にしかわかんねーと思いますけどね」
「わからんな。ただ、彼女なら理解できるだろう」
「ん?」

 再び男性鍛冶師の、ドンダさんの視線が私に向けられる。
 威嚇された数秒前のことを思い返し、背筋がびしっと伸びる。

「彼女も鍛冶師だ」
「――! それ、本気で言ってます?」
「ああ。腕も一流、いや、お前よりも上だぞ?」
「ちょっ――」

 こういう職人っぽいタイプの人にそういうこと言っちゃダメですよ!
 私も祖父もそうだったけど、自分の仕事や腕にプライドを持っている人に、挑発するようなセリフは喧嘩になる。
 鍛冶師は特に職人気質の人が多いんだ。
 前世で見学に言っていた鍛冶場の店主もそうだった。
 出会って一分も経っていないけど、この人も間違いなくそのタイプだ。
 
「そいつは……聞き捨てなりませんね。陛下」

 ドンダさんが私を睨む。
 予想通り、彼の鍛冶師としてのプライドを刺激してしまったらしい。
 私は何も言っていないのに、対抗意識を向けられている。

「この嬢ちゃんがワシより上? そんな鉄も打てるかわからん細腕の、しかも女がですか?」
「――!」

 女……。

「その通りだ。何なら試してみるか?」
「陛下にしちゃ、わかりやすい嘘つきますね」
「俺が嘘をついたことが一度でもあったか?」
「……」

 二人の視線が白熱する。
 私を置いて。
 そんな中、二人とは別のことを一人で考えていた。

「いいですよ。ワシより上っていうなら見せてもらいましょうか!」
「ふっ、だそうだが、どうする?」

 グレン様が私に尋ねる。

「勝手に話を進めてすまないが、お前が望まないなら無理にとは言わない」
「――わかりました」
「――! よかったのか?」
「はい」

 即答した私に、グレン様は驚いた表情を見せた。
 話を進めておきながら、私が嫌がると思っていたのだろう。
 その予想は正しい。
 私は争いごとが好きじゃない。
 戦うための道具を作っている癖に、と思われるかもしれないけど、剣が簡単に命を奪える道具だからこそ、使い方を考える必要がある。
 剣の重さは、そのまま命の重さなのだから。
 剣は剣だ。
 どう使うかは、持ち主次第で私が口を出すべきことじゃない。
 それでも私は、争いが嫌いだ。

 でも、女の癖にと言われるのは、もっと嫌いだった。
 前世でも言われた。
 女のくせに刃物が好き、鍛冶師になりたいなんて変な奴だと。
 最初は気にならなかったけど、ずっと言われ続けていたら、嫌でも意識してしまう。
 女だからなんだ?
 なりたい物は自由だし、そこに性別は関係ないだろう。
 
 恐怖より、やる気のほうが強くなる。
 すると不思議と、ドンダさんと視線を合わせるのが怖くなくなった。

「女でも、最高の剣は打てます」
「――! へぇ、いい眼するじゃねーか。嬢ちゃん、名前は?」
「ソフィアです。鍛冶場、お借りしますね」
「おう。見せてみな! 陛下が大法螺吹きか、それとも……本物かどうか。そいつの続きを打ってくれ」

 ドンダさんは指をさす。
 さっきまで打ち続けていた鉄の塊を。
 
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